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「納得感」なき入管行政 SNS時代の外国人レジスタンス

木下洋一 未来入管フォーラム代表

SNSを外国人が活用

 近年におけるSNSの急速な普及は、外国人に、他の事例との「比較」を可能なものとした。これは入管にとっては残酷な出来事である。

 入管は、ガイドラインの他に、在留特別許可の「透明性を高める」ためとして、「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例」を毎年公表している。ちなみに、2020年は在留特別許可された事例とされなかった事例それぞれ19件ずつが公表されている(毎年同程度を公表)。だが、在留特別許可の件数は近年減少したとはいえ、年間1200~2000件程度が許可され、800~1200件程度が不許可となっている。

 つまり公表事例よりはるかに多い事案が非公表ということだが、外国人側は入管当局によって都合よく取捨選択された「公表事例」よりも、SNSで得た「非公開事例」の情報を信じる。自分たちのケースと同じような事例を探し出し、それがいかなる扱いを受けたのかを調べ上げる。もはや、彼らは入管が公表する事例などといったものは、ガイドラインと同様、在留特別許可をちらつかせて外国人をおびき寄せ、あとは入管の胸三寸で都合よく料理しようとする「罠」であることを知っている。裁判所も決して自分たちの味方でないことも知っている。

 SNSの普及によって情報弱者から脱した彼らは、手に入れた情報を武器に、入管に真っ当な説明を求めるようになったのである。これまでのような個別的、総合的な判断などという具体性のかけらもない漠とした説明で、もはや入管は彼ら彼女らを納得させることはできなくなった。

 入管が生殺与奪権を握る「外国人は煮て食おうが焼いて食おうが自由」の時代は終焉し、「入管は公平に判断を行っているのか」という素朴な疑問に入管から真っ当な回答がなければ、彼ら彼女らはもう納得しない。そして、ある者は入管への「不服従」という形でその不満を表現するようになる。いわゆる「送還忌避者」はその象徴的存在である。

緊急避難としての難民申請

 「送還忌避者」について、入管は次のように述べている。

 「入管法の定める慎重な手続による審査を経て、退去強制事由に該当すると判断され、かつ、特別に在留を許可すべき事情がないため在留特別許可が付与されずに退去強制処分を受けた者であり、(中略)法律上又は事実上の作為・不作為により日本からの退去を拒んでいる被収容者である」(2020年3月27日付「送還忌避者の実態について」)

 まさに公平・公正な審査を行っている入管と、それに従わない不届き者の被収容者と言わんばかりのこの文章は、事実に反するとまでは言わないが、あたかも在留特別判断さえも慎重に見極められているが如くの印象を与える点において、極めて狡猾である。「慎重な手続による審査」は、実際は「退去強制事由に該当するか否かの判断」のみにかかり、「在留特別許可」にはかからない。

 再三述べているとおり、在留特別許可はあくまでも地方入管局長の胸三寸で決められてゆく。にもかかわらず、送還忌避者をこのようなまやかしの中で位置づける限り、入管がいくら彼ら彼女らの説得を試みようとも、自主的に帰国へと翻意することはないだろう。とはいえ、入管の裁量判断により在留特別許可が付与されず、「退去強制令書」が発付された以上、何もしなければ彼ら彼女らはただ送還される運命にある。

 入管法上、難民認定を申請中の者を送還することはできない。「送還停止効」と呼ばれている。この送還停止効により、裁判所による命令以外で、退去強制令書が発付された者が送還を免れる唯一の合法的手段が、難民認定申請となる。

 入管法上における「難民」とは難民条約上の難民をさすが、申請自体は誰でも、しかも何回でもできる。そのため、たとえ難民でないにしても、彼らは送還を回避する自己防衛の手段として、緊急避難的に難民申請を行う。難民不認定となったとしても、送還を逃れるため、繰り返し難民申請を行う。それに対して、入管側は収容を継続することにより、彼ら彼女らが音を上げ、自ら帰ると言い出すのを待つ。まるでチキンレースだ。

 ただ、かつては、在留許可は与えないが、一時的に身柄を解放する仮放免という「手打ち」がかなり柔軟に行われていた。ところが、2020年東京五輪の招致に伴う「安心・安全の社会の実現」というスローガンのもと、入管は送還促進の一環として仮放免許可を厳格化し、収容が長期化するようになった。

 そのような中、19年5月、東日本入国管理センター(茨城県牛久市)で2人の被収容者が、仮放免を求めてハンガーストライキを行ったことを皮切りに、それに呼応する被収容者が続出、集団ハンストに発展した。公然かつ集団で入管にプロテストするこの事態はこれだけにとどまらず、同年6月に大村入国管理センター(長崎県大村市)でナイジェリア人男性が餓死するというショッキングな出来事にまで発展した。

 これはメディアでも大きく取り上げられた。これをきっかけに政府は「収容・送還に関する専門部会」を設置し、その提言に基づき21年2月、入管法改正案が国会に提出された。同時に、入管に対する社会的関心も大きく引き寄せることとなった。

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筆者

木下洋一

木下洋一(きのした・よういち) 未来入管フォーラム代表

1964年、神奈川県生まれ。89年4月、公安調査庁に入庁。2001年、法務省の入国管理局(現・出入国在留管理庁)へ異動し、入国審査官として在留審査などに従事。17年4月、神奈川大学大学院法学研究科に社会人入学し、法学修士を取得。19年3月に早期退職し、個人で「入管問題救援センター」を設立。20年9月に「未来入管フォーラム」に名称変更。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです