政治報道は変わったか(2)
2023年01月16日
記事の中で匿名の取材源を使う場合、掲載前に編集最高幹部らの許可を得ることを条件とする――。ニューヨーク・タイムズが2016年3月に導入した匿名報道に関する新しいルールだ。
きっかけは15年の7月と12月に掲載した二つの誤報だった。どちらも取材源は匿名の政府関係者。前者は当時、米大統領選に向けた民主党の予備選に出馬していたヒラリー・クリントン氏が国務長官在任当時に私用メールアカウントを公務に使った問題に関するニュース。後者は同年12月に米カリフォルニア州で14人が犠牲になった障害者施設での銃乱射事件の外国人容疑者に関連し、政府のビザ審査体制の不備を指摘する記事だった(写真①と②に誤報の詳細)。
新ルール導入の前に匿名報道ルールがなかったわけではない。匿名の引用について「ニュース価値があり信頼できると考える情報を他の方法で公表できないと判断した場合の最後の手段」と定義していた(注:朝日新聞社では記者行動基準で匿名報道について「情報の出所は、読者がその記事の信頼性を判断するための重要な要素であり、可能なかぎり明示する」としている)。
同紙が新ルールを公表する前、ディーン・バケー編集主幹(当時)は15年12月の誤報について、同紙パブリックエディター(当時)の質問に答え、「大きな誤報だった。編集主幹に就任してから、これほど匿名取材源の利用について何らかの手を打たなければならないと考えさせられる出来事はなかった。解決しなければならないシステム不全だ」と語っている。
同紙によると、規範エディターの概算として、新ルール導入後の4カ月間に匿名取材源の引用が約30%減少したという。
当時のバケー編集主幹らが編集部門に示した新ルールと背景説明の全文の内容は以下の通り。(文・翻訳/城俊雄)
*原文は、ニューヨーク・タイムズの広報ページに公表されています。こちらからどうぞ。
匿名の情報源を利用することは、我々のジャーナリズムの使命にとって、時に極めて重要です。しかし同時に、それは我々にとって最も価値があり、最大限の慎重な扱いを要する、読者との信頼関係への重荷となります。
匿名での報道を約束すれば、最大限の効果として、テロ集団の残虐行為や政府の権力乱用、あるいは、情報源が自らの生命や自由、職業を危険にさらす可能性のある状況を明らかにすることができます。国家安全保障のようにセンシティブな分野の報道では、やむを得ない場合もあります。しかし、その他のケースで、匿名で語る人々に自らの意図に沿うように記事を歪めることを許してしまうのではないか、という疑問を読者は抱いています。まれに、十分な疑問や懐疑心を持たずに匿名の情報源から得た情報を掲載し、それが間違いであることが判明したこともありました。
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