2020年12月29日
「安倍一強」の力の源泉を探ることで、見えてくるのは「官邸一強」とでも呼ぶべき実態だ。官僚統制や強権的な国会運営などで「一強」を培い、支えている構図ができあがっている。それに乗って生まれた菅政権の先行きを、「一強」の内実を検証することで占ってみる。
目の前にいる安倍晋三首相が真顔で聞いてきた。
「本当に胸を張って(記事に)しているということができますか」
私が「できます」と答えると、首相は言い放った。「ぜひ国民の皆さん、新聞をよくファクトチェックして」
それをNHKが全国に生中継していた。2017年10月8日。衆院選を前に、日本記者クラブが主催した党首討論会でのことだ。
発端は、加計学園の獣医学部に関する私の質問だった。首相がその計画を初めて知ったのは、国家戦略特区で認可された当日(17年1月20日)だったという不自然すぎる国会答弁の真偽を「イエスかノーか」で問うた。
首相はこれに答えず、特区を審議した民間議員が国会で「プロセスには一点の曇りもない」と述べたことを、「朝日新聞は報道もしておられない」と決めつけてきた。「しています」と返すと、首相は「いや、ほとんどしておられない。しているというのはちょっとですよ。ほんのちょっと。アリバイ作りにしかしておられない」と早口で言った。
そして、特区の旗を振った前愛媛県知事についても、「証言された次の日には全くしておられない」と続けた。
これも事実に反するので、「記事にしています」と反論したところで、冒頭の「ファクトチェックして」発言が飛んできた。
疑惑に正面から答えない。都合の悪い質問は、はぐらかす。意に沿わぬ事実には「フェイクニュースだ」と言わんばかりの態度を取る。
まさに、安倍首相の「やり口」が凝縮した場面だった。
翌日、朝日新聞では同僚が首相発言の間違いを指摘する長行の記事を書いた。
しかし、ネット上では「朝日の記者がウソをついた」という書き込みがあふれた。私は顔写真つきで罵倒され、「炎上」した。組織的に個人攻撃をする仕掛けがあるように思えた。安倍支持層の一端を目の当たりにした気分だった。
加計問題では「総理のご意向」「首相案件」といった文書が多く残っている。「総理は自分の口からは言えないから、私が代わって言う」と首相補佐官が語ったとの証言もある。
それなのに、忖度批判が渦巻くと、首相は2年前から知っていたという従来の答弁を一転させ、特区の決定まで知らなかったと言い出した。自分が知らないのだから、周囲の忖度などあり得ないという強行突破に舵を切った。
あまりに説得力がないし、虚偽答弁の疑いがある。
友学園問題は17年2月9日付の朝日新聞朝刊が伝えて、火がついた。
首相の妻の昭恵氏が名誉校長だったことや、首相が国会で「私や妻が関係していれば、首相も国会議員も辞める」と言ったことで関心が高まった。
国有地を8億円も値引きして売り渡した経緯は、いまだに説明がつかない。
財務省によれば、16年度までの5年間に公共随意契約は約1200件あった。その中で「分割払いを認める特約」と「売り払い前提の定期借地とする特例」という買い手に有利な契約は、森友学園とだけ結んでいた。
また、13年度からの4年間の1千件ほどの公共随意契約うち「売却金額が未公表」も森友のみだった。
この三つが重なる確率は1200分の1×1200分の1×1000分の1。
14億4千万分の1である。
「神風が吹いた」
籠池泰典・前理事長の国会証言の意味が、くっきりと浮かび上がる。
森友問題は公文書改竄という前代未聞の不祥事を起こしながら、麻生太郎財務相が居座り続けるという政治責任不問の悪しき前例にも
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