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改ざん事件の取材で学んだ 報道に巣くう男社会の息苦しさ

相澤冬樹 大阪日日新聞編集局長、記者

 報道界は軍隊がお好き。30年以上、日本で報道の仕事に携わってきて、つくづくそう感じる。

 我々、報道の人間は、特定の持ち場を持たず機動的に動く記者のことを「遊軍」と呼ぶ。事件・事故・災害となると血が騒ぐ。「いくさだ!」一朝事あらば現場に「前線本部」を設け、「前線」に記者を送り込む。その記者のことをしばしば「兵隊」と呼ぶ。「兵隊が足りん! 他社に負けるぞ!!」と叫べば、後方から「援軍」を送り込む。前線の部隊を支える物資補給は「兵站」だ。最近は「ロジ」と呼ぶことも多いが、要するに英語のロジスティクスで軍事用語であることに変わりはない。記者クラブに配置される記者のトップは「一番機」。次いで「二番機」「三番機」。旧日本軍よろしくの三機編隊で敵との闘いに挑む。その敵とは、取材先ではなく、同業他社である。

報道界は軍隊で男社会

 私が記者になりたてのころ、某新聞社の中堅記者が「今日は全舷だ」と言った。「それ何ですか?」と尋ねたら「テレビさんは知らんのやろね。全舷は海軍用語で軍艦の乗組員が全員艦から降りて休暇を取ることだよ。普通は半舷と言って乗組員の半分しか降りないけど、艦の修理とか特殊事情がある時に全舷と言って全員降りるわけ。新聞社では休刊日の前の日が全舷。支局のみんなで飲みに行くんだよ。テレビさんは休刊日がないもんね」

 これは私がNHKに入った昭和の時代のお話。さすがに「全舷」はもう使ってはいないと思うが、報道機関の体質が「軍隊」であることは今も変わりがないと思う。上官(デスク)の命令は絶対。その指示通りにこなせる兵隊(記者)が優秀。任務のためなら手段を選ばず。

 そして軍隊は典型的な男社会だ。男の論理が支配する。報道界でなぜセクハラ・パワハラが横行するか? それは、本質的に軍隊であり男社会だからだと思う。

2020年7月16日付朝日新聞朝刊。赤木さんは、夫の俊夫さんが自死したのは改ざんを強制されたからだなどとして、国と佐川宣寿・元財務省理財局長を訴えている

森友改ざん 赤木さんの妻

 ここで私は赤木雅子さんのことを考える。財務省近畿財務局で公文書の改ざんを上司に無理強いされ、1年余りにわたり苦悩した末に命を絶った赤木俊夫さんの妻。今年3月、改ざんをめぐる夫の手記を公表し、真相解明を求めて国などを相手に提訴した女性だ。

 ある日、赤木さんは私に語った。「夫が亡くなってから、私はずっと男社会に囲まれてきました。財務省も、近畿財務局も、弁護士も、取材に来る人も、みんな男の人です。嫉妬深い男社会に囲まれて、私はずっと息苦しかったんです」

 嫉妬深い男社会。この言葉に私ははっとした。出世がなにより重んじられる男社会では、出世のためには手段を選ばず。出世を巡る嫉妬が渦巻いている。財務省や近畿財務局の男たちは、赤木さんに

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