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桁違いに大きい地震の原発事故リスクに「安全目標」未達? 見送られた津波対策

奥山 俊宏

 阿部清治(きよはる)(75)は、日本原子力研究所(原研)で、原発の炉心溶融事故の発生確率を計算する研究に取り組むようになった。

拡大国際原子力機関(IAEA)の会合で発言する阿部清治(左から2人目)。随行の東京電力・矢作公利(やはぎ きみとし)(左端)とともに、日本政府代表の保安院審議官・中村幸一郎(左から3人目)を補佐した=2011年4月4日、オーストリアのウィーン、IAEA事務局Dean Calma撮影
 国際原子力機関(IAEA)は、原発の炉心損傷事故の確率を既設炉で1万年に1回、新設炉で10万年に1回を下回るようにするべきだとの目標を掲げている(注1) 。格納容器破損はその10分の1。世界に500基弱の既存原発がある前提で単純計算すれば炉心損傷事故が世界のどこかで20年に1回起きる程度の目標である。

 当初、日本の原発に関する計算結果はこの目標をクリアしているように見えた。たとえば福島第一原発1号機の格納容器破損頻度は1億年に1回と見積もられた(注2) 。しかし、それは地震など発電所外部の要因を計算に入れていなかった。

 原研で研究した結果、他の国々と異なり、日本では地震による事故の確率がどうやら桁違いに大きいらしいことが1990年代以降にわかってきた。国内のいくつかの原発は新設炉のIAEA目標を満たせないと阿部は思った。

 原発の安全規制に40年余にわたって関わった原子炉事故研究者、阿部清治(75)の目を通し、日本が原子力にどう向き合ってきたか、その現場を5回の連載でたどる。この原稿は、2021年3月17日の朝日新聞夕刊に掲載された原稿に大幅加筆したその第3回。敬称はすべて略す。
 第1回は「DCHの恐怖、窒素封入配管の開放を進言… 福島原発最悪の夜」。
 第2回は「原発『安全研究』は事故リスク解析、米スリーマイル島事故が転機に
 第4回は「原発の安全規制で『戦争』を想定外にしていい理由は? 『我々、福島で痛い目に』」。
 第5回は「『それでも、いつかどこかで原発事故は起きる』 想像力を養い、弱点見抜け」。

 2001年、政府の原

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
 ご連絡は okuyama-t@protonmail.comに。メールの内容を暗号化する場合はPGPで。パブリックキーのIDは7D2BAD43550EAD96

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