真山仁(まやま・じん) 小説家
1962年、大阪府生まれ。同志社大学卒。新聞記者、フリーライターを経て2004年、『ハゲタカ』でデビュー。同シリーズのほか、『マグマ』『黙示』『そして、星の輝く夜がくる』『売国』『当確師』『オペレーションZ』など、幅広い社会問題を現代に問う小説を発表している。最新刊は、東京五輪を舞台にした国際謀略小説『トリガー』。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
社会や世界の仕組みがわかる小説10冊
私は小学生の頃から、海外ミステリばかり読んできた。
その問いには、作品で答えるべきだろう。
フレデリック・フォーサイスと言えば、1970年代、ドゴール大統領を暗殺する殺し屋を描いた『ジャッカルの日』で、謀略小説の雄として知られている。
そのフォーサイスが、84年に放った『第四の核』は、一冊の本で英国政権を揺るがした。
当時は、サッチャー政権が盤石である一方で、野党労働党は、急進左派が台頭し、急進的な左派のロンドン市長が誕生するなど、国民の中に、不満が充満していた。
もしかすると英国は、左傾国家になるかもしれないと考えたフォーサイスは、労働党が繰り広げる反核運動をソ連が利用し、政権奪取を企むという大胆な小説を発表した。それが、『第四の核』だ。
労働党の党首にソ連のスパイを送り込み、スーツケース核と呼ばれる移動可能の核爆弾を英国に持ち込む。そして、それを爆発させて、ソ連の傀儡政権誕生を目指す――。
いかにも、フォーサイスらしい大胆な設定だ。ただ、先進国病として知られた「英国病」の最中にあった英国は、先進国から脱落する可能性を秘めていた。フォーサイスはそうした社会背景をしっかりと描いて、読者に英国の未来を問うたのだ。
失業率が高く、将来の不安が募る日々の中、過激な革新者が現れると、国民の人気をさらうかも知れない。では、そんな極端に左傾化した人物に英国を託していいのか、と。
フォーサイスが小説を描いて見せた未来予想図に、果たして国民は驚愕し、87年の総選挙で、保守党は当初の予想を遥かに上回る議席を獲得したのだ。
小説は、現実で起きうるかも知れないIfの世界を描くことができる。さらにリアリティがあれば、それは小説の域を超えて
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