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トゥンベリさんから火 なぜ彼らは怒るのか

石井徹 朝日新聞編集委員(環境・エネルギー担当)

上昇2度未満でも危険

 科学と政治の「仲介役」であるIPCCは、「科学的厳密性と政治的中立性」を守るために「政策提言はしない」のが原則だ。IPCCには化石燃料を売り続けたい国や温暖化を否定する科学者も参加しており、報告書の要約はすべての国が科学的に認めざるを得ない最大公約数と言っていい。実際に温暖化の進行や影響は、ほぼIPCCの指摘通りになっている。だが、温暖化対策を渋る勢力から「政治的すぎる」と批判されたり、スキャンダルを仕掛けられたりするなど、科学は常に脅かされてきた。

 そのIPCCがパリ協定の発効後の昨年10月にまとめたのが、「1.5度特別報告書」だ。0.5度の差はわずかにも思えるが、世界の気温上昇を1.5度未満に抑えれば、2度未満の時に比べて、極端な高温や豪雨、海面上昇のほか、生態系や人間の生活などのリスクが格段に減ることが示された。ただ、このままでは2030年にも1.5度に達する恐れがある。もはや2度は安全な世界とは言えない。1.5度未満に抑えるには、2020年ごろには世界の温室効果ガス排出量はピークを迎え、30年に45%削減、今世紀半ばに「実質ゼロ」にしなければならないという。にもかかわらず、排出量が下降に転じる見通しは、見えない。

 IPCC以外にも、気になる最新の研究がある。気温上昇が2度前後になると、温暖化に歯止めが利かなくなる恐れがあるという。海や氷、森、土などの自然は、人間などの生物にとって住みやすい気温に地球環境を維持してくれている。自然の回復力によって、多少の変化なら元に戻すことも可能だ。が、ティッピングポイント(閾値)を超えると、後戻りできなくなり4度や5度まで上がる可能性がある。ドミノ倒しのスイッチが入るのが、2度ぐらいらしいのだ。

 SFやホラー映画の話ならいい。だが、信頼のおける部類の科学者が出した予想である。パリ協定で決めた「2度目標」すら難しいのに、1.5度を達成しようとすれば、各国は削減目標を引き上げなければならない。だが、自らの削減目標を引き上げようとする国は少ない。特に大国には。まじめに削減に取り組んでいるようにも見えない。米国はパリ協定から離脱すると言っている。日本は温暖化の元凶とも言える石炭火力発電所を建て続けている。子供たちは生まれた時から気候危機の下で生きることを運命づけられている。怒らない方が不思議だ。「なぜ、ずっと前から分かっていたのに動かなかったのか」、「なぜ、ここまできて動こうとしないのか」と。

言いたいことを言っていい

拡大「Fridays For Future Japan」と記されたボードを示し、温暖化対策を訴える学生ら=2019年2月22日、東京都千代田区の国会議事堂正門前

 トゥンベリさんがたった一人で始めた「気候のための学校ストライキ」、または「Fridays For Future(未来のための金曜日)」の運動は、瞬く間に世界の若者へと広がった。日本で最初の行動は今年2月22日にあり、国会議事堂正門前に約20人が集まった。報道陣の方が多かった。就職活動中の女子大学生が「人からどう思われようが私たちは声をあげる」と書いたプラカードを手にしていたのが気になった。彼女は「日本では、デモやアクションに参加すると就活に響くと言われますが、

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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境・エネルギー担当)

1960年、東京都生まれ。上智大学卒。コピーライターを経て85年朝日新聞社入社。盛岡支局、成田支局、社会部、千葉総局デスク、青森総局長などを歴任。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、気候変動や生物多様性などの環境問題とエネルギー問題を中心に取材・執筆している。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです