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中国から見た2019年、そして20年

もう一つの「世界」創造に向けての試練

川島真 東京大学大学院教授

アメリカの秩序への挑戦

 中国外交にとって、2019年は米中対立という四文字が最も重要な課題であったかもしれない。だが、むしろ重要なのは、米中対立の下にあっても、従来の国家目標を変更せず、引き続き中国自身の「世界」を創造することを継続し、たとえ表面的にであれ強硬姿勢を崩さず、それどころかアメリカとの対抗軸を一層明確にできたことだろう。そしてそれは、むしろ自信につながったのではないかと思われる。

拡大G20サミットで顔を合わせたトランプ米大統領と中国の習近平国家主席=2019年6月28日、大阪市

 16年7月、中国はアメリカの秩序への挑戦を明確にした。パックスアメリカーナを「世界秩序」という言葉で表現し、その三要素である国際連合、アメリカと安全保障同盟、西側の価値観のうち、中国としては国際連合という部分しか支持しないと、政府高官が習近平の言葉として明言したのである。そして、17年秋の第19回党大会に際しては、2049年にアメリカに追いつくと国家目標を明確にし、世界に新型国際関係を出現させるとするなど、将来の世界像も示した。さらに、18年に米中対立が激化してから、中国はアメリカを保護主義だと批判し、自らを既存の「自由で開かれた」国際経済貿易秩序の擁護者だというようになった。この基本線を中国は変えないままに19年を終えることができた。

 そして、アメリカの覇権の中枢であるドル決済網やそれを支える銀行の金融ネットワークを横目に、中国発の電子マネーが国際的な広がりを見せ、海底ケーブルや衛星網を拡大させて、アメリカの提供する国際公共財の外側に新しい「インターネット圏」を形成しつつある。5Gに至っては、様々な問題はあるものの、19年から社会実装を本格化している。これはまさに、アメリカあるいは西側諸国が管轄、管理する「世界」に代わる、もうひとつの「世界」を創造する試みだった。

 外交面でも、巨額投資に対して中国国内から反発を受けながらも、一帯一路の下でのインフラ建設を比較的順当に推し進め、太平洋諸国やラテンアメリカなどにも進出を強めることに成功した。国際社会からの「債務の罠(わな)」などの面での批判を受けながらも、依然として低開発国からの期待は大きい。

 大国間関係についても、アメリカとの対立はあるが、第三の経済大国である日本との関係改善は中国からすれば大きな成果であり、ロシアとは関係を強化し、アメリカによる中距離核戦力(INF)全廃条約破棄によって、むしろ中ロ同盟形成の話さえ出るようになっている。欧州との関係は多様だが、イタリアが一帯一路を支持したことなどもあり、相応の成果をあげた。

 だが、香港問題は国際的にも問題視されている。新疆ウイグル自治区の問題も同様だ。18年以来、特に欧米での対中批判が強まる中で、香港問題や新疆問題はその批判に拍車をかけることになったし、何よりも台湾問題については一層その「解決」が遠のいた。中国の「国内」問題が容易に国際問題化する、ということもまた19年の中国が直面した問題であっただろう。

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筆者

川島真

川島真(かわしま・しん) 東京大学大学院教授

1968年生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学。博士(文学)。北海道大学助教授などを経て現職。専門はアジア政治外交史。著書に『21世紀の「中華」―習近平中国と東アジア』(中央公論新社)、『中国のフロンティア―揺れ動く境界から考える』(岩波新書)など。