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東京五輪・武藤事務総長の古傷 大蔵省接待汚職で危機管理に失敗

奥山 俊宏

 東京五輪組織委員会の事務総長を務める武藤敏郎氏にとっておそらく人生最大の失態だったのは、1998年に刑事事件となった大蔵省の接待汚職への対応だ。同省の官房長として疑惑を内部調査して責任を明確にすべき立場にあったが、「全体を調査したが、違法な事実はなかった」として、疑惑にふたをしようとした。実際にはきちんとした調査をしておらず、98年1月26日には部下職員2人を逮捕され、自身も辞意を首相に伝えざるをえなくなった。あれから23年あまりがたつ。危機管理能力に疑問符をつけられた経験を教訓にできているのだろうか。

拡大財務事務次官の退任にあたって記者会見する武藤敏郎氏=2003‎年‎1‎月‎14‎日午後2時11分、東京・霞が関の財務省内で
 1998年1月19日、国民の声の石井一衆院議員(当時)は予算委員会で急きょ質問に立った。「主要銀行と証券会社の現・旧幹部が証言する大蔵接待の実態」などと見出しのついた年末年始の新聞記事のコピーを手に大蔵省を追及。東京三菱銀行、住友銀行、三和銀行、野村証券、日興証券などの社名を挙げ、当時の三塚博蔵相に対し、「調べる義務がある、責任がある」と迫った。

 調査を約束しない蔵相をさらに追及したところ、そこに割って入るように登場したのが大蔵大臣官房長の武藤氏だった。接待疑惑について武藤氏は「一昨年の12月に大蔵省は倫理規程を出しましたが、それ以後におきましては、私どもはない、これは調査した結果ないと思っております」と明言。これを補うように三塚蔵相も「全体を調べた結果をいま官房長が言った」「職員につき聞き取りをした結果、違法な事実はありませんでした」と述べた。

 しかし、実のところ、きちんとした調査などしていなかった。この時点で、職員から聞き取り調査をしていたのは第一勧業銀行、大和銀行の検査時などごく一部のケースだけ。銀行局や証券局の総務課長、金融検査部の管理課長に対して倫理規程の順守状況を問い合わせることはあったものの、網羅的な調査はしていなかった。武藤氏の答弁にある「一昨年の12月」、すなわち96年12月以降も、金融機関による大蔵省職員への接待が続いていたことは省内や金融業界の多くの人が知る公然の秘密だった。

拡大大蔵省に家宅捜索に入った東京地検の係官たち=1998年1月26日午後4時40分、東京・霞が関で
 案の定、「ウソ」はすぐに破綻する。答弁の1週間後、武藤氏のおひざもとの大臣官房で金融検査部の職員2人が、金融機関から「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待などで収賄したとして東京地検特捜部に逮捕された。2人は96年12月以降も違法に接待を受け続けていた。蔵相と事務次官は辞任に追い込まれた。大蔵省は調査にのりださざるをえなくなり、4か月後に112人を処分し、証券局長だった長野厖士氏ら3人を辞職させた。武藤氏は官房長からその下の総務審議官に降格となった。

 そもそもその前年の夏

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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