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大学入試は何を問うべきか

「学力の三要素」を批判的検討

南風原朝和 東京大学名誉教授

 2021年4月に入学する学生を選抜する大学入試(2021年度入試)では、いろいろな新しいことが起きることになっていた。

 まず、大学入試センター試験に代わって「大学入学共通テスト」が導入される。そして、その中の国語と数学では、マークシート式問題に加え、初めて記述式の問題が導入されることになっていた。記述式問題の採点は民間の事業者に委託され、事業者は学生アルバイトを含む約1万人の採点者を雇用してその任務にあたることになっていた。また、英語についてはTOEFL等、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を評価する国内外の資格・検定試験が共通テストの枠組みで実施され、各大学の判断で共通テストの英語と資格・検定試験のいずれか、または双方を選択利用することとなっていた。

 しかし、記述式問題の導入は、主に50万人もの受験生の解答を正確に採点することが難しいという理由で2019年12月に見送りとなった。また、英語の資格・検定試験の共通テストの枠組みでの利用も、これはそれぞれの試験の受験者数が確定せず、確実に試験会場や監督者等を確保できる見通しが立たないということが主な理由で、2019年11月に延期の決定がなされた。一方、「大学入学共通テスト」という新しい名称の共通テストはいまのところ、2021年1月に初実施される予定である。

 このような前例のないゴタゴタ劇の後、2020年1月に、文部科学省は「大学入試のあり方に関する検討会議」を設置し、今後に向けての議論を始めたところである。本稿では、このような流動的な状況において、「そもそも大学入試では何を問うべきか」という根源的な問いについて考察する。

本来、各大学が主体的に

拡大英語の民間試験を受ける高校生らを特定するための「共通ID」の申込書。受け付けが始まる予定だったが、中止に

 この問いに対する私の考えは、以下のようにシンプルである。

 「入試で何を問うかは、各大学がその大学で学ぶのに何が必要かという観点から、高等学校学習指導要領の範囲内で主体的に定める。大学間で共通する内容については、協力して共通のテストを作成・実施することにより、評価の効率と質を高める」

 これはあえて言う必要もないほど、当たり前のことのように聞こえ、大学入試の現状をそのまま述べたものと思われるかもしれない。しかし、実際には、各大学が入試で問う内容を主体的に決めることが難しい状況にある。以下に述べるように、国による「評価の統一化」への圧力、具体的には、いわゆる「学力の三要素」の押し付けがあるからである。

 毎年の大学入試にあたって、文部科学省高等教育局長から「〇年度大学入学者選抜実施要項」という通知があり、私立大学を含む各大学は、この要項に基づいて選抜を実施することになっている。2021年度入試については、例年通りであれば2020年6月に通知があるが、冒頭で紹介したように共通テスト関係で大きな変化が予定されていたことに加え、個々の大学が実施する個別試験に対しても新たな要請があったことから、2017年7月に「2021年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」が出されている(年度は「平成33年度」と表記されていたが、西暦で統一する。以下も同様。なおこの予告には2018年10月に「改正」が出ている=注1)。

 その予告では、最初の「趣旨」の項に以下のように記載されている。

 最終報告を踏まえ、各大学の入学者選抜において、卒業認定・学位授与の方針、教育課程編成・実施の方針を踏まえた入学者受入れの方針に基づき、「学力の3要素」(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」)を多面的・総合的に評価するものへと改善する。

 ここで「最終報告」とあるのは、2016年3月に出された「高大接続システム改革会議」の最終報告のことである(注2)。上記引用には、「各大学の……方針に基づき」とはあるものの、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」という「学力の三要素」を評価すること、と述べられている(この文書では「3要素」となっているが、本稿では「三要素」で統一する)。

 時間的にはこの「予告」よりも後に出された2020年度の実施要項でも以下の記載があり、「学力の三要素」を大学入試において評価することは、現行の入試についても通知されている(注3)

 能力・意欲・適性等の評価・判定に当たっては、アドミッション・ポリシーに基づき、学力を構成する特に重要な以下の三つの要素のそれぞれを適切に把握するよう十分留意する。(中略)
① 基礎的・基本的な知識・技能(以下「知識・技能」という。)
② 知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力(以下「思考力・判断力・表現力等」という。)
③ 主体性を持ち、多様な人々と協働しつつ学習する態度

 つまり、「大学入試は何を問うべきか」という問いに対し、「学力の三要素」すなわち「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」の三つを問うのだ、というのが文部科学省の公式見解である。本稿ではこの「学力の三要素」の評価をすべての大学に押し付ける方針を批判的に検討し、各大学が入試で問う内容を主体的に決める本来の姿に近づけるための一助となることを目的としている。

(注1) 文部科学省「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告の改正について(通知)」、2018年10月22日
(注2) 文部科学省「高大接続システム改革会議『最終報告』」、2016年3月31日
(注3) 文部科学省「令和2年度大学入学者選抜実施要項について(通知)」、2019年6月4日

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筆者

南風原朝和

南風原朝和(はえばら・ともかず) 東京大学名誉教授

1953年、沖縄生まれ。東京大学教育学部卒業、アイオワ大学大学院教育学研究科修了(Ph.D)。東京大学大学院教育学研究科教授、教育学研究科長・教育学部長、理事・副学長、高大接続研究開発センター長等を経て、現在、広尾学園中学校・高等学校長。日本テスト学会副理事長も務める。著書に『心理統計学の基礎』(有斐閣アルマ)、編著書に『検証 迷走する英語入試』(岩波ブックレット)など。