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特定少年の推知報道を危惧 消せない過去、ネット上に

少年事件の匿名報道

山下幸夫 弁護士

はじめに

 少年法61条の推知報道の禁止規定は、戦後、日本国憲法が表現や報道の自由を保障したことを受けて大正少年法の罰則規定を削除して、報道機関の自主規制を求める規定になってから、初めて大きな改正がなされた。

拡大参院法務委で、少年法改正案が賛成多数で可決された=2021年5月20

 すなわち、「少年法等の一部を改正する法律」が本年4月1日に施行された。これまで「年長少年」と呼ばれていた18歳及び19歳の者は、今回の改正で「特定少年」とされ(改正少年法62条1項)、改正少年法68条は、「第六十一条の規定は、特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における同条の記事又は写真については、適用しない(以下、略)」と規定し、これまで「氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」と規定され、一律に実名・推知報道が禁止されていたことの例外として、検察官に事件が送致(逆送)された後公判請求された場合には、実名・推知報道の禁止が解除された。これにより、18歳以上20歳未満の特定少年の報道のあり方が大きく変わろうとしている。

少年法改正をめぐる論議

 2017年2月9日、法務大臣から法制審議会に対して、少年法の「少年」の年齢を18歳未満とすること等について諮問された。これは、選挙権が18歳に引き下げられ、民法の成年年齢も引き下げの議論が進むことなどを踏まえてなされた諮問であった。

 これを受けて、法制審議会に、少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下、単に「部会」という)が設けられ(私は日本弁護士連合会〈日弁連〉推薦の幹事として参加)、17年3月16日開催の第1回部会から20年9月9日までに29回の部会が開催され、同日、部会として、「取りまとめ(案)」が賛成多数で可決され、その後、同年10月29日に開催された法制審議会総会(第188回)において全会一致で承認され、法務大臣に答申された。

 部会においては、少年法の少年年齢引き下げについて、民法の成年年齢引き下げを受けた法制度全体の整合性や、選挙権を付与されたり憲法改正の国民投票権が与えられたことを踏まえて、少年年齢の引き下げをすべきであるとの積極意見と、改正前の少年法による年長少年に対する調査・審判・処遇は良好に行われているとの部会の共通認識があったことから引き下げる立法事実がないとの日弁連推薦の委員・幹事の反対意見とが鋭く対立し、議論は平行線をたどり、審議は長期化した。

 その後、行き詰まった議論を打開するために、19年12月9日の第21回会議に事務当局から「別案の検討のためのたたき台」として、18歳及び19歳の全部又は大部分の事件を家庭裁判所に送致し、その後、2000年の少年法改正で導入された「原則逆送」よりも拡大した事件を検察官に送致するという枠組みが提案され、以後、議論が続けられた。

 その後、政治の動きとして、20年7月30日に与党PT(プロジェクトチーム)が18歳・19歳の者を少年法の適用対象とするが、その取り扱いについて特別の規定を設けるとの合意をしたこともあり、部会での議論が進み、2020年9月9日開催の第29回部会において「取りまとめ(案)」を賛成多数で採決した(日弁連推薦委員2人は反対した)。

 その「取りまとめ(案)」においては、「18歳及び19歳の者は、選挙権及び憲法改正の国民投票権を付与され、民法上も成年として位置付けられるに至った一方で、類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性(かそせい)を有する存在であることからすると、刑事司法制度において、18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる取扱いをすべきである」とされ、少年法上の少年年齢引き下げ自体は否定された。その上で、検察官は、18歳及び19歳の全ての事件を家庭裁判所に送致し(全件送致主義は維持された)、家庭裁判所は、保護処分を課すか、刑事処分を相当とする場合及び新たな「原則逆送制度」により、短期1年以上の刑の事件は検察官に逆送し、検察官は、起訴強制により、逆送された事件を公判請求するという仕組みをとることとなった。また、18歳及び19歳には虞犯(ぐはん)は適用されないことになった。

 この「取りまとめ(案)」が法制審議会総会で承認され、法務大臣に答申された後、国会に提出された「少年法等の一部を改正する法律案」が審議され、21年5月21日に可決・成立し、本年4月1日から施行されている。

 改正少年法においては、18歳及び19歳の少年を「特定少年」と呼び、家庭裁判所が行う保護処分は、(1)6カ月の保護観察所の保護観察、(2)2年の保護観察所の保護観察(遵守事項違反があった場合に少年院送致できる)、(3)少年院送致の三つが定められ、いずれも、「犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内」においてその期間を審判において予(あらかじ)め決めることとされた(改正少年法64条)。「犯情の軽重を考慮」するというのは行為責任の上限を画するという意味であり、保護処分の選択や内容は、従来通り、要保護性によって判断される。

 検察官送致については、2000年改正で導入された「原則逆送制度」の対象事件に加えて、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの」が加えられ、強盗罪や強制性交等罪などが新たに対象とされた。

 また、刑事事件の特例のうち、勾留決定の特例、取り扱いの分離の特例、被告事件の手続きの分離の特例、不定期刑、換刑処分(労役場留置)の禁止、仮釈放の特例、資格制限の特例などが特定少年には適用されないことになった(改正少年法67条2項から6項)。これらについては成人に近い取り扱いを受けることになる。

 特定少年については、改正前よりも、やや多く検察官送致され、公判請求される事件もこれまでよりは増えると考えられるが、家庭裁判所や弁護士会も、「犯情の軽重を考慮」することにより行為責任が上限を画するとの制限はあるものの、要保護性により保護処分を決めるという従来の年長少年の運用を大きく変えない運用を目指そうとしており、その運用の定着を見守る必要がある。

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筆者

山下幸夫

山下幸夫(やました・ゆきお) 弁護士

1962年生まれ。89年に弁護士登録(東京弁護士会所属)。日弁連の刑事法制委員会委員長、秘密保護法・共謀罪法対策本部事務局長、法制審議会の少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会の幹事などを務めた。著書(共編著)に『少年事件の法律相談』(学陽書房)、『国際人権法実践ハンドブック』(現代人文社)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです