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ウィシュマさんの代理人から見た報告書の欺瞞とメディアの責任

指宿昭一 弁護士

責任回避の最終報告書

 法務大臣の指示に基づき、入管庁は出入国管理部長を責任者とし、本庁職員による調査チームを発足させ、4月9日に中間報告を公表。8月10日には最終報告を公表した。以下、最終報告書の問題点を述べる。

・2月15日の尿検査の結果、「飢餓状態」に陥ったウィシュマさんに何も治療をせず、死なせてしまったことについての責任を回避していること

 前述したように、2月15日の尿検査の結果、「ケトン体3+」という異常な数値が出て、ウィシュマさんの「飢餓状態」が明らかになったのに、入管は緊急入院等の対応をしなかった。そのため、ウィシュマさんは餓死したのである。入管は、死因は不明として、複数の可能性を挙げているが、これは、ウィシュマさんが餓死したことを隠すためのものである。そして、入管は、「内科的な追加の検査等」が行われなかった原因は、「週2回・各2時間勤務の非常勤内科等医師しか確保・配置できていなかった名古屋局の医療体制の制約」であるとして入管の責任を否定している。これはすり替えである。医療体制の不備は問題であるが、たとえ不備な体制でも、「ケトン体3+」という異常な数値で「飢餓状態」に陥っていることが分かるのに、何も対応しないということはあり得ない。入管には、ウィシュマさんの命を救おうとする意思も能力もなかったことが明らかであり、責任を逃れることはできない。

・死亡直前の3月5日及び6日に救急搬送をしなかったことについての責任を回避していること

 3月5日朝と6日朝に、ウィシュマさんの血圧と脈拍の測定ができなかった(5日はその後に看護師による測定ができた)。入管に、ウィシュマさんの命を救う意思があるなら、これらの時点で救急搬送をしていたはずである。しかも6日は、朝から、「あー」と声を出すだけで、ほとんど無反応だったのである。ウィシュマさんを人として意識していたなら、救急搬送をしていたはずである。実際に救急搬送を要請したのは午後2時15分ごろであり、3時25分に搬送先の病院で死亡が確認された。つまり、病院に到着した時には、すでに死亡していたということである。

 これについて、最終報告書は、休日の医療従事者の不在、外部の医療従事者にアクセスできる体制がなかったこと、容態の急変等に対応するための情報共有・対応体制がなかったこと、職員の意識等を指摘しつつ、責任を認めていない。人がそこで死にそうになっている状況において、救急車を呼ばなかったことが問題なのであり、そこに責任があることを報告書は看過し、入管の責任を回避している。

・収容中の介護において虐待行為をしていることの責任を回避していること

 2月26日午前5時15分ごろ、バランスを崩してベッドから床に落下し、自力で戻れないウィシュマさんを、女性の職員2人は、ベッドに戻そうとせず、手とおなかのあたりの服を横に引っ張っただけで、午前8時ごろまで床に放置した。報告書には、職員が「体を持ち上げてベッド上に移動させようとしたが、持ち上げることができ」なかったと記載しているが、遺族が一部分だけ見たビデオにはそのような状況は映っていない。

 3月1日、ウィシュマさんはカフェオレを飲み込もうとして、鼻から出してしまったが、これに対して職員は、「鼻から牛乳や」と述べ、5日、ウィシュマさんが聞き取り困難な声を出したことに対して、職員が「アロンアルファ?」と聞き返し、6日には、「あー」と声を出すだけで意思を示すことができないウィシュマさんに対して、職員が、「ねえ、薬きまってる?」と問いかけた(「薬がきまる」とは、違法薬物を摂取して、その効果が表れていることを表現する隠語である)。なお、職員は、これらの発言を笑いながら行っていたことが、遺族が見たビデオには映っているが、報告書にはその旨の記載がない。

 報告書は、これらの行為につき、介助等の対応能力、人員体制の確保の問題であるとして、虐待行為であるとも認定せず、責任を回避している。

・仮放免不許可を、帰国意思を変えさせるための拷問として使っていることを容認していること

 報告書は、仮放免不許可を、相当の根拠があり、不当と評価できないとしている。その理由の一つとして、「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要」があることを挙げている。また、「仮放免されてこれら支援者の下で生活するようになれば、在留希望の意思がより強固になり、帰国の説得や送還の実現がより一層困難になる」とも述べている。在留を希望するという意思を変えさせるために、仮放免の不許可、すなわち、収容の継続ということが使われているわけである。これは、身体的・精神的な苦痛を与えることにより意思の変更を迫ること、すなわち拷問である。報告書は、仮放免不許可が拷問の手段であることを自白し、しかも、それを仮放免不許可の相当の根拠としているのである。

・DV被害者として扱わなかった責任を回避していること

 入管には「DV事案に係る措置要領」というルールがあり、DV被害者や被害者と思われる者に対する事情聴取等を行い、事実関係を明らかにすることになっているが、ウィシュマさんに対してこの事情聴取は行われていない。この点について、報告書は、「反省を要する改善点」であるとしている。

 しかし、報告書は、事情聴取をしたとしても、退去強制処分の見直しや特別の取り扱いが必要な事案ではないとして、またもや責任を回避している。ウィシュマさんは、収容中に、かつて同居していた男性から、「スリランカに帰ったら、探し出して罰を与える」という趣旨の手紙を受け取り、この恐怖から帰国ができなくなっていた。この事情を正しく評価していたなら、ウィシュマさんが帰国できない状況に陥っていたことを理解し、速やかに仮放免をすべきだった。報告書は、この点についても責任回避に終始しているのである。

拡大真相究明のためのビデオ開示などを求めるオンライン署名は、8月13日午前0時時点で5万88筆が集まった。写真は署名提出後に開かれた記者会見=2021年8月13日、東京・永田町の参議院議員会館、Natsuki Yasuda/Dialogue for People提供

入管の改革は進むか

 報告書は、自らの責任を回避した上で、改善策なるものを打ち出している。

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筆者

指宿昭一

指宿昭一(いぶすき・しょういち) 弁護士

1961年、神奈川県生まれ。85年、筑波大学比較文化学類卒。2007年、弁護士登録、暁法律事務所設立。外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表、外国人労働者弁護団代表、日本労働弁護団常任理事。ウィシュマ・サンダマリさんの遺族の代理人。今年7月、米国務省の「人身売買と闘うヒーロー」賞受賞。著書に『使い捨て外国人 人権なき移民国家、日本』(朝陽会)ほか。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです