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コーポレートPPA(電力購入契約)による再生可能エネルギーのさらなる導入

川本 周

コーポレートPPAによる再生可能エネルギーのさらなる導入

1 はじめに

拡大川本 周(かわもと・あまね)
 2003年、東京大学法学部卒。2006年、第一東京弁護士会登録。2013年、Columbia Law School修了(LL.M.)。2014年、ニューヨーク州弁護士登録。2013~2015年、Marubeni Europower Limited (ロンドン) 出向。
 2020年10月の菅内閣総理大臣の所信表明演説における2050年カーボンニュートラル宣言以降、同年12月には「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が策定され、さらに2021年5月には2030年度の温室効果ガスの削減目標が従前の26%削減から46%削減(いずれも2013年度比)へと大幅に引き上げられるなど、脱炭素社会に向けた取組みを重視する政府の姿勢が顕著になっている。国際的にも、米国のバイデン政権がパリ協定に復帰し、各国が温室効果ガスの削減目標を競い合う状況である。かかる脱炭素社会の実現に向けて中心的な役割を担うのは、電力分野における再生可能エネルギー電源のさらなる拡充である。固定価格買取(FIT)制度の導入以降、太陽光発電を中心に再エネが拡大しているが、2030年度の温室効果ガス削減目標を達成するには、より一層の再エネの導入が求められている。
 かかる状況の中、近時、今後の再エネ促進の切り札として、コーポレートPPAが注目を集めている。本稿では、コーポレートPPAについて、コーポレートPPAへの期待が集まる背景を含めて、そのスキームや制度的な課題を紹介する。

2 コーポレートPPAとは

 まず、「PPA」とは、Power Purchase Agreementの略語である。直訳すると電力購入契約であるが、発電側の視点から「売電契約」と呼ばれることも多い。
 発電所を開発・建設するプロジェクトを実施するに当たっては、PPAは事業者の収入の源であり、事業者が自らの投資を決定するうえでも、また、プロジェクト・ファイナンスによって資金調達を行ううえでも、要となる契約である。
 PPAといえば、かつては大手電力会社を購入者として締結する電気の卸売り契約を指すものであった。このようないわゆるUtilityではなく、Corporate、つまり企業需要家が直接の買い手となるPPAが、コーポレートPPAである。
 近年、欧米の再エネの分野では、コーポレートPPAが数多く締結されている。大手IT企業がデータセンターで利用する電気を確保するため再エネ発電所とコーポレートPPAを締結するといった例がある。
 なお、発電設備が需要場所と同じサイトに設置される場合をオンサイト型PPA、需要場所とは別の遠隔地に発電設備を設置する場合をオフサイト型PPAと呼ぶことがあるが、コーポレートPPAとして想定されるのはオフサイト型PPAである。

3 コーポレートPPAへの期待が集まる背景

 コーポレートPPAが注目を集めているが、そこには、電気を購入する需要家たる企業側、再エネ事業の開発・建設を行おうとする発電事業者側、さらには需要家に電気を販売してきた小売電気事業者側それぞれに背景となる事情がある。また、再エネの導入促進の役割を果たしてきた固定価格買取(FIT)制度の動向も影響している。

(1) 需要家企業の事情

 まず、電気を購入する需要家企業の側の事情としては、近年の気候変動対策・脱炭素化への関心の高まりがある。自社で使用する電気が環境に与える影響についても、ESGやSDGsの観点から重要な課題となっており、再エネの電気へのアクセスのニーズが高まっている。事業活動で使用する電気を再エネ100%とすることを目指す国際的イニシアティブのRE100に参加する日本企業も増加している。
 また、企業需要家の中には、単に再エネ電気を購入するのにとどまらず、新たな再エネ電源の追加に貢献するという「追加性(additionality)」のある再エネ電気を調達したいというニーズも存在する。
 このような再エネ電気購入に向けたニーズに応える手段としてのコーポレートPPAが着目されている。

(2) 発電事業者の事情

 発電事業は、発電所の開発・建設という初期段階に多大なコストがかかり、このコストを発電所運転開始後の収入によって長期にわたって回収するというモデルのビジネスである。新規の発電設備の開発・建設に向けた投資決定や、プロジェクト・ファイナンスによる資金調達に当たっては、電気の売却による長期間の確実な収入が見込まれることが必要となる。その役割を担っていたのが、電力会社との間の長期間のPPAであったり、再エネの固定価格買取(FIT)のような制度であったりする。
 しかし、電力市場の自由化が進み、卸取引市場などマーケットが整備された環境では、新たに発電事業に参入しようとする事業者にとって従来型の電力会社との長期間のPPAを締結することは困難となっている。
 また、日本の再エネ支援の中核であったFIT制度においても、制度導入当初は投資を呼び込むのに十分な水準の売電単価(調達価格)が設定されていたが、その後徐々に価格が切り下げられている。特に事業用太陽光発電の場合、当初は40円/kWhであった単価が、2021年度は10円/kWh以下の水準となっており、FITに頼らない事業構築の検討が必要となっている。
 このような状況で、発電事業者側が従来型のPPAに代わって期待を寄せているのが、企業需要家との間のコーポレートPPAである。

(3) 小売電気事業者の事情

 コーポレートPPAは、基本的に発電事業者と需要家との間の取引に係る契約であるが、後述のように、日本では需要家に対する電気の供給には小売電気事業の登録が必要となっている関係で、小売電気事業者も参加する形でのスキームが模索されることがある。小売電気事業者としても、電気という取扱商品の性質上、競合他社との間で商品の差別化を図ることは難しく、値下げ競争で争わざるを得ないという状況において、新たなビジネスの機会として、コーポレートPPAの取引への関与が注目されている。

(4) FIT制度の改正動向による影響

 近年のわが国の再エネ導入を支えてきた固定価格買取(FIT)制度の下では、発電事業者は、電力会社との間の「特定契約」によって、20年間等の長期間に渡って固定金額で再エネ電源から発電される電気の全てを買い取ってもらうことができる。FIT制度は、長期間に渡って価格変更変動リスクを負わず、買い手の需要量にも左右されない形のPPAを制度として保障したものといえる。
 FITの価格が、発電事業者の投資決定や資金調達のため十分な水準であれば、FITよりもあえてコーポレートPPAを選ぶ理由はない。また、FITの価格が、市場価格よりもかなり高い水準であれば、電気の需要側の企業としても、これに匹敵する高水準の価格で再エネ電源から電気を購入することは経済的に現実的・合理的な選択ではない。
 しかし、このような状況は、2022年度からの制度変更で変容する。2020年、いわゆるエネルギー供給強靱化法によって再エネ特措法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)が改正され、2022年度からは、FIP(Feed-in Premium)制度が導入される。FITでは送配電事業者が電気を所定の固定価格で長期間購入することが義務付けられていたが、FIPの下では、発電事業者は、相対取引か取引所で電気を売却することになる。FITとコーポレートPPAは両立しないが、FIP制度の下では、FIPの支援を受けながら、コーポレートPPAで電気を売却する余地もある。購入する側としても、FIPによるプレミアムを除いた市場価格の水準で電気を購入する道が開ける。FIP制度の導入は、コーポレートPPAが日本でも広がる一つの契機となる可能性がある。

4 コーポレートPPAのスキーム

 再エネ発電事業者が需要家に直接電気を販売しようとする場合に問題となるのは、小売電気事業の登録である。需要家に電気を供給する事業、すなわち小売電気事業を営もうとする者は、小売電気事業の登録が必要となる。再エネ発電事業者は特定の発電事業のみを行うことを目的として設立されたプロジェクトSPCであることが多く、小売電気事業の登録を受けることは現実的でない。そのため、小売電気事業者も含めた三者間の取引として構築することが1つの選択肢となる。

 また、これとは別に、再エネ電気自体を取引するのではなく、再エネとしての価値(環境価値)を取り出して、電気とは別に取引するという手法も考えられる。ここでは、電気は実際には取引されず、ヴァーチャルPPAと呼ばれる(逆に、前記のような、再エネ発電事業者から需要家に実際に電気を販売する類型のPPAを、フィジカルPPAと呼ぶ。)。典型的なヴァーチャルPPAでは、あらかじめ発電事業者と需要家企業の間で所定の単価(ストライク・プライス)が定められ、その単価との市場価格との差額を需要家が発電事業者に支

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筆者

川本 周

川本 周(かわもと・あまね) 

 2003年、東京大学法学部卒。2006年、第一東京弁護士会登録。2013年、Columbia Law School修了(LL.M.)。2014年、ニューヨーク州弁護士登録。2013~2015年、Marubeni Europower Limited (ロンドン) 出向。
 著書・論考に「First tender process under new offshore wind law underway」(International Law Office Newsletter、2020年8月)、「エネルギー法実務要説」(商事法務、2018年6月)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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