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コーポレートガバナンス・コード2021年改訂と新市場区分

泰田 啓太

2021年改訂コーポレートガバナンス・コードの概要

西村あさひ法律事務所
弁護士 泰田 啓太

泰田 啓太(やすだ・けいた)
 1992年東京大学法学部卒業、1994年検事任官、2004年弁護士登録。1999~2004年、法務省民事局付として商法改正に従事。現在、西村あさひ法律事務所カウンセル。株主総会、企業統治をはじめとする一般企業法務、各種会社争訟案件、危機管理案件を手がける。
 

はじめに 

 コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)は、東京証券取引所の有価証券上場規程として定められ、2015年6月1日にその適用が開始された。コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、めまぐるしく変化する経済・社会情勢の下で、定期的に(基本的に3年毎)見直すことが予定されている。最初の見直しは2018年に行われ(注1)、同年6月1日から適用された。

 今回は2回目の見直しとなる。この見直しに当たっては、金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下「フォローアップ会議」という)において議論され、2020年12月に公表された意見書(5)(注2)を経て、2021年4月6日、コードの再改訂を含む提言「コーポレートガバナンス・コードと投資家と企業の対話ガイドラインの改訂について」(以下「改訂提言」という)が公表された。その後、以上を受けて、2021年6月11日、東京証券取引所は、「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のために~」を公表し、同日、改訂版が施行された(以下「2021年改訂」という)。

 このほか、ガバナンス改革に関しては、近年、政府等による様々な取り組みが行われており、特に、経済産業省が2019年6月28日に公表した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」、及び東京証券取引所による市場区分の見直し(注3)は、2021年改訂に関する議論にも大きな影響を与えている。

2021年改訂の概要と新市場区分との関係 

 近年のコロナ渦の拡大により、デジタライゼーションの進展をはじめ、人々の価値観・行動様式の変化に伴い、顧客の求める財・サービスの変化、新たな働き方や人材活用の動きが進み、不確実性も高まりを見せるなど、企業を取り巻く環境の変化が加速していると指摘されている。

 このような企業環境の変化を踏まえ、改訂提言は、新たな成長を実現するには各々の企業が課題を認識し変化を先取りすることが求められ、そのためには、持続的成長と中長期的な企業価値の向上の実現に向けて、①取締役会の機能発揮、②企業の中核人材の多様性の確保、③サステナビリティを巡る課題への取組みをはじめとするガバナンスの諸課題に企業がスピード感をもって取り組むことが重要であるとしている。2021年改訂は、これら3つの項目のほか、グループガバナンス、監査に対する信頼性等の項目も採り上げている。本稿では、これらの項目毎に、改訂内容を整理して解説する。

 また、現在の東京証券取引所の市場区分は、市場第1部、市場第2部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード及びグロース)の5つであるが、2022年4月4日付けで、プライム市場、スタンダード市場及びグロース市場の3つに見直される。見直し後のプライム市場は、わが国を代表する投資対象として優良な企業が集まる、国内のみならず国際的に見ても魅力あふれる市場となることが期待されている。この点を踏まえて、2021年改訂は、プライム市場上場会社にのみ求める項目、その他の市場の上場会社に求める項目及び両者に共通して求める項目が存在する。本稿では、プライム市場上場会社にのみ求められる項目については、該当箇所において適宜指摘する。

取締役会の機能発揮 

 事業環境が不連続に変化する中においては、取締役会が経営者による迅速・果断なリスクテイクを支え、重要な意思決定を行うとともに、実効性の高い監督を行うことが求められる。この観点からの見直しとして、原則4-8補充原則4-10①後段及び補充原則4-11①が改正された。

 また、コロナ渦により企業を取り巻く環境変化が加速し、不確実性も高まりを見せる中、事業セグメントごとの資本コストも踏まえた事業ポートフォリオの検討を含む経営資源の配分が一層必要となることから、取締役会が、事業ポートフォリオに関して適切な監督を行う必要がある。この観点からの見直しとして、補充原則4-2②後段及び補充原則5-2①が新設された。

 コードは、従前より、取締役会の監督機能の強化のため、独立社外取締役の有効な活用を掲げており、全ての上場会社に対して、「2名以上(3分の1以上の独立社外取締役を必要と考える上場会社では十分な人数)」の独立社外取締役の選任を求めていたが、2021年改訂では、プライム市場上場会社に対し、「3分の1以上(過半数の独立社外取締役を必要と考えるプライム市場上場会社では十分な人数)」の独立社外取締役を選任すべきであるとした(原則4-8)。なお、その他の市場の上場会社については、取締役会の構成として求められる独立社外取締役の員数は、引き続き「2名以上」とされている。

 また、プライム市場上場会社に対しては、その指名(諮問)委員会及び報酬(諮問)委員会について、構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、かつ、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべき旨改正された(補充原則4-10①後段)。コードが「基本とし」としていることから、委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることは必須ではないが、そうしない場合には、開示される委員会構成の独立性に関する考え方の中で、十分な説明をなすべきことになろう。ここで「構成」の独立性に関する考え方とされているのは、委員会の構成員に社内取締役(ないし非業務執行社内取締役)を入れるか否か等に関する考え方であると解される。

 さらに、上場会社の取締役会は、全体として必要なスキルを確保することが重要であることから、「経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせ」を取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきであるとされ、かつ、独立社外取締役には他社での経営経験を有する者を含めるべきことが明記された(補充原則4-11①)。コードは、このスキル等の組み合わせの開示の方法として、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスを掲げているが、これは例示であることから、スキル・マトリックス以外の方法で適切に開示することができるのであれば、そのような方法による開示も許容されている。いずれの上場会社においても、これらの開示を検討するに当たっては、自社の経営戦略上の課題に照らして、いかなるスキルを取締役会に備えるべきかを十分に検討する必要がある。

 事業ポートフォリオに関しては、人的資本・知的財産への投資等をはじめとする経営資源の配分とともに、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、取締役会による監督の対象であることが明記された(補充原則4-2②後段)。また、上場会社の取締役会は、事業ポートフォリオに関する基本的な方針を決定すべきであること、その基本的な方針は、経営戦略等の策定・公表に当たり、事業ポートフォリオの見直しの状況とともに、分かりやすく示されるべきであることが定められた(補充原則5-2①)。

企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保 

 企業がコロナ禍後の不連続な変化を先導し、新たな成長を実現する上では、取締役会のみならず、経営陣も多様な視点や価値観を備えることが求められ、取締役会が、主導的にその取組みを促進し、監督することが期待される。この観点からの見直しとして、補充原則2-4①補充原則4-10①前段及び原則4-11が改正された。このうち補充原則2-4①は新設である。

 企業の中核人材における多様性に関しては、フォローアップ会議において、各種の統計データが提示されて議論されている。それによれば、上場企業の女性役員の人数(割合)は、コードが策定された2015年当時の1,142人(2.8%)に比べ、2020年時点では2,528人(6.2%)まで上昇したものの、未だ十分に高いといえる数値には達していない。また、わが国の企業の管理職に占める女性の割合についても、2018年時点で、管理職全体でみても14.9%にとどまっている(注4)

 このような現状を踏まえ、2021年改訂は、上場会社における人材の多様性に関し、次の事項を開示すべきものとした(補充原則2-4①)。これらの開示に基づく投資家との建設的な対話を通じて、人材の多様性を確保する施策が講じられるよう促す意図であると考えられる。

  • 女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方
  • 前記の多様性の確保についての自主的かつ測定可能な目標及びその状況
  • 多様性の確保に向けた人材育成方針及び社内環境整備方針並びにこれらの実施状況

 中核人材の多様性の要素としては、コードは女性、外国人及び中途採用者を掲げているが、必ずしもこれらに限られるものではなく、各社の個別の事情に応じて実質的に検討され、開示される「多様性の確保についての考え方」の中で具体的に説明されることが期待されている。

 他方、取締役会に関しては、その多様性の要素として、職歴及び年齢が特に追記された(原則4-11)。また、監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない上場会社に対しては、任意の指名委員会・報酬委員会を設置し、経営陣幹部・取締役の指名(後継者計画を含む)・報酬等の特に重要な事項に関する検討に当たり、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきこととされた(補充原則4-10①前段)。その際には、経営陣幹部・取締役のジェンダー等の多様性やスキルの観点も、検討すべき項目とされた。

サステナビリティを巡る課題への取組み 

 コードにおいて、サステナビリティとは、ESG要素を含む中長期的な持続可能性と定義されている(基本原則2の考え方)。

 中長期的な企業価値の向上に向けては、リスクとしてのみならず収益機会としてもサステナビリティを巡る課題へ積極的・能動的に対応することの重要性は高まっている。また、サステナビリティに関しては、従来よりE(環境)の要素への注目が高まっているところであるが、それに加え、近年、人的資本への投資等のS(社会)の要素の重要性も指摘されている。人的資本への投資に加え、知的財産に関しても、国際競争力の強化という観点からは、より効果的な取組みが進むことが望ましいとの指摘もされている。この観点からの見直しとして、補充原則2-3①補充原則3-1③及び補充原則4-2②前段が改正された。このうち、補充原則3-1③及び補充原則4-2②は新設である。

 コードは、従前から、サステナビリティを巡る課題について、適切な対応を行うべきとしていたが、2021年改訂は、その課題の具体的な例示として、①気候変動などの地球環境問題への配慮、②人権の尊重、③従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、④取引先との公正・適正な取引、⑤自然災害等への危機管理の5項目を明示し、これらの課題に取り組むよう検討を深めるべきであるとした(補充原則2-3①)。また、この検討に当たっては、取締役会が、中長期的な企業価値向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定すべきであるとした(補充原則4-2②前段)。

 そして、これらのサステナビリティを巡る課題への取組みに関する基本的な方針及び自社の取組みの状況は、適切に開示すべきであるとされ、人的資本や知的財産への投資等についても、経営戦略及び経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきであるとされた(補充原則3-1③前段)。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)又はそれと同等の枠組み(IFRS財団が策定を進めている開示基準等が念頭に置かれている)に基づく開示の質と量の充実を進めるべきであるとされた(補充原則3-1③後段)。

 わが国の実務においてもTCFDへの取組みの開示の拡大は始まっており、既に複数の上場会社が、統合報告書やESGレポート等において、TCFDに基づく気候関連情報やTCFDへの取組みの開示を行っているほか、本年6月の定時株主総会の招集通知において任意にTCFDによる情報開示を実施する上場会社(リコー等)も現れている。

 また、補充原則2-3①に関しては、その改訂前から、人権方針を策定する上場会社が次第に増加している。このような動きは、今後ますます増えていくであろう。

グループガバナンス 

 グループガバナンスに関しては、グループ経営の在り方を検討する昨今の動きなどを踏まえると、上場子会社において少数株主を保護するためのガバナンス体制の整備が重要であるとの指摘がされている。この観点からの見直しとして、補充原則4-8③が新設された。

 具体的には、支配株主を有する上場会社は、ⅰ)取締役会の3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)を、支配株主からの独立性を有する独立社外取締役とするか、または、ⅱ)支配株主と少数株主との利益が相反する重要な取引・行為について審議・検討を行う特別委員会を設置するかのいずれかの対応を行うべきとされた(補充原則4-8③)。

 現実的な対応としては、特にプライム市場上場会社においては、当面、ⅱ)の対応を行うことになることになるのではないかと考えられる。ⅱ)の特別委員会に関しては、「独立社外取締役を含む独立性を有する者」を構成員とするものとされており、独立社外取締役が含まれていることは必須であるが、独立性を有していれば、取締役以外の者(外部有識者等)が構成員となることも許容されている。

監査への信頼性 

 中長期的な企業価値の向上を実現する上では、その基礎として、監査に対する信頼性の確保が重要である。この観点からの見直しとして、補充原則4-3④原則4-4及び補充原則4-13③が改正された。

 上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門が代表取締役社長だけでなく取締役会及び監査役会に対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきものとされた(補充原則4-13③)。この改訂は、内部監査部門がCEO等のみの指揮命令下に置かれている場合には、経営陣幹部による不正事案等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されないとの指摘がされていたことに対応するものである。

 また、取締役会が、内部統制やリスク管理体制の適切な整備を行う際には、内部統制やリスク管理をガバナンス上の問題としてより意識して取り扱うことが重要であることから、取締役会は、グループ全体を含めた全社的リスク管理体制を適切に構築し、内部監査部門を活用しつつ、その運用状況を監督すべきものとされた(補充原則4-3③)。

 さらに、監査役会設置会社においては、監査役及び監査役会が独立した客観的な立場において適切な判断を行うべき事項として、監査役の選解任及び報酬に係る権限の行使が加えられた(原則4-4)。具体的には、監査役の選任議案に対する監査役又は監査役会の同意(会社法343条1項)、監査役の報酬に関する監査役の協議(会社法387条2項)が考えられる。近時、監査等委員会設置会社についてではあるが、執行側を中心とする取締役会が、会社法344条の2第2項による監査等委員会の請求に基づき会社提案議案として総会に付議された監査等委員たる取締役の選任議案につき、自ら反対を表明し、株主提案に基づく監査等委員たる取締役の選任議案に賛成を表明した事案が現われたが、会社法344条の2第2項の趣旨を骨抜きにするものであるばかりでなく、この原則4-4の趣旨に照らしても疑問であろう。

コードにより開示すべきものとされている項目 

 コードの基本構造は、Comply or Explainであり、Complyしない場合には、コーポレートガバナンス報告書の「コードの各原則を実施しない理由」の記載欄で、自社の考え方を十分に説明する必要があるが、Complyする場合には特段の説明は求められない。しかし、コードが開示すべきとしている項目に関しては、Complyする場合であっても、詳細な内容開示が求められる。

 コードが開示すべきとしている項目は、2021年改訂によって3項目追加され(補充原則2-4①、同3-1③及び同4-10①)、次のとおり、合計14項目となった。

 原則1-4(政策保有株式の政策保有に関する方針等の開示)
 原則1-7(役員や主要株主等との取引に関する手続の策定とその枠組みの開示等)
 補充原則2-4①(多様性の確保についての考え方と目標及びその状況の開示等)
 原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮に関する取組の開示)
 原則3-1(経営理念、経営戦略、経営計画、コーポレートガバナンスに関する基本方針等の開示)
 補充原則3-1③(サステナビリティについての取組み等の開示、TCFDに基づく開示等)
 補充原則4-1①(経営陣に対する委任の範囲の開示)
 原則4-9(社外取締役の独立性判断基準の開示)
 補充原則4-10①(委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等の開示)
 補充原則4-11①(取締役の選任に関する方針・手続、バランス・多様性・規模に関する考え方等の開示)
 補充原則4-11②(取締役・監査役の他の上場会社役員の兼任状況の開示)
 補充原則4-11③(取締役会全体の実効性に関する分析・評価結果の概要の開示)
 補充原則4-14②(取締役・監査役に対するトレーニングの方針の開示)
 原則5-1(株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針の開示)

プライム市場上場会社に対する特別の要請事項 

 コードによってプライム市場上場会社に対してのみ特別に要請される事項は以下のとおりである。

 補充原則1-2④
 補充原則3-1②
 補充原則3-1③
 原則4-8
 補充原則4-8③
 補充原則4-10①

 これらのうち補充原則3-1③から補充原則4-10①までは、これまでに説明をしたとおりであるので、該当の箇所を参照されたい。

 補充原則1-2④は、プライム市場上場会社に対し、少なくとも機関投資家向けに議決権電子行使プラットフォームを利用可能とすべきであるとするものである。

 補充原則3-1②は、プライム市場上場会社に対し、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきであるとするものである。

今後の実務対応 

 コードの適用範囲は、その会社が上場している市場によって異なり、現行区分では、市場第1部、市場第2部及びJASDAQに上場する会社は、全ての原則の適用を受ける一方、マザーズに上場する会社は基本

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