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迫られる経営基盤の変化への対応 「スマートシュリンク」も選択肢に

曽我部真裕 京都大学法学部・法学研究科教授

 今回の特集は「メディアと信頼」。マスメディア不信が進んできているという認識に基づく企画だろうが、そもそも、マスメディア不信は進んでいるのだろうか、それをどのように計測するのだろうか。

 一つには、マスメディアの収入に係る指標を参照することが考えられる。新聞(本稿では基本的にマスメディアの中でも、主に新聞を念頭に置いて述べたい)で言えば、日本新聞協会ウェブサイトで確認できる発行部数は2010年から19年までの10年間で4分の1近く減少し、特に17年から19年の3年間で10%減と、部数減のペースが加速している。広告収入も上記10年間(年度)で3割以上減少した。新聞社の総売上高は、その他収入の増加によって15%減(なお、会社数は94社から91社となり、3社減)にとどまっているが、マスメディア不信の文脈では、総売上高よりも、部数や広告収入に注目すべきなのだろう。なお、総務省の調査(「令和元年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」)でも、テキストでニュースを得る手段として紙の新聞を選んだ者の割合は急速に減少している(2013年の約6割が19年には約3割)。ただし、それに反比例してポータルサイトやソーシャルメディア経由でニュースを見る者が増えているところ、これらのニュースの出所の相当部分はマスメディアである。

 もっとも、部数の減少を、そのままマスメディア不信の亢進の反映とみることは難しい。周知の通り、新聞は戸別配達制度と強力な営業力によって部数を拡張してきたこともあって、新聞購読の動機は様々であり、新聞のジャーナリズムに対する強い信頼を動機とする購読はもともと多数ではなかったかもしれない。また、インターネットの情報で十分であるとか、単身世帯の増加、可処分所得の減少等々、部数の減少を説明する理由はマスメディア不信以外にも多くあるだろう。

 マスメディア不信を示す徴表としては、ソーシャルメディア上にあふれる、マスメディアに対する批判、あるいは罵詈雑言とも言いうる強い不信の言葉にもしばしば注目される。確かに、こうした書き込みは多数見られるが、これまでの不満が可視化されただけであって不信が亢進していると言えるかどうかは不明であり、いずれにしても、ソーシャルメディアの膨大な利用者数からすれば一部に過ぎない。もちろん、聞くべき批判も少なからずあるし、荒唐無稽な非難であってもその背景を分析することで示唆を引き出すこともできるだろうから、マスメディアにあっては、ソーシャルメディア上の情報を丁寧に分析して自らのあり様を省みる材料とすることが強く求められる。ただ、ソーシャルメディア上の批判を表面的に捉えて右往左往することは禁物だろう。

信頼度に大きな変化はない

 他方で、メディアに関する世論調査を見れば、マスメディアに対する信頼度には大きな変化がないことがわかる。公益財団法人新聞通信調査会が毎年行っている「メディアに関する全国世論調査」によれば、2008年度から19年度まで、新聞とNHKテレビに対する信頼度は7割前後で推移し大きくは変わっていない(ただし、前述の総務省の調査では、全年代での信頼度は同じく約7割であるが、20代、30代では6割を切る)。確かに、2010年前後には7割を超えていたのが、近年は7割を切るようになってわずかに低下しているように見えるものの、部数や広告収入の減少、ソーシャルメディア上の状況からうかがわれるような姿とは大きく異なる。

 実証分析には何らの知見もない素人の評価ではあるが、以上からすれば、新聞に対する信頼はさほど失われてはいないものの、

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