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BBCの100年、貫く公益 多メディア空間における意義

公共放送の行方(3)

小林恭子 在英ジャーナリスト

 世界で最も信頼度が高いメディアの一つとされる英BBCは、英国文化の発信媒体として王室と並ぶ知名度を持つ。今年9月19日のエリザベス女王の国葬では、英国内の多くの放送局がその模様を実況中継した。人口の約40%に当たる約2800万人が番組を視聴したが、そのうちの2千万人がBBCで見たという。英国の放送界でもトップを走る存在と言えよう。

William Barton/Shutterstock.com

 日本のNHKに相当するのが英国のBBCだ。同様に「公共放送」で、視聴世帯からNHKは放送受信料、BBCは「テレビライセンス料」を徴収し、これで活動をほぼ賄っている。ではどこが違うのか。本稿では、BBCの成り立ちと組織の構成、ジャーナリズムの手法などを紹介し、NHKとの違いを明らかにしてみたい。

初期から「公共」のために

 英国でラジオ放送が開始されたのは1920年代に入ってからである。20年1月、イタリアの発明家で無線研究家のグリエルモ・マルコーニが、英国でアマチュア無線の愛好家向けに実験放送を開始した。放送認可を与える英郵政省のもとには、無線機メーカーから放送局設置の申請書が続々と届くようになった。政府は周波数の混信を防ぐため、メーカー側が一つの組織にまとまることを望んだ。そこで22年10月に結成されたのが民間企業「英国放送会社」(British Broadcasting Company=BBC)であった。BBCは政府からラジオの販売と放送業の事実上の独占権を与えられた。1955年に民放ITVが開局するまで、放送業と言えばBBCを指していた。

 英国では放送業を公共サービスの一つとする考え方が根づいている。1920年代初期、郵便、水道、電気が公共組織化されており、知識人及びアマチュア無線の愛好家の中では放送も公共の利益のための媒体だという見方が広がっていた。放送業の将来のあり方を決めるため調査委員会が立ち上げられた。委員会は1926年3月、議会に報告書を提出し、BBCを公共組織として設置するよう提言した。これに伴って、1927年、BBCは公共体「英国放送協会」(British Broadcasting Corporation=BBC)として誕生し、現在に至る。

 BBCの存立とその業務を規定する基本法規は、国王の特許状(王立憲章=ロイヤル・チャーター)と、BBCと担当大臣との間で交わされる協定書(アグリーメント)である。特許状はほぼ10年ごとに更新される。現在の特許状の有効期間は2017年1月1日から2027年12月31日まで。テレビライセンス料の支払い対象となるのは、BBCを含むいずれかのテレビ局の番組を放送時にあるいは録画などで後で視聴する世帯、及びBBCのオンデマンドサービス「BBCアイ・プレーヤー」を使って番組を視聴あるいはダウンロードする世帯である。該当するサービスを利用できるデバイスが対象となり、テレビ受像機のあるなしにかかわらない。金額は年間159ポンド(約2万7千円)。ただし低所得の高齢者など一定の条件を満たす人には支払い免除もある。

エリザベス女王の国葬を多くの人がBBCのチャンネルで視聴した(BBCニュースのサイトから)

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