吉田千亜(よしだ・ちあ) フリーライター
1977年生まれ。東日本大震災後、原発事故と向き合う人々の取材を続けている。著書に『ルポ 母子避難 消されゆく原発事故被害者』(岩波新書)、『その後の福島 原発事故後を生きる人々』(人文書院)、近著『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』(岩波書店)で講談社本田靖春ノンフィクション賞。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
この『孤塁』を連載中に、宇都宮大学の清水奈名子さんが「男性も『強くあれ』というのを強いられたんですね」と、コメントをくださった。また、茨城大学の原口弥生さんが、『ルポ 母子避難』で描かれたような母親が避難先で家事・育児を一人で背負うこととなり、ジェンダー役割の固定化を深めると話をしていたことも、清水さんの一言で思い出した。
大災害や戦争などのカタストロフでは、女性や子ども、高齢者や障がい者、外国人など社会的に弱い立場に立たされている人々は真っ先に切り捨てられ、逆に「強くあれ」と鼓舞されて男性は命を脅かされる現場に立たされる。そして権力者は生き延びて歴史を改ざんしていく。原発事故も同じ構造と言ってよい。『孤塁』には「特攻」や「転戦」など、戦争の言葉がいくつか登場する。そういった言葉は個人的には使用を躊躇(ためら)うが、経験した人の実感のこもった言葉として、そのまま使っている。
「犬死」「捨て石」「特攻」と思いながら遺書を書いた消防士たちは、住民がいなくなった町で、次々に爆発する原発に「命を落とすかもしれない」と思いながら向かった。その極限状態の中、ある若い消防士は「上司の
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