吉田裕(よしだ・ゆたか) 東京大空襲・戦災資料センター館長
1954年、埼玉県出身。東京教育大学文学部卒、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。同大社会学部教授などを経て、同大名誉教授。2019年から現職。専門は日本近代軍事史、日本近現代政治史。主著に『現代歴史学と戦争責任』(青木書店)、『日本の軍隊―兵士たちの近代史』(岩波新書)、『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)など。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
とは言え、戦争体験の継承に関する新しいアプローチも着実に始まりつつある。マスコミの注目を浴びているのは、AIと聞き取りによって戦時中の白黒写真をカラー化する試みである。この作業に取り組んでいる研究者は、その狙いを「当時の写真は、もっぱらモノクロです。カラーの写真に眼が慣れた私たちは、無機質で静止した『凍りついた』印象を、白黒の写真から受けます。このことが、戦争と私たちの距離を遠ざけ、自分ごととして考えるきっかけを奪っていないでしょうか?〔中略〕カラー化によって、白黒の世界で『凍りついて』いた過去の時が『流れ』はじめ、遠いむかしの戦争が、いまの日常と地続きになります」と説明している(庭田杏珠・渡邉英徳『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』光文社新書、2020年)。カラー化の意義と限界に関してはより踏み込んだ議論が必要だが、「自分ごととして考えるきっかけ」を作るという発想は大切にすべきだと思う。
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