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「不自由展」とNHKかんぽ問題

通底するメディアの責任と覚悟

砂川浩慶 立教大学社会学部メディア社会学科教授

インスタントなインタレスト

 では、この「不自由展」を地元ではどうみているのだろうか。40年以上、名古屋をみてきた地元の放送局出身者に感想を聞いた。「美術監督の津田大介氏はジャーナリスティックな視点を持ち込んだ点では意味があったと思う。ただ、東京から来た津田氏にかき回され、それを大村県知事と河村たかし名古屋市長がパフォーマンスに利用したとの図式にも思える」と総括した。「表現の自由」の議論が深まったわけではないという。

 現役の地元テレビ報道局員にも聞いた。

 「中止前は混乱ぶりが、その後は再開する可能性とその時期ばかりが争点だった。背景にある『表現の自由』について視聴者の関心は低い。局内でも報道幹部の『表現の自由』問題の関心は低く、手間ひまかけてやるより、ストレートニュースでインスタント(簡単)なインタレスト(興味・関心)を、という姿勢。腰を据えた取材はできない」「ストレートニュースの原稿は発生ものとして書くが、その背景まで考えることはしない。わかっちゃいるけど、常に追われてこなしている感じ。プロデューサーも深い考えをもって日々の項目を選んでいるわけではなく、他局もみながら流されている」

 全てのテレビ関係者が同じ意見を持っているわけではないと思うが、「簡単な興味・関心」が重視され一般化されているのも事実だ。

「嫌韓」あおったテレビ

 この夏、「嫌韓」をあおるワイドショーや週刊誌が目立った。この問題の根幹は両国政府の対応であるが、事実に基づかないものが多くみられた。小説家の平野啓一郎氏が朝日新聞(2019年10月11日朝刊)で述べているように「韓国の問題になると、メディアは無責任に反感をあおり、嫌悪感や敵意を垂れ流しにしています。元徴用工問題の韓国大法院判決文も読まないような出演者にコメントさせてはいけない。みんなまず、あの判決文を読むべきですよ」。平野氏は徴用工の悲惨な実態を知ることによって「いきなり国家利益の代弁者になって考えるのではなく、まず一人の人間として彼らの思うことが大切です」と述べている。

 日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の終了が決定した8月22日頃(注)からワイドショーを中心に韓国報道が劇的に増えていった。さらに、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の側近である曺国(チョ・グク)氏の不正疑惑については「疑惑の〝タマネギ男〟」などと、一気に過熱、連日の報道となった。問題はその中で明らかな「嫌韓」にシフトしたコメントがみられたことだ。

 8月27日放送のTBS系「ゴゴスマ」(名古屋CBC制作)では、韓国で日本人女性が暴行を受けた事件を取り上げた際、コメンテーターの武田邦彦・中部大学特任教授が「日本男子も韓国女性が入ってきたら暴行せにゃいかんのやけどね」と発言。その前には「女性観光客をその国の男が襲うなんて、世界で韓国しかありませんよ」とも述べ、複数の共演者から制止されていた。8月30日の放送ではMCの石井亮次アナウンサーは「今週火曜日(27日)にゴゴスマで放送した日韓問題のコーナーについて、ゴゴスマとしてはヘイトスピーチをしてはいけないこと、ましてや犯罪を助長する発言は人として許せないことと考えています。ゴゴスマとしては、ヘイトや犯罪の助長を容認することはできません。番組をご覧になって不快な思いをされた方々にお詫び致します」と述べた。武田氏は東京メトロポリンタンテレビで放送され問題となった「ニュース女子」にも出演

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筆者

砂川浩慶

砂川浩慶(すなかわ・ひろよし) 立教大学社会学部メディア社会学科教授

1963年生まれ。早稲田大学教育学部卒。86年、日本民間放送連盟に入り、2006年まで放送制度や著作権、機関紙記者、地上デジタル放送などを担当。同年、立教大学に移り、16年から現職。放送制度・産業論、ジャーナリズム論など研究。著書に『安倍官邸とテレビ』(集英社新書)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです