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政治部でもない私たちが 「桜を見る会」にこだわる理由

江畑佳明 毎日新聞記者

 安倍晋三氏が病を理由に首相の職を辞し、官房長官だった菅義偉氏が後を継いだ。毎日新聞などによる世論調査では、支持率は64%と高い。なかなか順調な滑り出し、好発進である。

 だが、昨年来多くの批判があった「桜を見る会」について、菅首相は「来年以降中止したい」と述べた。加藤勝信官房長官は過去の問題点の検証について「必要な調査は既に行っている」などと明言し、行わない考えを示した。だが、「中止するんだから、はいもう終わり」と「くさいものにフタ」で済まされるような問題ではない。安倍前首相が辞意を表明した記者会見では「私物化はしていない」としていたが、自身の後援会から何百人も参加者を「募り」、多額の税金を使って接待した事実は「私物化」そのものだ。安倍政権を支えた菅氏には(もちろん安倍前首相にもだが)、今後もさらなる説明が求められている。

 私たち毎日新聞「桜を見る会」取材班は今年2月、『汚れた桜』(毎日新聞出版)を上梓した。「桜を見る会」の問題が昨年11月に国会で取り上げられてから12月末までの取材の記録である。

 出版後に寄せられた読者の感想や、私たちの記事に対するツイッターの反応を改めて振り返ると、なぜ「桜を見る会」が注目を集めたかが見えてくる。その理由は大きく言って二つあると思う。

 一つは、安倍晋三政権の体質が浮き彫りになった事案だ、ということだ。

拡大今年2月に刊行された『汚れた桜』(毎日新聞「桜を見る会」取材班、毎日新聞出版)
 一連の問題を巡っては、①税金の私物化②公選法違反の可能性③招待者名簿の廃棄④ホテルを使った前夜祭の収支が政治資金収支報告書に未掲載、などに注目が集まった。そこに通底しているのは民主主義の根幹に関するものばかりであり、「民主主義の危機だ」と感じたツイッターユーザーが多かったと思う。

 もう一つは、政府(権力)とメディアとの距離についてだ。多くの人々が「マスコミ(特に新聞)は権力のチェック機能を放棄し、ズブズブの関係ではないのか」という不信感を抱いている。後にも触れるが、「桜を見る会」への批判が大きくなっていた昨年11月、首相と各社キャップとの懇談会(いわゆるキャップ懇)が開かれたが、毎日新聞は参加しなかった。これにはツイッターユーザーから支持する意見が多く寄せられた。

 さらに付け加えたい点がある。やや手前みそになるが、新たなジャーナリズムの方向性を示唆できたのかもしれない、という思いだ。ご存じのように新聞各社は発行部数の減少に歯止めがかからない。インターネットの普及などにより、ニュースを得る方法が多様化したため、などといわれるが、要因はそれだけではないと思う。

 新聞はそもそも、読者が知りたいことに応えてきただろうか。例えば政治部なら「衆院解散へ」、社会部なら「逮捕へ」などと、同業他社とのスクープ競争に勝利するのが第一義で、そんな報道が社内で評価されてきた。だがそれは本当に読者の知りたいことだろうか。読者の新聞離れに拍車をかけているのではないか。部数うんぬんの問題とは別に、新聞が世間に相手にされなくなっている気がしてならない。

 そんなおりに、私たちはツイッターの声に敏感になり、ニュースサイトに記事を多く出すことを心がけた。私たちのツイッターアカウントに「応援しています」「頑張ってください」というリプライ(返答)が次々と寄せられた。新聞ジャーナリズムの可能性を感じ、またうれしくも思った。私たちの報道には大きな特ダネがあったわけではない。ただ、これまでの新聞業界の常識とは少し距離を置き、自由な立場で記事を書けたとはいえると思う。

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筆者

江畑佳明

江畑佳明(えばた・よしあき) 毎日新聞記者

1975年、大阪府寝屋川市生まれ。99年入社。山形支局、大阪社会部、東京社会部、夕刊編集部(現・夕刊報道グループ)、秋田支局次長などを経て、2018年秋から統合デジタル取材センター。20年4月から同センター副部長。改憲や人権問題が得意分野。