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「共同親権」めぐる報道が映す 当事者の〝非対称〟への無自覚

報道とジェンダー(中)

太田啓子 弁護士

1.「共同親権」報道の問題点

 法務省法制審議会(家族法制部会)は、2022年7月19日の審議会で「家族法制の見直しに関する中間試案のたたき台(修正版)」を示した。この試案では複数の案が提示されており、大きくいえば、①共同親権を原則とする案、②単独親権を原則とする案、③現行の単独親権制度のままとする案、④共同・単独を原則とはせず選択できる案である。今後中間試案として正式に公表された上で、パブリックコメントが募集される予定である。

 このような状況を受け、離婚後の親子関係、特に「共同親権」はホットなテーマであり、近時、報道が増えている。例えば、法制審議会の試案公表に際しては各メディアが以下のように報じた。

■読売新聞 離婚後「共同親権」案、中間試案に盛り込む方針…海外では一般的(7月20日、注1
■朝日新聞 離婚後の「共同親権」、賛否対立し大激論 「単独親権」維持も併記(同19日、注2
■毎日新聞 協議離婚「養育」決めて  民法改正で義務化、法制審部会が検討 「ハードル上がる」慎重論も(同20日、注3
■日経新聞 法制審、離婚後の共同親権で論点 選択制など複数案提示(同19日、注4
■NHK 離婚後の子どもの養育 制度見直しへ 中間試案たたき台 法制審(同19日、注5

 しかし、共同親権についての報道は本質を十分に報じない不正確なものが多く、憂慮を覚える。この不正確さの背景には、ドメスティックバイオレンス(DV)への無理解や軽視があるように思われてならない。共同親権をめぐる報道の問題は、ジェンダーと報道を考える上での重要な事象であると考えるので、本稿ではいくつか具体的な報道も取り上げながらその問題点を検討したい。

 まず、共同親権について報じながら、そもそも「親権」とは何なのかについて正確な説明をしない報道が目立つ。

 親権には、日常的に世話をする「監護権」といわれるものと、進路や医療、財産管理等の重要事項決定権の二つが含まれる。広義の「親権」はこの二つを含むが狭義の「親権」は後者のみであり、前者の「監護権」と区別される。この「親権」と「監護権」の二つを混同した報道があまりに多い。

 前掲の朝日新聞には「親権には、大きく分けて、未成年の子の身の回りの世話(監護)と教育をする『身上(しんじょう)監護権』と、子の財産を管理して契約行為などを代理する『財産管理権』があるとされる」という記載があるが、前掲のその他の報道は狭義の「親権」と「監護権」の意義を明確に分けて認識した報道とはいい難い。例えば前掲のNHK記事には「離婚後の親権について、日本では、父母のいずれかが親権者となる『単独親権』が採用されていますが、近年、年間20万組前後が離婚していて、子どもの養育費の不払いや、親子の交流の断絶など、さまざまな問題が出ています」とあるのだが、養育費や親子の交流は「監護」の問題であって、単独親権制度に起因して生じている問題ではない。養育費や面会交流については民法766条に既に定めがあり、父母の協議で定めること及び協議できないときは家庭裁判所が定めるとされているのである。

 また、前掲日経新聞に「米国や英国、ドイツ、フランスなど先進国の多くは離婚後の共同親権を取り入れている」、前掲朝日新聞に「欧米の多くや韓国は、制度設計の違いはあるが離婚後の共同親権を可能にしており、国内でも『単独親権は子の奪い合いを招く』『離婚後も双方が養育に責任を持つべきだ』との指摘が出ていた」等とあることに典型的にみられるように、日本の現在の議論でいうところの「親権」と諸外国の「親権」を同じ意味であるかのように誤解させるような報道も多く、非常にミスリーディングである。実際には、日本での狭義の「親権」を共同行使している国はない(注6)。例えばイギリスは「親責任」(parental responsibility)という概念を導入し、親の権利性を弱め責任を明確にしようとしている(注7)。

 更に、あたかも現在の日本では離婚後に父母が共同意思決定することがおよそ不可能であるかのような報じ方も多い。例えば前掲NHK記事は「日本では現在、離婚したあとの未成年の子どもの親権は父か母のどちらか一方が持つ『単独親権』を採用していますが、『共同親権』が選べるようになると、子どもを育てるうえで必要な決定に双方の親が関わることができるようになります」と書く。しかし現在も、離婚協議あるいは調停で、離婚後に子の財産管理を共同するとか重要事項の意思決定を共同するということにしたいのであれば父母の同意があれば可能である。つまり、現在できないこと=これから導入が検討されていることは、「父母の同意がないにもかかわらず」子に関する重要事項についての共同意思決定を強制されるリスクがあるということが重要である。具体的には、例えばどこの学校に進学させるのか、ワクチンを接種させるのかどうかといったことについて父母の意見が対立したら決定できない。その都度家裁に判断を持ち込むことになるがそれはあまりに非現実的で、子どもの人生を左右するような重要な決定のタイミングを逸してしまうことにもなるだろう。

 共同親権というのはそういう議論であり、面会や養育費の問題ではないと正確に伝える報道はほとんどない。なぜなのか。

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筆者

太田啓子

太田啓子(おおた・けいこ) 弁護士

国際基督教大学を卒業後、2002年に弁護士登録。離婚、相続等の家族関係事件、セクシュアルハラスメントや性被害などの問題を数多く手がける。「明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)」のメンバーとして、市民向けの学習会「憲法カフェ」を各地で開催。著書に『これからの男の子たちへ』(大月書店)、『これでわかった!超訳 特定秘密保護法』(共著、岩波書店)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです