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著作権ライセンス「利用権」当然対抗制度の導入と実務に与える影響

菊地 浩之

著作権ライセンスへの当然対抗制度の導入と実務に与える影響

拡大菊地 浩之(きくち・ひろゆき)
 弁護士・カリフォルニア州弁護士。
 ソフトウェア開発会社勤務を経て、2003年弁護士登録、2009年カリフォルニア州弁護士登録。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2008年ジョージワシントン大学ロースクール卒業(IP LL.M.)。2008年から2009年までロープスアンドグレイ法律事務所(ニューヨークオフィス)にて研修。

1. はじめに

 「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律」(令和2年法律第48号)による著作権法改正のうち、利用権の当然対抗制度(著作権法63条の2)に関する改正は、昨年10月1日に施行され、著作権に関するライセンスにも当然対抗制度が導入されることとなった。ライセンシー保護のために、特許権、実用新案権及び意匠権の通常実施権の当然対抗制度は、平成23年(2011年)の特許法等の改正により導入されており、著作権のライセンスにおいても当然対抗制度の導入が議論されていたことを受けたものである。

 当然対抗とは、著作権の利用権者が、当該利用権設定後に当該著作権の譲渡を受けた者などに対して、何らの要件もなく、利用権を主張できるというものであり、当該著作権を譲り受けた者からすると、利用権者による利用権の範囲内の当該著作権の利用につき、差止請求、損害賠償請求、不当利得返還請求ができなくなるということになる。これまでは、「売買は賃貸を破る」という民法の原則により、著作権を取得した者に対して、利用権者は自らの利用権を主張できなかったが(加えて、当然対抗制度導入前の特許法のように通常実施権を特許原簿に登録することによって、新たな特許権者に通常実施権を対抗できるという制度もなく、これまでは、著作権の利用権者は、新たな著作権者に対抗する手段が全くなかった。)、今後は利用権を主張できるようになる。この当然対抗制度が実務に与える影響や留意点を検討する。

 なお、上記の著作権法改正により、「利用権」という定義が設けられ、この用語は、著作権者から許諾を受けた著作物をその許諾に係る利用方法及び条件の範囲内において利用することができる権利を意味する。

 また、経過措置により、当然対抗制度の導入前に利用権の設定を受けた利用権者であっても、当然対抗制度の導入後に新たに著作権を譲り受けた者に対して利用権を対抗できる(附則8条)。

2. 著作権を譲り受ける場合

(1) 利用権の調査、表明保証

 これまでは、譲り受けた著作権につき既に利用権が設定されていたとしても、利用権者は当該著作権の譲受人に利用権を対抗できなかったが、当然対抗制度の導入により、利用権者は利用権を対抗できることになった。そのため、著作権を譲り受けようとする者は、意図せずに利用権の負担付きの著作権を譲り受けることとならないようにするため、利用権の有無の確認がこれまで以上に重要となる。

 具体的には、利用権の有無につき、著作権者に確認し、設定しているようであれば、ライセンス契約を確認することなどが考えられるが、著作権者が正直に利用権の存在を明かすとは限らない。そこで、その対策として、著作権譲渡契約において、譲渡の対象となっている著作権について利用権が存在していないことを譲渡人に表明保証させることが考えられる。その場合には、表明保証義務違反の場合の補償の規定を設けることによって表明保証に実効性をもたせる必要がある。

(2) 著作権の移転登録

 これまでの実務では、著作権譲渡が行われた場合に、著作権の移転登録を行うことは稀であったと理解している。著作権の譲渡は移転登録が対抗要件であるため、これまでも著作権者が著作権を二重譲渡した場合には、移転登録を先にしないともう一方の譲受人に負けるというリスクがあったが、当然対抗制度の導入により、著作権譲渡後に譲渡人から利用権の設定を受けた利用権者にも負けるというリスクが加わることになった。すなわち、著作権譲渡契約の締結後に譲渡人が利用権を設定した場合でも、著作権譲渡の移転登録と利用権設定の先後により、譲受人は利用権の対抗を受ける場合があることになる。

 このような事態を想定して、著作権譲渡契約に、譲渡人による譲渡対象著作権の処分禁止(二重譲渡のみならず、利用権の設定も含めて)を規定することも考えられるが、譲渡人が当該処分禁止に違反して利用権の設定を行った場合には、当該利用権の設定が無効になることはない。そのため、著作権の譲受人としては、著作権の移転登録を行うことも検討すべきである。

3. ライセンシーの立場から

(1) 利用権設定時期の証拠化

 上述のように、利用権を著作権の譲受人に対抗できるかどうかは、利用権の設定と著作権の移転登録の先後で決まることになり、ライセンシーの立場からは利用権の設定を受けた時期が重要となる。利用権設定時期の立証に関しては、一般的にライセンス契約の締結日を用いることが多いように思われるが、物理的に契約書はバックデートが可能であり、契約書のみで利用権設定時期が立証できるとは限らない。そこで、重要なライセンス契約については、公証人による確定日付を取得することも考えられる。また、近時普及してきた電子契約を利用するということも考えられる。

(2) 対抗できる利用権の範囲

 ライセンシーの立場からの留意点として、権利不行使が当然対抗の対象となるかという点もある。権利不行使とは、契約上、著作権者がライセンシーに対し、利用権を許諾すると規定するのではなく、著作権者が契約の相手方に対し、その著作権を行使しないという約束をするものである。例えば、著作物Aについて著作物Aよりも先に創作された著作物Bとの抵触が問題となり、著作物Bに対する侵害は認めないものの、抵触の有無に関する紛争は解決する目的で、著作物Bの著作権者が著作物Aの著作権者に対し、著作物Bに係る著作権を行使しないという合意をすることが考えられる。特許権の当然対抗においても、権利不行使の合意が当然対抗の対象となるか議論があり、確立した解釈が存在しないままとなっているが、著作権のライセンスにおいても同様と考えられる。そこで、著作権の抵触の有無に争いがある場合に、著作権の利用許諾を受けることまで合意することには心理的な抵抗があり、権利不行使の合意に留めることが好まれる場面もあるかもしれないが、権利不行使とすると当然対抗が認められないリスクが残ることに留意する必要がある。

(3) サブライセンス

 サブライセンスが利用権として当然対抗の対象となるかという論点に関しては、二つの側面があり、①著作権の譲渡前に既に存在するサブライセンシーが著作権の譲受人に利用権を対抗できるかという問題と、②ライセンス契約においてライセンシーにサブライセンスを付与する権利が与えられていて、著作権の譲渡後(著作権の移転登録後)にサブライセンスを付与した場合に当該サブライセンシーが譲受人に利用権を対抗できるかという問題がある。

 上記①の場合には、サブライセンシーも著作権の譲受人に利用権を対抗できるという見解が一般的と思われる。他方で、上記②の場合には、下記4に記載するライセンス契約の帰趨の問題が関わることとなり、サブライセンス権限付与義務が譲受人に承継される場合には、著作権譲渡後にサブライセンスを付与されたサブライセンシーも譲受人にサブライセンスを対抗でき、サブライセンス権限付与義務が譲受人に承継されない場合には、著作権譲渡後にサブライセンスを付与されたサブライセンシーは譲受人にサブライセンスを対抗できないということになると考えられる。そのため、ライセンシーとしては、有効にサブライセンスを成立させるために、できるだけ早めにサブライセンスを付与するということも検討すべき課題となる。

4. 著作権譲渡に伴うライセンス契約の帰趨

 著作権の譲受人が利用権の対抗を受ける場合、当該利用権に係るライセンス契約上の地位を譲受人が承継するかという問題がある。特許法における通常実施権の当然対抗制度の導入の際にも論点となっており、当然承継説、当然非承継説、折衷説があり、決着を見ていない。著作権のライセンス契約においても同様であり、ライセンス契約の一部又は全部が譲受人に承継されるかは明らかではなく、著作権の譲受人及びライセンシーともに、ライセンス契約が承継されない可能性を踏まえて、対応を考える必要がある。

(1) 譲受人の立場から

 譲受人として最も関心が高いのはライセンス料の支払に関する規定が譲受人に承継されるかという点ではないかと思われる。仮に承継されないとなると、ライセンシーは既存のライセンサー(譲渡人)に対してライセンス料を支払い続けるということになるため、当該ライセンス料を既存のライセンサーから譲受人に支払う義務やライセンシーがライセンス料の支払いを遅延した場合などに譲受人の指示に従い、既存のライセンサーが徴収を行う義務を著作権譲渡契約に定めることが考えられる。また、著作権譲渡後のライセンス料の金額が明確であれば、その分を考慮して著作権譲渡の対価を低く設定することも考えられる。

 さらに、ライセンス契約においては、期間を定めた上で、自動更新の定めがある場合があるが、この場合の自動更新を拒絶する権利が譲受人に承継されないとなると、いつまでライセンスが継続するか譲受人がコントロールできないことになる。そこで、著作権譲渡契約において、自動更新に関する譲受人の決定に譲渡人がしたがうことを義務付けることが考えられる。ライセンシーがライセンス契約に違反した場合の解除権についても同様である。

 加えて、著作権のライセンス契約においては、ライセンサーに校閲権が与えられていることがある。校閲権が譲受人に承継されないとすると、譲受人はライセンシーによる著作物の利用にコントロールを及ばせられないことになる。そこで、著作権譲渡契約において、譲受人を校閲に関与させることを規定することが考えられるが、他方で、著作権の譲渡人が著作者である場合には、著作者人格権である同一性保持権との兼ね合いも問題となり、譲受人が校閲に関与することを認めるとしても、譲渡人である著作者にも校閲権を認める必要が出てくることが考えられる。

(2) ライセンシーの立場から

 これまでのライセンス契約においては、ライセンサーである著作権者がライセンス対象である著作物を第三者に譲渡する場合に、当該第三者にライセンス契約を承継させる又はライセンスを承諾させる義務を規定することもあった。利用権が対抗できることになったことによって、このような規定が当然に不要となることにはならない。例えば、独占的なライセンスであった場合には、第三者にライセンスを許諾しないというライセンサーの義務をライセンス対象著作権の譲受人にも承継させるメリットがライセンシーにはあるところ、上記の通り当該義務が譲受人に当然に承継されるか不明であるため、従前同様に譲受人にライセンス契約を承継させる義務を課すことも検討すべきである。

 なお、ライセンサーに対して譲受人にライセンス契約を承継させる義務を課したとしても、当該義務の対象者はライセンサーであり、ライセンサーが当該義務に違反して、ライセンス契約を承継させずに著作権を譲渡した場合、譲受人にライセンス契約の承継を主張できるわけではなく、当該ライセンサーに義務違反を主張できるのみである点には留意が必要である。

5. ソフトウェアエスクロー

 当然対抗制度の導入により影響を受けるものとして、ソフトウェアエスクローも考えられる。ソフトウェアエスクローとは、ソフトウェアのライセンスに関連して、ソースコードや当該ソフトウェアの開発関連資料を第三者(エスクローエージェント)に預託し、ライセンサーに一定事由(例えば、ソフトウェア開発に関する事業の停止、破産など)が発生した場合には、エスクローエージェントがソースコードや当該資料をライセンシーに提供し、ライセンシーにおいて当該ソースコード等を用いてソフトウェアのアップデートなどを行えるようにするものである。ライセンスに関連してライセンサーからライセンシーに提供されるソフトウェアはオブジェクトコード(機械語)が一般的であり、ソースコード(人間が読むことの可能なプログラム言語によって作成されたソフトウェア)が提供されることは稀である。なぜなら、ソースコードを読めばソフトウェアの処理手順などが分かることになり、ソフトウェアに関するノウハウなどが分かってしまうからである。

 米国においては、ソフトウェアエスクローが頻繁に利用されているが、我が国においてソフトウェアエスクローが利用されることはあまりないと認識している。その理由の一つとして、これまで著作権のライセンスに当然対抗制度が認められていなかったことが考えられる。つまり、ソフトウェアエスクローが利用される典型的な事例としてライセンサーの破産があるが、ソフトウェアのライセンス契約は通常は双方未履行の双務契約に該当すると考えられるところ、対抗力がなく、破産管財人が解除することができる(破産法56条1項)。そのため、ライセンスが安定的ではなく、ライセンスが解除されれば、ソースコードが利用できなくなることから、ソフトウェアエスクローの意味がなくなるということである。これに対して、当然対抗制度の導入により、双方未履行債務の双務契約として破産管財人から解除されることはなくなり、引き続きライセンスが継続するため、ソフトウェアエスクローの利用が増える可能性がある。

 なお、ライセンシー自体がソースコードの修正を行えないことも考えられるので、第三者に委託できるようにしておくことが必要になることも考えられる。

6. 最後に

 以

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筆者

菊地 浩之

菊地 浩之(きくち・ひろゆき) 

 ソフトウェア開発会社勤務を経て、2003年弁護士登録、2009年カリフォルニア州弁護士登録。1995年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2008年ジョージワシントン大学ロースクール卒業(IP LL.M.)。2008年から2009年までロープスアンドグレイ法律事務所(ニューヨークオフィス)にて研修。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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