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縮小する日本をAIで予測 都市集中から地方分散へ

広井良典 京都大学こころの未来研究センター教授

 最初に大きな時代認識を記すと、私は令和という時代において中心的な課題となるのは、「人口減少社会のデザイン」というテーマであると考えている。

 基本的な確認となるが、江戸時代後半の日本は、概ね約3千万人という人口で安定していた。それが、明治の初め以降は人口が急激に増加し、第2次大戦後も同様の増加を続けていった。しかし2005年に初めて人口が減少に転じ、それから数年は上下していたが、2011年からは完全な人口減少に移行し、現在のような出生率(2018年で1.42)が続けば、日本の人口は2050年過ぎには1億人を割り、さらに減少していくことが予測されている(図1)

拡大図1 日本の総人口の長期的トレンド

「拡大・成長」からの解放

 こうして見ると、大きくとらえれば、「昭和」とは〝人口や経済が拡大・成長を続けた時代〟だったのであり、「平成」の間にそれが転機を迎え、そしていよいよ人口減少社会ということが本格化していくのが「令和」時代ということになる。

 あらためて振り返れば、人口や経済が拡大を続けた時代とは、一言で表せば〝集団で一本の道を登る〟時代だったと言える。それは〝一本の道〟であるから、個人の人生ないしライフコースの「多様性」といったことにはあまり関心が向けられず、良くも悪くも集団の同調性や求心性ということが重視された。
加えて、高度成長期を中心とする人口増加の時代は、実は〝すべてが東京に向かって流れる〟時代に他ならず、同時にそれは、日本社会の「集権」的な性格が強固になっていった時代でもあった。

 以上のように考えていくと、私たちが迎えつつあるこれからの人口減少社会とは、そのような〝一本の道〟を登り切り、一定の物質的豊かさを実現したあとに、いわば広い舞台の上で、個人がのびのびとそれぞれの創造性を発揮していく、そうした新たな時代としてとらえられるのではないか。

 あるいは、山登りにたとえるなら、登り道においては「ゴール」は〝山頂〟というただ一つの場所であるが、下りにおいてはその方向はいわば360度に広がり、どこに向かって進むかは文字通り〝多様〟な道となる。

 人口減少社会とは、まずもってこうした視点で把握されるべき社会なのである。


筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授

1961年、岡山市生まれ。東京大学教養学部卒、同大学院修士課程修了。厚生省(現・厚生労働省)、米マサチューセッツ工科大学客員研究員、千葉大学教授などを経て現職。専門は社会保障論や公共政策など。著書に『日本の社会保障』(岩波新書、エコノミスト賞)、『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、大佛次郎論壇賞)、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社)ほか。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです