主権者教育の現状
教育現場では「政治的中立性」が求められる(教育基本法第14条第2項)。しかし、これが過度に求められ、学校の主権者教育では具体的な政治事象を取り扱わず、選挙の仕組みだけを扱ったり、架空の政策で選挙公報を作って模擬投票を行ったりするだけにとどまることが多い。実際のマニフェストに触れることや、過去の法律や政策決定過程を追うことはなかなかない。
15年に総務省と文部科学省は主権者教育の副教材「私たちが拓く日本の未来」を作成した。しかし、100ページ以上と膨大なうえ、教師用の指導資料は禁止事項などが並んでおり、現場の先生からは使いにくいと不評であった。
たとえば、「政党比較表を完成させよう」というページは、白い枠が用意されているだけで、生徒が調べて記入しなければならない。先生が全政党のマニフェストを配布するのは公職選挙法上難しく、かと言って生徒が自力で埋めるのは不可能に近いだろう。私自身、選挙期間中に似たようなものを作るが、30〜50時間はかかる。指導資料には、これが次の授業までの課題であることや、公職選挙法に留意する必要があることが記載されている。
主権者として育てるための副教材がこれで良いのだろうか。なぜ投票に行く必要があるのかや、個別具体的な政治事象についてはほとんど触れられず、単なる選挙の仕組みと手法集になっている。学校の先生が一番頭を悩ませる政治的中立性は
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