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少年の実名報道、英国では 本人の利益と公益の衡量

少年事件の匿名報道

小林恭子 在英ジャーナリスト

未成年者への報道の縛り

 未成年者に対する報道の縛りだが、イングランド・ウェールズが管轄地域となる英検察庁(CPS)のウェブサイトによると、英国の司法制度の根幹には「オープン・ジャスティス(開かれた司法)」という理念がある。司法審理は公の場で行われ、可視化されるべき、という考え方だ。この理念のもと、裁判は公開され、報道機関は審理過程を報道できる。このオープン・ジャスティスの理念は、英国の人権法(1998年成立)と欧州人権条約(1953年発効)による個人の人権擁護と合致している必要がある。

 公開原則の例外の一つが非公開で行われる青少年裁判所での審理である(ただし、報道機関は出席できる)。イングランド・ウェールズの場合、児童及び青少年法(1933年)第49条によって、青少年裁判の被害者、目撃者、被告のいずれかとなった18歳未満の青少年について、個人を特定する情報の報道は自動的に禁止となる。同法第39条を基に、民事及び家族裁判所での未成年の個人情報の報道は裁判所令によって禁止。また、少年司法・刑事証拠法(1999年)の第45条によって、刑事裁判所に出廷する被害者、目撃者、被告となった未成年者の個人情報の報道は裁判所令で禁止される。すべての司法過程において、司法関係者は未成年者の福祉(ウェルフェア)に考慮する義務を持ち、報道の解禁には緊急の社会的必要性などの理由が必要となる。

 スコットランドでは、スコットランド裁判所及び法廷サービス(SCTS)によると、刑事訴訟(スコットランド)法(1995年)が刑事裁判において未成年が被疑者、被害者、目撃者となった場合、個人を特定する情報の報道を禁じている。民事裁判においては、児童及び青少年(スコットランド)法(1937年)を基に、未成年者を特定する情報の報道禁止令を裁判所が出すことができる。

 北アイルランドでは、裁判で未成年者が被害者、目撃者、被疑者・被告となった場合に個人を特定できる情報の報道は自動的に禁止される。刑事裁判(児童)(北アイルランド)令(1998年)などによる。

 地方によって該当する法律は異なるが、未成年者が被害者、目撃者、被告となった場合に個人を特定する報道が自動的にあるいは裁判所令によって禁止される・制限される点は共通している。

拡大英国の自主規制組織「独立新聞基準組織(IPSO)」のサイト
「編集者の報道規約」

 一方、多くの新聞発行元や雑誌出版社が加盟する自主規制組織「独立新聞基準組織(IPSO)」が作成した「編集者の報道規約」によると、「犯罪報道」の項目の中に、「18歳未満が刑事犯罪で逮捕され、青少年裁判所に出廷する前に、編集者は児童の実名報道を一般的に避けた方がよい」と書かれている。「ただし未成年者の名前がすでに公知の事実となっているか、その個人(あるいは16歳未満の場合は成人の保護者など)が情報公開について同意を与えている場合を除く」。そして、「刑事裁判所に出廷する未成年者の場合、あるいは匿名令が解除された場合の実名報道の権利を限定するものではない」と表記されている。

 自動的な報道禁止ではない場合、報道機関側に「実名報道の権利がある」とする考えを示している。青少年裁判所ではなく刑事裁判所に未成年者が被害者、目撃者、あるいは被告として出廷する場合、事件が重大であるという理由から裁判所が匿名令を解くことがあり、この点も反映しているようだ。

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筆者

小林恭子

小林恭子(こばやし・ぎんこ) 在英ジャーナリスト

読売新聞の英字紙「デイリー・ヨミウリ」(現Japan News)の記者を経て、2002年渡英。政治やメディアについて多数の媒体に寄稿。著書『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』(中公新書ラクレ)、『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中公選書)。共訳書『チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力』(プレジデント社)。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです