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見えにくい不条理の連鎖 沖縄の真の負担軽減を

滝本匠 琉球新報東京支社報道部長

 「必要な情報は共有していると、こういうふうに報告を受けている」。沖縄県内の米軍基地で確認された新型コロナウイルス感染者が広がっていった7月中旬、地元では米軍との情報共有が不十分だとの懸念が噴出していた。沖縄県議会でも情報開示を求める決議がなされた。米軍からの情報不足を指摘する記者の質問に対し、菅義偉官房長官は会見で冒頭のように繰り返していた。

 だが、その後も沖縄県の保健当局と米軍との間では、感染者の行動履歴や感染経路など詳細な情報について十分な共有ができているとはいいがたい状況が続いていた。玉城デニー沖縄県知事は、官邸の認識に「官房長官には食い違いの実態は伝えられていなかったのではないか」と述べた。米軍からの情報がないことには会員制交流サイト(SNS)で「異常」だと強い口調で指摘していた。

 これは、軍事情報ではない県民の命に関係する情報が、米軍基地という「ブラックボックス」で遮断されていることを物語っていた。情報がなければ、確認や検証するすべもなく、リスクにさらされ続けるという懸念につながる。さらに米軍関係者の感染症対策を巡っては、ふたたび日米地位協定上の問題も浮き彫りになっている。これら沖縄で起きている米軍との情報の不通や地位協定の問題は、まさに政府の姿勢を映し出す鏡でもある。

 新型コロナウイルスが拡大して沖縄にも大きく暗い影を落としている。全国のメディアが感染症に関する報道で覆われている陰で、沖縄県民は、変わらず存在する米軍基地から派生する問題と隣合わせの日常を余儀なくされている。県民が基地の外に居住しているのか、米軍基地のある島に県民が住まわせられているのか、錯覚させられてしまう。

綿あめの危険な正体

拡大米軍普天間飛行場から流出し住宅地に迫る泡消火剤=2020年4月11日午前8時15分ごろ、宜野湾市大謝名(琉球新報・金良孝矢撮影)

 ふわっふわと、綿菓子のような泡の塊が住宅街をいくつも舞っている。大きさは数センチのものから数十センチのものまである。綿あめなら食べられるが、間違っても口に入れてはいけない。なぜならそれは、発がん性が指摘されている有機フッ化化合物の一種PFOS(ピーフォス)が含まれる泡消火剤だからだ。

 普段の暮らしの中では触れることのない泡消火剤。この航空機火災に使われる消火剤がなぜ街中に漂っているのか。そこは沖縄県宜野湾市の米海兵隊普天間飛行場に隣接する住宅街。問題の泡は基地の中から飛んできた。

 4月10日、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が全国で発令されているまっただ中、普天間飛行場から泡消火剤が排水用水路から基地外に流出し、風にあおられ街中に泡となって飛んだ。近くの保育園の園児の頭上にも降り注いだ。約22万7100リットルが漏出し、そのうち約14万3830リットルが基地外へ流れ出た。翌日、基地外の除去現場を視察に訪れた普天間飛行場の基地司令官デイビッド・スティール大佐は「雨が降れば収まるだろう」と宜野湾市の職員らに発言した。

 昨年12月にも同様に、普天間飛行場から消火システムの誤作動で泡消火剤が基地外に漏出する事故が発生した。さらに環境省が6月に公表した昨年度の全国調査結果では、普天間飛行場と、その北側に位置する極東最大の米空軍基地・嘉手納基地の周辺の河川や地下水、わき水からも高濃度のPFOSなどが検出された。嘉手納基地のものは最大で国の暫定目標値の数十倍の濃度だった。米軍の別の調査では数百倍の濃度が検出されており、沖縄県の調査でも基地由来の汚染が指摘されている。

 4月のPFOS漏出事故では、日米が2015年に沖縄の負担軽減の目玉として締結した日米地位協定の環境補足協定が初めて適用されて、沖縄県と宜野湾市の基地への立ち入り調査が実現した。だが県と市の立ち入りは事故から11日後。この日は水採取だけで、さらに3日後の立ち入りでは土壌の掘削に立ち会っただけで土壌採取は拒否された。その1週間後に再度立ち入った際には、はぎ取られた後の土壌の表面を採取したのみで、要求した別の土壌採取は認められなかった。

 一方で嘉手納基地への立ち入り調査は、沖縄県の申請にもかかわらずたなざらしにされたままで、実現の見込みすら立っていない。立ち入りの可否や土壌の採取すらも瑕疵があるはずの米軍の判断まかせにしかできない有り様が、米軍に基地の排他的管理権を認めている日米地位協定の問題の深刻さを物語っている。

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筆者

滝本匠

滝本匠(たきもと・たくみ) 琉球新報東京支社報道部長

1973年、大阪府岸和田市生まれ。京都大学卒。98年 琉球新報入社。社会部、八重山支局長(石垣市)、政経部基地担当、ワシントン特派員などを経て2018年4月から現職。共著に『呪縛の行方』(琉球新報社)、『沖縄フェイク(偽)の見破り方』(高文研)、『琉球新報が挑んだファクトチェック・フェイク監視』(同)など。