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インタビュー 文春編集局長が語る「信頼とは」

スクープがもたらす正のスパイラル 親しくなっても書く覚悟

新谷学 文藝春秋執行役員、週刊文春編集局長

 次々と社会を驚かすスクープを積み重ねることによって、国民に支持される、まさに「正の循環」を実践する「週刊文春」。メディアの目指すべき信頼の形にも見える。「賭けマージャン」問題をスクープしたのも同誌だった。「文春砲」とも呼ばれる、そのスクープを目指す集団を率いる新谷学・同誌編集局長に「メディアと信頼」について聞いた。

――大型の選挙違反事件に発展した河井議員夫妻(注1)はじめ、政界を揺るがすスクープを連発していますが、なぜ文春にばかり情報が集まるのでしょう。

新谷 例えば、ある政治家に関するスクープは、文春リークスというネット上の情報提供サイトへの投書がきっかけでした。その1行目には「初めは警察に送ろうとしましたが握り潰されると思ったので文春に送ります」と書かれていました。大変僭越ながら、警察大学校で研修を頼まれた際、都道府県警の幹部50人ぐらいを前にその話をしました。「皆さんが問われるのは、政治との距離、政権との距離ではないですか」と。

(注1) 週刊文春19年11月7日号は、河井克行法相(当時)と妻の案里参議院議員のウグイス嬢買収疑惑を報じた。現職国会議員夫妻が逮捕される大型の選挙違反事件に発展

「賭けマージャン問題」の本質

――メディアにとっても、権力との距離は難しいテーマ。まず、「賭けマージャン」問題(注2)の本質は何だと考えますか。

新谷 誌面を読んでいただければ分かりますが、朝日の元記者、産経の記者については、基本的に批判していません。むしろ黒川検事長という極めて機密性の高い情報にアクセスできる人物に食い込んだのは、記者としてはすごい、そういうスタンスです。何で記事にしたかといえば、官邸が定年延長という前代未聞の法改正をしてまで検事総長にしようとする黒川さんとは一体どんな人物なのか、を様々な角度から深掘りしようと。情報提供があって、約3カ月にわたり取材を続けた。その結果、ステイホーム期間中に深夜2時まで賭けマージャンをやるような人物だということが分かり、本当に余人をもって代え難い人物なのか、を読者に問題提起した。それが「週刊文春」のスタンス。けしからんと大上段からぶった切るわけではない。目指すのは論よりファクト。新聞各紙は、社説などでこんな定年延長が許されていいのかと繰り返したけれど、事態は動かない。ただ、彼が深夜まで記者とマージャンに興じていたという事実一発で大きく動く。

――事実を突きつけて、読者に問うと。

新谷 総長にするなとは書いていない。政治家を書く上でも、やめろとか、資格がないと断じるほど、我々は偉くない。こんな人です、どうですかと事実を伝えるところまでが我々のすべきことです。

 一方で、私たちは朝日の元記者、産経の記者のマージャンは取材活動の一環と考えていたので、発覚後の対応は不可解です。特に産経は取材活動と説明していたわけだから、マージャンをやっていた記者に署名で書ける範囲で事実を書かせるべきでしょう。マージャン当日のドキュメントに加え、黒川さんとの関係性など、読者に取材の正当性を説明すべきではないか。それでもけしからんと言う人もいるでしょうが、報道の本質を分かっている人は、理解してくれると思います。

 朝日は、元記者と「元」にこだわっていましたが、現職じゃないから罪は軽いと言いたいのか、ピントがずれている。防衛ラインの引き方が明らかにおかしい。世の中が問題にしているのは、そこじゃないと思います。

――どうすればよかったのでしょうか。

新谷 黒川さんとのやり取りで、取材のヒントがあれば、現場の記者に伝えるのが当然。黒川さんと緊密に話ができる関係は、一朝一夕で築けるものではないわけですから、有効に使うべきです。

――新谷さんが編集長なら、記者から黒川さんと会えるかもしれない、行ってもいいかと相談されたら、どう答えますか。

新谷 難しい判断です。ただ、行けと言った可能性はあります。彼から聞かなければいけないこと、確認すべきことがあれば、リスクを負ってでも行かせるでしょう。ただし、行かせて、聞いた話は、すぐに報じると思います。「黒川独占告白90分」といった形で記事にしてしまう。それによって、なぜリスクを負ってでも彼に会ったのか、それはこの事実を伝えるためです、と読者の皆さんに胸を張って説明できると思います。もちろんその結果、記者と黒川さんとの人間関係が壊れるリスクは大いにありますが。

――取材方法に問題があっても、結果に繋がれば、ということですか。

新谷 そこはものすごく難しい天秤だと思います。モラルとか、法的なルールを重んじるのか、記者としての使命を重んじるのか、難しいけれど、極力、記者の使命を果たすことに重きを置きたい。重要なネタ元に食い込んでスクープを取ってくることを、最優先すべきだと私は思っています。完全な違法行為は駄目ですけれど、例えば、相手の違法行為を告発するためなら、隠し撮りすることも許されるのではないかと考えています。マニュアルで何でもかんでも駄目だと禁じてしまうのが一番危険。取材相手との距離にしても、重要な情報源であれば、リスクを取りながらも食い込む努力をするのは記者としては当然だと思います。それが一括りに癒着は駄目だとされてしまうと、自分たちの取材領域がどんどん狭くなってしまう。スクープを取る記者じゃなくて、トラブルを起こさない、ルールを守る記者がいい記者だとなってくると、大本営発表のようなコモディティー化されたニュースを横並びで出すような状況に拍車が掛かってしまう。それではデジタルシフトが進む中、マネタイズすることは難しいでしょう。

(注2) 20年5月28日号に、黒川弘務・東京高検検事長が、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下で、記者らと賭けマージャンをしていたとする記事を掲載。定年延長で次期検事総長が有力視されていた黒川氏は辞任。

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筆者

新谷学

新谷学(しんたに・まなぶ) 文藝春秋執行役員、週刊文春編集局長

1964年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、89年に文藝春秋に入社。「Number」「マルコポーロ」「週刊文春」「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年から「週刊文春」編集長、18年に「週刊文春」編集局長に就任。20年8月から同社執行役員を兼ねる。著書に『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)、共著に『文春砲 スクープはいかに生まれるのか?』(角川新書)。