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カビ型の企業不祥事にムシ型の対応は誤り タイプを見極めて対策を

中山 達樹

企業不祥事の2分類と風土改革の必要

  

中山国際法律事務所 代表弁護士
中山 達樹

拡大中山 達樹(なかやま・たつき)
 東京大学法学部,シンガポール国立大学法学部ロースクール卒業。シンギュラリティ大学エグゼクティブ・プログラム及びリー・クアンユー公共政策大学院リーダーズ・プログラム修了。Drew & Napier法律事務所などを経て,現在は中山国際法律事務所の代表弁護士・海外事業コンサルタント・公認不正検査士。主要著書に『アジア労働法の実務Q&A』(商事法務,共著)など。海外進出及びグローバル・コンプライアンスに関する講演多数。環太平洋法曹協会にて要職を歴任。

三菱電機の検査不正
―コンプライアンスの機能不全

 本年7月に発覚した三菱電機の検査不正は、日本の「コンプライアンスの機能不全」を明るみに出した衝撃的な事件である。35年間も三菱電機が検査不正を放置してきたという本事件は、同社のコンプライアンスが長年にわたり奏功しなかったということを示している。
 財閥系企業のコンプライアンス研修を行うことが多い筆者は、それら財閥系企業のコンプライアンス研修が他企業と比べてかなりレベルが高いことを知っている。それゆえ、三菱電機がコンプライアンス研修を怠っていたとは到底思えない。同社は、長年、中小企業が羨む多くの予算と時間をかけ、丁寧に充実したコンプライアンス教育をしてきたはずである。それにもかかわらず、コンプライアンスは機能せず、検査不正が35年の長きにわたり続けられた。
 つまり、同社のコンプライアンスプログラムは、完全な機能不全を起こしていたのである。

機能不全の理由
―コンプライアンス違反の類型化不足

 三菱電機のコンプライアンス機能不全は「対岸の火事」ではない。読者の会社のコンプライアンスプログラムが、予算・時間(頻度)・情報・内容・経験において、「財閥系大手の三菱電機よりも勝っている」と言える保証はどこにもない。日本の会社の多くのコンプライアンスが、三菱電機同様、機能不全に陥るおそれを孕んでいる。
 筆者は、主催するグローバル・ガバナンス・コンプライアンス研究会等を通じ、日本の多くの上場会社では<コンプライアンス違反(不正・不祥事)を十分に類型化できていない>というアンケート結果を得た。コンプライアンス違反は様々な類型化ができるが、その中で最も重要な類型化は以下の2分類である。

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 (1) ムシ(個人的・盗む・作為)型
 個人的な利益のために、会社の利益に反して作為的な不正を行う個人的な不正は「ムシ型」と呼ばれる(郷原信郎弁護士等)。窃盗、横領、情報漏洩等が典型である。端的に「盗む」態様とイメージできる(國廣正弁護士『企業不祥事を防ぐ』)。この主原因は反倫理・反道徳である。

 (2) カビ(組織的・ごまかす・不作為)型
 同調圧力の強い日本では、種々のしがらみや派閥への忖度から、会社の利益のために、集団で組織的に見て見ぬ振りをする不作為型の不正も多い。会社として社会を裏切るこの因習的不正は「カビ型」と呼ばれ(郷原弁護士)、「ごまかす」型と呼ばれることもある(國廣弁護士)。贈賄、カルテル、データ偽装、粉飾決算が具体例である。同調圧力や忖度が主原因であるため、ある意味「日本的」な不正である。35年にわたり組織的に不正を放置(不作為)してきた三菱電機の検査不正は、まさにこのカビ型に該当する。
 第三者委員会報告書格付け委員会が公表する24の第三者委員会報告書を分析したところ、24の不祥事全てが「ムシ型」ではなく「カビ型」であった。カビ型の方が、ムシ型よりもはるかに被害が大きいのである。

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 個人のために会社を裏切るムシ型と、会社のために社会を裏切るカビ型は、以下のように図示できる。本来は、社会―会社―個人の利益が重なり合う図の真ん中に企業活動があるべきだが、個人が会社を裏切るムシ型は左下に位置し、会社が社会を裏切るカビ型は右下に位置する。「強い絆が会社をつぶす」と言われるように(稲葉陽二『企業不祥事はなぜ起きるのか』)、組織力(求心力・エンゲージメント)が強ければ強いほど(財閥系企業が典型例である)、会社の利益と社会の利益が乖離するベクトルが強くなる。三菱電機もこの例に漏れない。

2類型の重要性
―類型ごとに対策が全く異なる

 多くの不正には、ムシ(盗むという作為)とカビ(その盗みを見逃すという不作為)が重畳的・複合的に作用しているが、主因がいずれであるかを分析することは不可欠だ。この2類型は、以下のとおり対策が全く異なるからである。

 (1)  ムシ型への対策
 ムシ型不正に対しては、従来のコンプライアンス教育によって対処し得る。命令系統やコンプライアンス規程の整備、厳罰強化等で個人の規範意識を高め、「悪いことをするな」という「禁止」を徹底すればいい。ムシに殺虫剤をかけるイメージであり、ターゲットは組織ではなく個人である。

 (2)  カビ型への対策
 一方、カビ型に対しては、ムシ型と異なり、コンプライアンス規程の整備、命令系統整備、権限の明確化や厳罰化などの個人の意識向上に向けたコンプライアンス研修は、実は全く役に立たない。組織的に悪い方向に向かっているときに、上司にモノが言えない組織風土があれば、従来のコンプライアンスは機能しない。組織の強い同調圧力に対し、個人の規範意識は無力なのである。
 そのため、カビ型不正に対する唯一の解決策は、「誰が言ったか」ではなく「何を言ったか」を重視する度合いを強め、組織の「属人度」(論理ではなく人に依存する度合い)を下げる風土改革しかない(『属人思考の心理学』岡本浩一・鎌田晶子)。組織風土改革をしてNoと言える雰囲気と土壌を整備しなければ、いくら個人をターゲットにコンプライアンス教育をしても、組織的なカビ型不正は全く防止できないのである。
 このように、カビ型不正に対しては、ムシ型不正に対する「~するな」という方向の対策ではなく、それとは180度反対の、「~しよう(発言しよう)」という方向へ対策の舵を切らないといけない。

 このように、2類型ごとに対策は180度異なる。そのため、「個人的違反と組織的違反の弁別をせずにコンプライアンス運動に取り組むことは、ナンセンスを通り越して危険」と警鐘が鳴らされてきた(岡本前掲書)。しかし、三菱電機の検査不正が放置されたのも、この2分類と対処方法が明確に区別できていなかったからと思われる。そして、三菱電機のみならず、多くの日本企業も、この2分類を意識せずに「ナンセンスで危険」なコンプライアンス運動に取り組んでいるままである(筆者調べ)。風通しを良くしなければカビはなくならないのに、カビに対して懸命に殺虫剤を吹きかけているようなものである。

大企業では「カビ」が生えやすい

 三菱電機のような大企業では、カビ型不正がはびこりやすい。これは以下のハーシュマンの組織論から導かれる。
 不正に対しては、従業員には以下の3つの選択肢がある(ハーシュマン『離脱・発言・忠誠』を参考に筆者整理)。

 (1) 不正を是正しようと発言(Speak up)する
     →不正は是正される
 (2) 不正を見ても何もせず沈黙(Stay & silent)する
     →組織が停滞(stagnant)してカビ型不正が蔓延する
 (3) 不正をする会社に嫌気が差して離脱(Exit)する
     →退社する

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 日本の同質性の高い組織では強い同調圧力が働くため、組織の意向に忖度して、(1)のSpeak up(不正を是正する発言)をする人は少ない。組織の「同質性」が企業不祥事の主原因であるため(國廣正『企業不祥事を防ぐ』)、同質性を低めるために女性、若手や外国人の登用が望まれる。
 また、大企業では、会社のブランドや充実した福利厚生に魅力があり、40代以上になれば転職も難しくなるため、会社が不正をしていても(3)の離脱・退社を選択する人は少ない。
 そこで、(2)不正を見て見ぬ振りをしつつ、発言もせずに会社にぶら下がって居座る(Stay & silent)社員が増える。見ざる・言わざる・聞かざるを装うこの悪しき三猿主義は、不正への不作為の加担にほかならない。組織が停滞(stagnant)し、「カビ」がはびこる土壌・風土ができた状態だ。
 このように、終身雇用的な体制を持つ大企業では、構造的にカビ型不正が起こりやすい。

組織風土改革の方法

 カビ型不正の主原因は、同調圧力であり、上司に忖度する組織風土(より具体的には、発言内容よりも発言者を重視する属人風土)である。このような風土の改革は一朝一夕にはできない。いくつか解決策を挙げる。

 (1)  属人度を測定する
 まずは自社組織(各部署)の属人度(発言内容ではなく、発言者に依存する度合い)を測定することが大事だ。以下の指標が参考になる(岡本前掲書)。
  ①  忠誠心を重視する・オーバーワークを期待する
  ②  「鶴の一声」で方針がひっくり返る
  ③  過去の上司の偉業が強調される
  ④  犯人探しをする傾向が強い
  ⑤  上下関係において公私のけじめが甘い
 これらを用いて属人度を分析して、内容・ロジックではなく発言者との人間関係が重視されてしまう障害を取り除くことが必要だ。

 (2)  Speak upできる態勢
 また、風土改革には、
  ①  同質性・同調圧力を打破してNoと言うこと・Speak upすること
  ②  あえて忖度しない勇気
  ③  Noと言える土壌(心理的安定性の確保)
が必要となる。特に③の心理的安定性の確保においては、発言により出世や給料に悪影響を及ぼされない仕組みを構築する必要がある。これは人事評価制度とも絡むため、法務・コンプライアンス担当者のみの努力ではなく、全社的な取組みが必要となる。
 最近は、堅いイメージのある「報・連・相」ではなく、「共有」や「シェア」や「Speak up」という用語を用いて、若手の積極的な発言へのハードルを下げる企業も多い。「Speak up」という用語を掲げる企業は年々増えている(次表)。特に医療・医薬品系企業に多いのは、人の生命に直接影響する商品を扱うためコンプライアンスの要請が強いからである。

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 (3)  オアシス運動
 卑近な例では、①Small talk(「週末はどうでした?」等のカジュアルな会話)を重ねる、②オアシス運動(「おはよう」「ありがとう」等の挨拶の徹底)なども重要だ。コミュニケーションは頻度が重要である。例えば、上司から月に1回褒められるよりも、毎日声を掛けてもらうだけの方が、上司に対する親近感は高まる。このような平時のコミュニケーションができていないと、有事のコミュニケーションもおぼつかない。

 上記のように、コンプライアンスは、会社規程に定められたハードなものではなく、日頃からのコミュニケーションで築いていくソフト的な部分が大きい。そのため、コンプライアンス「体制」という言葉ではなく、コンプライアンス「態勢」という用語を用いる企業もある(三井物産等)。

コロナ+テレワークで「三猿主義」加速

 厄介なのは、コロナウィルスの拡大によりテレワークが普及し、組織内コミュニケーションが困難になっていることだ。
 テレワークでは、「見る(look)、聞く(listen)、会う(meet)」という能動的コミュニケーションを取ることはできるが、「見える(see)、聞こえる(hear)、出会う(encounter)」という受動的コミュニケーションを取ることはできない。そのため、コミュニケーションの総量が圧倒的に減っている。

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 たとえば、上司に相談するときに、オフィスで上司と一緒にいれば、上司の機嫌の良し悪しはすぐに分かる(見えるsee)。そのため、相談のタイミングを簡単に測ることができた。しかし、テレワークでは、パソコン画面の向こうの上司の機嫌や都合は全く察することができない。そのため、テレワークにおいては、上司に対する相談のハードルはかなり上がっている。
 このように、カビ型不正を是正するための風土改革のハードルも一段と上がってしまっているため、風土改革の仕組みを構築することが急務である。上司には、組織内コミュニケーションのハードルを下げる仕組みの構築責任を強く自覚していただきたい。テレワーク時代の風土改革の仕組みの一例として、NTTコミュニケーションズがNeWorkというツールを開発して「オンライン雑談室」を設けているのが好例である。

コンプライアンスよりもインテグリティを

 悪しき属人的組織風土では、個人としての誠実さ・社会のための貢献よりも、会社への忠誠と貢献が重視されている。遵守・守るという本義を持つコンプライアンスという用語からは、得てして会社利益(現状)を消極的に墨守して部分最適に逃げることがイメージされがちである。積極的に勇気ある発言を促す語感はない。そのため、従来の意味のコンプライアンスは、会社利益(組織の悪弊)に抗って全体最適を志向し、社会性のある方向へ積極的に勇気を出して発言すべきというカビ型の是正には役に立ちにくい。
 また、強い同調圧力が働く年功序列社会では、組織のために誤った上司の指示にやむなく従う(お世話になった先輩に楯突かない)こともある意味「道徳的」な振る舞いであると誤解されがちだ。そのため、個人的な倫理や道徳観を強調するだけでは、カビ型不正の是正には不十分だ。
 そこで、カビ型不正の是正を目指して積極的なコミュニケーションを促すためには、コンプライアンスではなく、インテグリティ(誠実さ)という別の用語を用いることを提唱したい。従来型のコンプライアンス(ムシ型不正に向けたコンプライアンス)の限界・機能不全を明らかにするために、新語を用いることが刺激的になる。
 また、テレワーク下で各自がセキュリティー管理等を自律的に責任をもって判断する必要がある昨今、(コンプライアンスという他律的なイメージではなく)個人の内面・良心に訴えかけるインテグリティという用語は時代に合っているともいえる。
 実際、最近は多くの日本企業が

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筆者

中山 達樹

中山 達樹(なかやま・たつき) 

 1998年3月、東京大学法学部卒業。2010年6月、シンガポール国立大学法学部大学院(アジア法専攻)卒業。2016年、リー・クアンユー公共政策大学院(Insights into Regional Politics, Economics and Culture for Japanese Business Leaders and Policy Makers)修了。2016年、シンギュラリティ大学 エグゼキュティブプログラム修了。2017年、一般社団法人グローバルチャレンジ 代表理事。
 2005年10月、弁護士登録(第一東京弁護士会、58期)、2007年4月から2015年7月まで三宅・山崎法律事務所(2015年1月よりパートナー)。2010年6月から2011年6月までDrew & Napier LLC(シンガポールの法律事務所)。2015年8月 、中山国際法律事務所開設、代表弁護士。2016年1月、公認不正検査士登録。
 主要著書に『アジア労働法の実務Q&A』(商事法務,共著)など。海外進出及びグローバル・コンプライアンスに関する講演多数。環太平洋法曹協会(Inter-Pacific Bar Association)にて要職を歴任。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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