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後退続く先進各国のデモクラシー

中間層縮小でソフトな権威主義台頭

吉田徹 北海道大学教授

 2016年6月にイギリスが国民投票でEU離脱を決め、同年11月にトランプがアメリカ大統領に当選してから、早くも4年が経とうとしている。こうして冷戦終結から30年を経て、世界のデモクラシーは大きな揺らぎを見せている。1989年11月にベルリンの壁が崩壊し、「民主主義の勝利」が確実になったかに見えたが、近年になり民主主義の「後退(decay)」や「衰退(backsliding)」「劣化(erosion)」「反動(backlash)」などが指摘されるようになった。

 例えばフランスのマクロン大統領は最近、英誌のインタビューに答えて「1990年から2000年代までは『歴史の終わり』という、民主主義の際限ない拡大と西側の価値観こそ普遍的だとの考えが広がったが、21世紀に入りそれが間違いだったことが判明した」と指摘している(注1)。その「歴史の終わり」を唱えたフランシス・フクヤマも、「25年前に民主主義が後退するという認識も理論も持ち合わせていなかった」と反省の弁を述べるようになった(注2)

 つまり目の前に広がりつつあるのは、戦後期を永らえ、冷戦に勝利したかに見えるリベラル・デモクラシー体制の動揺だ。

 本稿では、2020年代の民主主義の行方を占うことを目的に、まず、この民主主義の揺らぎが実際に何を意味しているのかを精査し、それが何に起因するのかについての仮説を提示した上で、日本も視野に入れつつ、民主主義が歴史的に意味してきたことを問うこととしたい。

注1 Emmanuel Macron warns Europe: NATO is becoming brain-dead, The Economist (online)
注2 The man who declared the 'end of history' fears for democracy's future, The Washington Post (online)

10年で民主主義の度合い低下

 民主主義後退の現状を把握するため、まずはいくつかの指標や事例を確認しておきたい。

 スウェーデンの調査機関V-Dem研究所は、定期的選挙、市民的自由、政治参加、熟議、平等主義の五つの指標に基づいて、各国の民主主義の度合いを毎年指標化している。その2019年報告書によれば、世界99カ国で民主主義が機能している一方、24カ国(世界人口比で3分の1)で権威主義政治の台頭が進んでいるとしている(注3)

 過去10年(2008~18年)でみると、民主主義の度合いを大きく低下させているのは、アメリカ、チェコ、ブラジル、ポーランド、ブルガリア、ハンガリー、インド、セルビア、ウクライナ、トルコ、タイなどだ。

 これらの国の民主主義の度合い低下に貢献している変数は、表現の自由と民主的討議、選挙への介入、法の支配の側面である。メディア介入や人事を用いた司法権の制約などによって、与党支配を強めていっているのは、アメリカやハンガリーに特徴的だ。ロシアや中央アジア諸国のように、定期的選挙を実施しつつも、選挙介入や野党勢力への攻撃によって政権が維持される国を「競争的権威主義」体制と呼ぶが、これに分類される国も、増加傾向にある。

 興味深いのは、1990年代末から2012年頃に続いて、2010年代後半は権威主義国が増加する「権威主義の第三の波」を経験していると同報告書が指摘していることだ。いわば、現在は民主主義後退の循環的な局面にあるとの認識だ。

 同様に、英『エコノミスト』誌の調査機関EIUは、世界167カ国を対象にその民主主義の質を指数化しているが、2018年はうち20カ国(12%)が「完全な民主主義」、55カ国(33%)が「欠陥のある民主主義」、39カ国(23%)が「混合政体」、53カ国(32%)が「権威主義体制」に分類されている(注4)

 地域別にみた場合、過去10年で東欧、南米、北米、西欧での民主主義指数が低下している。アメリカは、2016年(すなわちトランプ政権誕生以前)に「完璧な民主主義」から「欠陥のある民主主義」に格下げとなっているほか、フランス、イタリア、ポルトガルといった西欧諸国も「欠陥のある民主主義」に認定されていることが特徴的だ(なお日本のランキングは22位で、欠陥のある民主主義に分類されている)。

注3 V-Dem Annual Democracy Report, 'Democracy Facing Global Challenges', 2019.
注4 Economist Intelligence Unit, 'Democracy Index 2018: Me too? Political participation, protest and democracy', 2019.

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筆者

吉田徹

吉田徹(よしだ・とおる) 北海道大学教授

1975年生まれ。慶応義塾大学法学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。学術博士。専門はヨーロッパ政治史、比較政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、『ポピュリズムを考える』(NHKブックス)、『感情の政治学』(講談社選書メチエ)、『「野党」論』(ちくま新書)など。