2021年04月28日
「公平・公正な報道とは、どういう報道なのか」。新聞社に34年勤務した後、シンクタンクに転職した今、よく考える問いである。
論争的な問題で、一つの視点に偏らず、多様な視点を提供することを目指すのは、一つの模範的な答えであろう。ただ、両極端な意見を二つ並べれば、それで「公平」といえるのだろうか。面白くて視聴率やPV(ページビュー)は稼げるかもしれないが、中庸で穏当な意見は、むしろ紹介されにくくなるかもしれない。
民放幹部によれば、各テレビ局は、国政選挙の告示後の第一声で、政党要件を満たす各政党の党首の声を均等な長さにしようと努力している。しかし、議席が300近い政党と、ひとケタの政党の代表を、同じ秒数で紹介するのが「公平・公正」なのか、悩ましいともいう。
このように、「公平」「公正」とは、その定義からして難しく、実践の場で「公平さ」を実現するのは簡単ではない。
だからといって、「公平さ」をはなから諦めてしまうのは、弊害が大きいのではないか。そのように考えるようになったのは、米国取材の経験が大きい。
筆者は、2000~03年と、2013~17年と2度にわたりワシントンに駐在し、2度の大統領選、民主党から共和党政権への交代劇を取材した。この20年に米国に生じた分断は、すさまじい。政治的な価値観の隔たりは広がり、民主党支持者は民主党支持者、共和党支持者は共和党支持者の中で、友人を作ったり結婚したりしがちになった。
2016年大統領選に立候補した共和党のトランプ氏は、はっきりとメディアを敵視したのが特徴で、メディアをめぐっての分断も激しさを増した。トランプ氏は、主要テレビ局や、ニューヨーク・タイムズ紙などを「米国民の敵」とまで呼んだ。
世論調査機関のギャラップ社は継続的にメディアに対する信頼度の調査を行っている。
党派別にみると、共和党支持者のメディア信頼度が際立って低い。2015年には、共和党支持者の中でもメディアを信頼すると答えた人が30%を超えていたのが、大統領選の年の2016年には14%まで急落した。再び大統領選の年になった2020年調査では、ついに10%と、過去最低に落ち込んだ。一方で、民主党支持者の間でのメディアの信頼度は、2016年以降、むしろ高まる傾向にあり、70%前後と高い。
共和党支持者はメディアを信じないが、民主党支持者はメディアを信頼し、喝采するという「分極化」が進んでいる。
トランプ氏への支持色が強いメディアもあるとはいえ、共和党支持層全般としては、メディアを「リベラル系」とみなし、嫌っている人が多いことがわかる。これだけメディアが信頼を失うと、メディアを攻撃すればするほど、トランプ氏は自分の支持層を固めることができる。一方で、伝統メディアは、トランプ氏への批判を強めることで、読者を獲得できる。いわば、妙な「Win Win」関係が生じる。事実、リベラル系のニューヨーク・タイムズは、この間、電子版の読者を急増させてきた。
米調査機関のピュー・リサーチ・センターは、2016年、有権者の大統領選における主な情報源を調査した(図)。最も多かったのはケーブル放送のFOXニュースで、全投票者の19%を占めた。FOXニュースは1996年、メディア王ルパート・マードック氏が会長を務めるニューズ・コーポレーションが設立した。保守層に支持されているメディアである。
かつてはアメリカ人が午後6時にテレビをつけた時の選択肢は「イブニングニュース」であった。ABC、CBS、NBCの3大ネットワークは、基本的なフォーマットに大きな差はなかった。
現在は何百もの選択肢が存在する多チャンネル時代になった。メディアそのものも、新聞、テレビ、ラジオから、オンラインメディア、ソーシャルメディアなど、多種多様な選択肢がある。
傾向をみても、リベラル系だけでなく、保守系、親「トランプ系」もある。陰謀史観を積極的に流すメディアもある。
「メディアの分極化」といえるが、そもそも、メディアが分極化したから世論が分極化したのか、世論が分極化したからメディアが分極化したのだろうか。
いわば「鶏か卵か」という問いだが、研究者の間でもさまざまな議論がある(詳細は割愛するが、ご関心のある方は、拙共著『現代アメリカ政治とメディア』〈東洋経済新報社〉をご覧下さい)。世論の分極化が先だという意見が強いが、メディアの分極化が世論をさらに分極化させていると指摘する研究もある。
2018年、CNNの元ワシントン支局長で、ジョージ・ワシントン大学メディア広報学部長のフランク・セズノ氏に、インタビューをした。メディアと世論の分裂のどちらが先に生じたのかについては「世論だ」と明確だった。ニクソン氏が大統領に当選した1968年を注目すべき年だとした。当時、ベトナム反戦運動や公民権運動が大きなうねりとなっていたが、リベラルな
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