地元に過重なリスクを負わせる日本政府
2020年05月26日
米軍基地のない秋田で、日米安保条約は遠い存在だ。
基地被害や地位協定といったキーワードを県民が身近に感じる機会は日常、皆無といっていい。
だがこの2年余り、取材の中でその断面はしばしば私の前に見え隠れしてきた。弾道ミサイル防衛のために政府が新たに導入を計画する地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」(地上イージス)の配備問題をめぐってである。
2017年11月11日に読売新聞が朝刊2面で報じた「陸上イージス、秋田・山口に」という特ダネが、われわれにとっての号砲だった。イージス・アショアという耳慣れない兵器についてにわか勉強し、駆け足で県民の反応を取材した記事を、翌日の紙面に載せた。
その後、在京メディア各社の報道は、秋田県内の配備候補地を秋田市の陸上自衛隊新屋(あらや)演習場と名指しするようになっていった。新屋演習場は、日本海に面した南北2キロ、東西800メートルほどの空き地で、すぐそばまで住宅街が広がる。秋田魁新報の本社からも1キロほどしか離れてはおらず、固定的なミサイル発射基地とするには、あまりに市街地に近いというのが率直な印象だっ
た。
脳裏によみがえる光景があった。約8カ月前、この年3月17日に秋田県男鹿市で行われた政府主催の弾道ミサイル避難訓練の様子だ(写真)。
「弾道ミサイルの着弾を想定した全国初の避難訓練」という触れ込みにひかれ、私は取材に行った。北朝鮮による発射実験が繰り返されるさなかとあり、CNNやニューヨーク・タイムズなど海外メディアを含む内外の報道機関約20社が、海辺の小集落に詰めかけていた。
そこで目にした光景は、なんとも異様なものだった。
避難訓練の前に、なぜか予行練習が始まった。公園や道ばたで落ち葉拾いや散歩をしているという想定のお年寄り40人余りが、「先ほどミサイルが発射された模様です」というスピーカーの声に反応する。スタッフがハンドマイクで「この最初の放送では、その場で耳を傾けるということでお願いします」と叫ぶ。指示に従い、参加者は避難先の公民館へ向かう。
一通りの練習が済むと、ようやく本番。全国で初めての「国民保護サイレン」が不気味に鳴り響いたのに続き、つい先刻の動きをお年寄りたちはなぞり、整然と公民館に入っていった。寸劇のような光景を各社のカメラが追いかけた。
何らかの意図を持って演じられたとしか思えないこのイベントはなぜ、全国で初めて秋田で行われたのか。違和感ばかりが残る取材だった。
8カ月後、「陸上イージス、秋田・山口に」という報道に接した私は、イージス・アショアや弾道ミサイル防衛をめぐる直近の動きを調べてみた。次のような流れが
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