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トランプ時代に進む米国の地殻変動

「保守」と「リベラル」共に変容

中山俊宏 慶應義塾大学総合政策学部教授、日本国際問題研究所上席客員研究員

 いまアメリカで起きている事態を描写するとき、大きなイデオロギー的な変動が起きつつあると述べてもおそらく大袈裟ではない。その変動は、「トランプ現象」そのものであるというより、トランプ現象に帰結した一連の動きの集積だと理解した方が適切だ。つまりその兆候はトランプ以前にもあり、その影響はトランプ以降も続くということだ。トランプ現象という固有の現象、もしくはドナルド・J・トランプという異形のリーダーがそれを増幅させたことは間違いないだろう。しかし、トランプ現象とそれに抗する現象は、集積した変動のエネルギーを既存の枠組みで支えることができなくなり、それが一気に噴出したと解することも可能だろう。

拡大ホワイトハウスで共同会見に臨むトルコのエルドアン大統領(左)とトランプ米大統領=2019年11月13日、ワシントン

 一連の変動の起点をどこにおくかを定めるのは必ずしも容易ではないが、振り返ってみるとそれを9・11テロ攻撃前後の時期とするのが一番説得的であるように思える。アメリカは過去20年間、世界を驚かし続けてきた。2001年には保守色の強いジョージ・W・ブッシュ政権が発足、その勝利は「恒久的共和党多数派体制(permanent Republican majority)」の確立と位置づけられ、1964年のゴールドウォーター・キャンペーン以来の悲願であった「保守革命」が実現したと評された。9・11テロ攻撃は、アメリカをしてかつてみられなかったほど歯止めのきかない予防的な介入主義の方向に舵を切らせた。アメリカを頂点とする「単極世界(unipolar world)」の中でアメリカを制止できる存在はなく、世界をアメリカの姿に似せて作り変えることによって脅威を除去するという剥き出しのアメリカニズムをブッシュ政権は選択した。それは新保守主義(ネオコンサーバティズム)の「再台頭」として語られたが、この時期の「ネオコン」は、9・11テロ攻撃と単極世界という特殊な状況の中で生起した固有の現象として捉えるべきであり、冷戦時代のそれとのつながりはあるとはいえ、両者は質的には別のものと解すべきだろう。

 しかし、イラクへの介入は、アメリカを頂点とする単極世界が思いのほか脆弱であったことを世界に知らしめることになる。この単極世界は、巨視的に見れば、冷戦の終焉からイラクへの介入前後までのわずか12年強続いたに過ぎず、瞬き程度の期間でしかなかったことになる。「アメリカ後の世界」(ファリード・ザカリア)をアメリカはどのように受け入れるのか。それに対する返答が、初のアフリカ系アメリカ人の大統領であるバラク・フセイン・オバマの選択だった(と少なくとも当時はそう受け止められた)。世界との関わり方を捉え直し、アメリカの自画像を刷新することを掲げたオバマ大統領を躊躇することなく選択したアメリカは、「変化」「多様性」「共存」の方向に大きく舵を切ったかに見えた。しかし、「変化」と「多様性」の称賛は、「オバマ的なるもの」に対する反動をも生み出すことになる。ティーパーティー運動だ。「オバマ的なるもの」そのものに牙を剥いて襲いかかったティーパーティー運動は、16年のトランプ現象の予兆でもあった。

 こうして過去20年間、アメリカはその都度「歴史的変動」と形容しうる変化を体験してきた。トランプ現象(そして、それに抗する動き)も、こうした一連の流れの中で捉えなければならないだろう。

 では地殻変動はどのような次元で発生しているのだろうか。一貫して進行している事態として「政治的二極分化」が挙げられる。共和党は保守色を強め、民主党の方は、90年代には、それ以前の時代の左傾化の揺り戻しで穏健化していたものの、2000年代半ばからはっきりとリベラル色を強めている。しかし、いまやこの「保守(conservative)」と「リベラル(liberal)」という言葉が指し示す意味内容自体が大きく変わり、いまや「共和党が保守化している」、もしくは「民主党がリベラル色を強めている」と論じただけではどのような変化が起きているかがわかりにくい。以下、この両概念がどのように変容したかを考察する。

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筆者

中山俊宏

中山俊宏(なかやま・としひろ) 慶應義塾大学総合政策学部教授、日本国際問題研究所上席客員研究員

青山学院大学国際政治経済学研究科博士課程修了。博士(国際政治学)。ワシントン・ポスト紙極東総局記者、国連代表部専門調査員、津田塾大学准教授、青山学院大学教授などを経て現職。著書に『アメリカン・イデオロギー』『介入するアメリカ』(ともに勁草書房)などがある。