森健(もり・けん) ジャーナリスト、専修大学非常勤講師
1968 年生まれ。早稲田大学法学部卒。雑誌記者を経てフリーランスに。2012年、『「つなみ」の子どもたち』(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。15年、『小倉昌男 祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞受賞。17年、同書で第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。
※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです
昨秋、ある大学の学生に「紙の新聞」を読んでいるかを尋ねた。手を挙げた学生は40人中7人。やや多いとも感じたし、中には数紙購読しているという学生もいた。ただし、彼らの所属はジャーナリズム学科。報道に関心が高い専攻にあって、その数だったということは、ほかの学科の大学生、あるいは同世代全体で考えてみれば、紙の新聞の読まれ方は推して知るべしだろう。あらためて指摘するまでもなく、紙媒体の衰退が著しい。
総務省情報通信政策研究所の調査報告書(2021年8月)で「いち早く世の中のできごとや動きを知る」メディアで、10代から40代の過半数以上が選んだのはインターネットだった。テレビで半数を超えるのは50代、60代。設問の「いち早く」という条件に合わないためか、紙の新聞はどの年代でも数%にとどまった(グラフ参照)。
新聞への信頼が衰えているわけではない。2021年11月発表の新聞通信調査会のメディアに関する世論調査によると「信頼度」の高いメディアの1位はNHKで69.0点、2位が新聞で67.7点と高かったが、インターネット(詳細はとくになし)は49.2点と低かった。
だが、ニュースにどれだけ触れているかという「接触状況」となると、その位置は大きく変化する。1位は民放テレビで89.5%、2位がNHKテレビで76.5%、3位がインターネットで73.1%となり、新聞は60.6%だった。
これらの調査結果から言えるのは、ニュースの摂取の中心はテレビかネット、つまり、ほぼ無料のものが中心だった。
だが、そんな現状をいかにぼやこうとも、新聞は紙からネットに対応していかなければいけない。
問題は、縦書きを横書きにすれば終わりではないことだ。無料に慣れ、無料でいいと考える人たちに対して、お金を支払ってもらい、読んでもらうことは簡単ではない。
そもそも若い世代にとってのニュースとは、新聞社の独自アプリやサイトを意味していない。ヤフーやLINE、スマートニュースなどプラットフォームの配信が中心であり、どこが配信元なのかも確認せずに読んでいる人が大半だろう(そもそも配信元という意識があるかも疑わしい)。若い世代にとって身近なニュースはTwitterやInstagramなどのSNSのタイムライン(時系列で流れる情報)での表示、あるいはYouTubeやTikTokなどの動画サイトだ。率直に言って、よほど社会に高い関心をもっている人でなければ、ニュースなど注力的に読んでいないのが実情だろう。
だとすれば、そんな時代のそんな人たちに対して、有料のニュースを読んでもらうには、どうすればよいのか。
新聞に対してお金を払う動機の第一は、日々の新しいニュースを読みたいということだろう。だが、全国紙や地方紙など報道機関が複数あるなかで一つ(あるいはいくつか)選ぶというときに、読者に打ち出すべき売りは何になるのか。
一義的には報道姿勢だろう。たとえば朝日で言えば「不偏不党の地に立って言論の自由を貫き、民主国家の完成と世界平和の確立に寄与す」といった綱領があり、リクルート事件や森友学園・加計学園問題といった調査報道という実績もある。そんな姿勢に共感する人に読んでほしいと思うのが朝日側の思いだろう。
だが、そこまで知っている人であれば、現時点において紙であれ、ネットであれ、すでに購読しているはずだ。購読者として探さなければいけないのは、そんな経緯を知らない人、あるいは、読んでみたいと思ってくれる人たちだ。
そうしたときにヒントになるのは、有料でも一定の成功を収めている新しい報道系メディアだ。その一つ、NewsPicksはユーザーがコメントを自由に投稿したり、読めたりするコミュニティ機能を設置している。
NewsPicksでは自社の編集部員が取材、配信する独自ニュース、とりわけ新しいビジネスやサイエンスなどの報道に強いほか、著名人が動画で経済問題を語る番組などを強みにしている。ただし、日々流れているニュースの多くは他社からの配信が中心だ。ニュースが配信されると、有料会員が中心になってコメントを投稿していく。ユーザーのコメントには新たな知見や批評などもあり、NewsPicksでのコミュニティを形成している。そして、そんなコメントやコミュニケーションこそがユーザーを引きつける魅力的なコンテンツになっている。
そうした進取の取り組みが強みであることはNewsPicksの有料会員の伸びで証明されている。スタート間もない2014年第4四半期で約1700人だった同社の有料会員数は、2020年12月時点で約18万人。同年5月末の朝日新聞デジタルの有料会員約32万人と比較すれば、創業からわずか6年で朝デジの約6割の読者を獲得していることはかなりの健闘と言えるだろう。
では、NewsPicksの会員たちが既存の報道機関と比較してニュースの数や多彩さに対してだけ月会費を払っているかと言えば、そうではないだろう。多くの会員はむしろNewsPicksでのコメント、著名人たちの生配信など、ある種のコミュニティに価値を感じているからこそ有料会員になっていると推測できる。
では、こうしたコメント機能=コミュニティ機能は、既存の報道機関、新聞系サイトにも貢献するのだろうか。