公共放送の行方(2)
2022年12月14日
NHKは10月11日、受信料を来年10月から引き下げると発表した。現行の受信料体系になって以降、値下げは4回目となる。
収支に余裕が生じたのなら、視聴者の負担を軽減するのは当然だ。しかし、前田晃伸会長が2020年8月にまとめた21~23年度の中期経営計画案では、BS1波を23年度に削減するなど事業規模を縮小する方針を示しながらも、19、20年度に連続で値下げすることを踏まえ、受信料は「現行の料額を維持する」と明記していた。
それが一転したのは、20年9月に就任した菅義偉首相が国民の歓心を買うべく、NHK受信料と携帯電話料金の値下げを「最重要課題」として取り組むよう指示したからだ。武田良太総務相は、新型コロナウイルス禍の中で「家計の負担を減らす受信料の値下げにまず着手するのが、公共放送としてのあるべき姿だ」などと繰り返し要求。NHKは21年1月に正式決定した中期経営計画で、23年度に1割程度の値下げを行うと約束した。
折から総務省は、受信料不払いへの割増金を法制化するべきだとの有識者会議報告書を策定し、「NHK+」などインターネット業務の年間費用を受信料収入の2・5%(20年度予算で約174億円)から200億円に拡大したいとのNHKの申請を認可した。
NHK幹部によると、その後、コロナ禍の影響による減収やロシアのウクライナ侵攻に付随した物価上昇を考慮し、受信料値下げは衛星契約のみとする方向で調整していた。だが、自民党筋から地上契約も下げるよう求められ、土壇場になって両契約とも10%を超える過去最大の引き下げを決めたという。
アメとムチで迫られ、大幅値下げに追い込まれたNHKの姿は、政治に翻弄されてきた歴史を象徴している。
占領下の1950年、放送法の施行により、NHKは社団法人日本放送協会から、特殊法人の日本放送協会に改組された。事実上の国営放送から、独立性の高い公共放送への歴史的転換である。放送法は、その目的として「放送による表現の自由を確保」し、「健全な民主主義の発達に資する」ことを掲げた。放送への政治の影響を避けるため、放送行政は独立行政機関の電波監理委員会が担うことになった。
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