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勝ち馬追わず、敗者を背負え 問われる政治家の覚悟と矜持

大島新 ドキュメンタリー監督

 勝ち馬に乗る。

 「一強政治」について考えた時に、真っ先に浮かんだのがこの言葉だ。政治家も、国民も、ようは勝ち馬に乗りたいのだ、と。2020年9月に行われた自民党総裁選では、各派閥が雪崩を打ったように菅義偉氏に支持が集まった。自民党の政治家たちは、新しい政権で優遇されること(あるいは冷遇されないこと)を求めて勝ち馬に乗った。

 国民は、と言えば、菅新政権の誕生を支持率70%で歓迎した。コロナ対応のまずさから、安倍政権の支持率は30%台まで落ちていたにもかかわらず、その中枢にいた菅氏を、まだ何もしていないのに支持した。自民党総裁候補3人の名前が出揃う前までは、世論調査の「次の総理にふさわしい人」では常に石破茂氏がトップだった。菅氏の名前は、ぎりぎり10位以内に入るかどうかという程度だったのに、テレビの報道番組やワイドショーが「菅氏有利」と報じ始め、たたき上げの苦労人だの、パンケーキ好きだのと菅氏の物語が広く語られるようになると、「次の総理にふさわしい人」もまた、菅氏がトップになった。私たちは、こういう国に生きている。

 私は、野党の衆議院議員である小川淳也氏を17年間にわたって記録したドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」を監督し、今年6月に公開した。小川とは03年に出会い、時折カメラを向けて話を聞く関係だったが、映画にしようと考えたのは4年前の16年のことだった。きっかけは、ある食事会での出来事だ。小川と秘書、政治ジャーナリストの田﨑史郎氏、民放テレビ局のプロデューサーと私は、年に2度ほどのペースで、その時々の政治状況の話題を肴に盃を傾ける会を続けてきた。この時期の小川は野党民進党の所属で、政権交代には程遠い自らの党のふがいなさを嘆くと同時に、弱い野党の中でさえ出世できない自らの状況に苦悩していた。安倍政権はと言えば、閣僚の相次ぐ失言や「魔の2回生問題」など、それまでの政権であれば支持率低下→退陣となってもおかしくないような状況にありながら、盤石だった。

 私は酒の勢いも手伝い、安倍首相に近く、余裕綽々で野党をこき下ろす田﨑氏に食ってかかった。「こんなに強権的な政権はない。選挙に勝ってさえいれば、何をやっても許されると思っているのか」。かなり強い口調だった私に、田﨑氏はたしなめるように言った。「安倍さんを批判する人はみんな感情的になるんですよね。でもそれじゃ、安倍さんを倒せないんですよ」。この言葉は、論理はともかく、現実を捉えているという意味では説得力があった。そうした政治状況と、私が信頼し、真っ当で優秀な政治家だと思える小川淳也が政界でまったくうまくいっていないことが、私に映画化を決意させた。「安倍一強」の政治状況の中にあって、苦悩し、もがく一人の野党政治家の姿を通じて、日本政治の一断面を世に問いたいと考えたのだ。つまり私の映画は、「一強政治」の産物とも言える。

拡大2017年の衆院総選挙で有権者と話す小川淳也氏=高松市(映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」から)ⓒネツゲン

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筆者

大島新

大島新(おおしま・あらた) ドキュメンタリー監督

1995年早稲田大学卒業後、フジテレビ入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などのディレクターを務める。99年、フジテレビを退社しフリーに。MBS「情熱大陸」、NHK「課外授業ようこそ先輩」などを数多く手掛ける。2007年、「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」(日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞)を監督。09年、映像制作会社ネツゲンを設立。プロデュース作品に「ぼけますから、よろしくお願いします。」など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです