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父の抑留体験、漫画で描く

「戦争の生傷」次世代に残す

おざわゆき 漫画家

勇崎氏の絵に慟哭を聞く

 いつか……と思い続けて結局25年以上過ぎてしまった。私は上京して東京で暮らしていた。心に留めながら描けなかったのには理由がある。私はずっと漫画家志望で、個人で同人誌なども発行していたが、描いている内容は別の社会問題だったりファンタジーだったり、つまり他に興味のあるジャンルがあったのだ。あと、単純に戦争関連の知識が薄かった。この時代を描くには相当勉強してちゃんと描かねばと思っていたのだ。そして証言を取れる相手は身内だから、いつでも聞ける気がしていた。いろいろ理由をつけて先送りにしていたのだ。

 その頃の私といえば、随分とくすぶっていた。小さい頃から漫画家になりたくてなりたくて、いろいろ描いてはきたけれど売れず、同人誌を好んで読んでくれる人はいたけれど、活動として表で評価されることは無かった。40歳を超えて、さすがに夢を見続けるにはもう限界がある。そう感じていた。

 そんなある日、新聞で九段社会教育会館で開かれる勇崎作衛さんのシベリア抑留を描いた展示の記事を見かけた。割と近い場所だったこともあって勉強のひとつみたいな気持ちで見に行った。

 小さな展示会場なのにたくさんの人がいた。会場の中には大きなキャンバスが所せましと展示してある。同じだ。どこまで見ても同じ風景が描かれた絵が続く。暗い林と雪や茶色い地面、そしてそこで黙々と労働をする真っ黒な人々。しかし見続けているうちに私は

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筆者

おざわゆき

おざわゆき(おざわゆき) 漫画家

名古屋市出身。2012年に父のシベリア抑留体験を元に描かれた「凍りの掌 シベリア抑留記」で第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。15年には同作と母の戦争体験を元に描いた「あとかたの街」の2作品で第44回日本漫画家協会賞大賞。18年には、講談社『BE・LOVE』で連載していた80歳のヒロインを描いた「傘寿まり子」が第42回講談社漫画賞一般部門を受賞した。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです