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メディアの分極化と米国の分断 公平原則の撤廃は何をもたらしたか

山脇岳志 スマートニュースメディア研究所研究主幹

 「公平・公正な報道とは、どういう報道なのか」。新聞社に34年勤務した後、シンクタンクに転職した今、よく考える問いである。

 論争的な問題で、一つの視点に偏らず、多様な視点を提供することを目指すのは、一つの模範的な答えであろう。ただ、両極端な意見を二つ並べれば、それで「公平」といえるのだろうか。面白くて視聴率やPV(ページビュー)は稼げるかもしれないが、中庸で穏当な意見は、むしろ紹介されにくくなるかもしれない。

 民放幹部によれば、各テレビ局は、国政選挙の告示後の第一声で、政党要件を満たす各政党の党首の声を均等な長さにしようと努力している。しかし、議席が300近い政党と、ひとケタの政党の代表を、同じ秒数で紹介するのが「公平・公正」なのか、悩ましいともいう。

 このように、「公平」「公正」とは、その定義からして難しく、実践の場で「公平さ」を実現するのは簡単ではない。

 だからといって、「公平さ」をはなから諦めてしまうのは、弊害が大きいのではないか。そのように考えるようになったのは、米国取材の経験が大きい。

米国の深刻な分断

 筆者は、2000~03年と、2013~17年と2度にわたりワシントンに駐在し、2度の大統領選、民主党から共和党政権への交代劇を取材した。この20年に米国に生じた分断は、すさまじい。政治的な価値観の隔たりは広がり、民主党支持者は民主党支持者、共和党支持者は共和党支持者の中で、友人を作ったり結婚したりしがちになった。

 2016年大統領選に立候補した共和党のトランプ氏は、はっきりとメディアを敵視したのが特徴で、メディアをめぐっての分断も激しさを増した。トランプ氏は、主要テレビ局や、ニューヨーク・タイムズ紙などを「米国民の敵」とまで呼んだ。

 世論調査機関のギャラップ社は継続的にメディアに対する信頼度の調査を行っている。

 党派別にみると、共和党支持者のメディア信頼度が際立って低い。2015年には、共和党支持者の中でもメディアを信頼すると答えた人が30%を超えていたのが、大統領選の年の2016年には14%まで急落した。再び大統領選の年になった2020年調査では、ついに10%と、過去最低に落ち込んだ。一方で、民主党支持者の間でのメディアの信頼度は、2016年以降、むしろ高まる傾向にあり、70%前後と高い。

 共和党支持者はメディアを信じないが、民主党支持者はメディアを信頼し、喝采するという「分極化」が進んでいる。

 トランプ氏への支持色が強いメディアもあるとはいえ、共和党支持層全般としては、メディアを「リベラル系」とみなし、嫌っている人が多いことがわかる。これだけメディアが信頼を失うと、メディアを攻撃すればするほど、トランプ氏は自分の支持層を固めることができる。一方で、伝統メディアは、トランプ氏への批判を強めることで、読者を獲得できる。いわば、妙な「Win Win」関係が生じる。事実、リベラル系のニューヨーク・タイムズは、この間、電子版の読者を急増させてきた。

 米調査機関のピュー・リサーチ・センターは、2016年、有権者の大統領選における主な情報源を調査した(図)。最も多かったのはケーブル放送のFOXニュースで、全投票者の19%を占めた。FOXニュースは1996年、メディア王ルパート・マードック氏が会長を務めるニューズ・コーポレーションが設立した。保守層に支持されているメディアである。

拡大2016年の大統領選における有権者の主要な情報源(ピュー・リサーチ・センターの調査を基に作成)
https://www.journalism.org/2017/01/18/trump-clinton-voters-divided-in-their-main-source-for-election-news/


 2位は、やはりケーブル放送のCNN。近年はリベラルメディアと評されることが多い。3位は、ソーシャルメディアのフェイスブックである。

 興味深いのは、トランプ氏に投票した人と、クリントン氏に投票した人の情報源が大きく違っていることである。トランプ氏に投票した有権者に限ると、圧倒的に、FOXニュースを情報源にしていた。

 一方、クリントン氏に投票した有権者は、CNNや、CNNよりもさらにリベラル色が強いケーブル放送であるMSNBC、公共ラジオ放送のNPR、リベラル色の強いニューヨーク・タイムズなどを主な情報源としていた。

 ピュー・リサーチ・センターはまた、社会保障、環境、外交、移民など10種類の政治的価値に関し、継続的な調査を行ってきた。2017年の調査では、共和党支持者と民主党支持者の見解の相違は、ほとんど全ての問題領域において、この調査が行われた過去のどの時点よりも大きくなった。

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筆者

山脇岳志

山脇岳志(やまわき・たけし) スマートニュースメディア研究所研究主幹

1964年、兵庫県生まれ。京都大学法学部卒。86年に朝日新聞に入社後、経済部記者、論説委員、GLOBE編集長、アメリカ総局長などを経て退職。この間、オックスフォード大学客員研究員、ベルリン自由大学上席研究員。2020年から現職。著書に『日本銀行の深層』(講談社文庫)など。近刊に『政治コミュニケーション概論』(共著、ミネルヴァ書房)。京都大学経営管理大学院特命教授。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです