2022年04月15日
三井住友信託銀行株式会社
証券代行部
審議役 依馬直義
コロナ禍における株主総会シーズンは、今年で3回目を迎えている。今年3月総会会社(速報ベース)の状況をみると、参加型ハイブリッド・バーチャル総会の開催(全体の約3割)、バーチャルオンリー総会を可能とする定款変更(全体の1割強)、および株主総会資料の電子提供制度の施行を見据えた定款変更(大多数)が目立っている。
昨年6月のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコードという)の再改訂を受けて、取締役会の独立性・ダイバーシティ・スキルマトリックス、サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)課題への取組み等に注目が集まっており、また4月に東京証券取引所が実施した市場区分の見直しに伴いプライム市場の上場会社に対しては、より高いレベルの対応が求められるようになる。本稿では、主要な機関投資家による議決権行使ガイドラインの変更を中心に、2022年株主総会シーズンの注目点について解説したい。
かつて国内機関投資家の多くは、例年6月の総会シーズンに向けて4月に議決権行使ガイドラインを改定のうえ適用していたが、最近は決算期を12月に変更し3月総会に移行する上場会社が増えたこともあり、前年の11月(野村アセットマネジメントや大和アセットマネジメント等)または12月(三井住友トラスト・アセットマネジメントや日興アセットマネジメント等)、あるいは当年1月(りそなアセットマネジメントやブラックロック・ジャパン等)に前倒して改定するケースもみられる。また、海外機関投資家に影響力を有する米大手議決権行使助言会社は、例年10~11月頃に翌年の株主総会シーズンに向けた助言方針の改定案を公表しており、通常グラスルイス(Glass Lewis & Co.)は1月開催の株主総会から、ISS(Institutional Shareholder Services)は2月から適用している。
取締役選任議案では、➀取締役会における社外取締役の割合(人数)、②ジェンダーダイバーシティ、③政策保有株式に関する基準を見直す傾向がみられる。また、社外取締役(および社外監査役)の独立性基準として、在任期間の上限を短縮化あるいは新たに設定する動きもみられる。
(1)社外取締役の割合(人数)
再改訂されたCGコードによれば、プライム市場の上場会社には取締役会に3分の1以上の独立社外取締役の選任が求められているが、多くの機関投資家の議決権行使ガイドラインではプライム市場の上場会社に限らず、3分の1以上を求める基準がスタンダードになってきている。ISSは社外取締役について、監査役会設置会社にも少なくとも2名いない場合に加え、今年2月から取締役会に3分の1未満の場合に経営トップである取締役に対し原則反対推奨する方針に変更している。ただし、親会社等を有する企業あるいは支配株主が存在する企業については、少数株主の権利保護の観点から厳しい基準とする機関投資家がみられ、独立社外取締役の選任を過半数以上に設定しているケースが多い。なお、ISSは独立性ばかりを重視するとマネジメント経験の少ない弁護士・会計士・学識経験者等に偏ってしまう懸念があり多様性の観点から社外取締役の独立性を問わないとしており、多くの機関投資家の基準とは一線を画している。
(2)ジェンダーダイバーシティ
女性取締役の選任については、ジェンダー等のダイバーシティの確保を求めるCGコード再改訂の影響を受けて、国内機関投資家が大手企業を対象に1名の選任を必須とする、あるいは2023年から新たに導入する動きがみられる。他方、海外機関投資家は既に女性役員の選任を必須とする基準を適用している。たとえば、2019年にグラスルイスが日本企業の時価総額が大きい100社を組入れた“TOPIX100”を対象として、女性役員(取締役、監査役、指名委員会等設置会社における執行役)が1名もいない場合、会長(会長職がない場合は社長)、指名委員会等設置会社には指名委員会の委員長に反対助言するとしたが、2020年に対象を東証1部と2部上場企業すべて、今年から日本の取引所に上場するすべての企業に範囲を拡大している。さらに、2023年2月以降は数値基準から割合基準に移行し、プライム市場上場会社は少なくとも10%のジェンダーダイバーシティを求める方針であり、ブラックロック・ジャパンは2023年1月よりTOPIX100に該当する企業を対象に女性の取締役もしくは監査役が2名以上選任されていない場合、その理由に関して合理的な説明がなければ、取締役会構成に責任のある取締役の再任に反対する予定(なお、それまでは女性の取締役もしくは監査役1名の選任を求める従来の基準を維持)であり、人数を引き上げる動きもみられる。また、ISSは2023年2月から女性取締役が1名もいない上場企業の経営トップに反対推奨する方針である。
(3)政策保有株式
政策保有株式に関する基準については、取締役選任議案において導入する動きがみられる。たとえば、2021年にグラスルイスは保有目的が純投資目的以外の目的である投資株式の貸借対照表計上額の合計が純資産の10%を超える場合、会長(会長職がない場合は社長)に反対を助言しているが、ISSも今年から政策保有株式が純資産の20%以上の場合、経営トップである取締役に原則反対推奨することとした。一方、国内機関投資家では、大和アセットマネジメントが政策保有株式を過大に保有している企業で、経営成績または株主資本の有効活用に問題があり、かつ政策保有株式の縮減に向けた取組みが十分に行われていると判断できない企業の代表取締役(または代表執行役)である再任候補者に反対するとしている。また、りそなアセットマネジメントは2023年1月より、政策保有株式の保有額が連結純資産の20%以上ある企業で一定以上の資本効率(ROE8%以上)がない場合、政策保有株式の縮減に関する方針について合理的かつ納得性ある説明と実績がなければ、代表取締役の選任に反対する予定である。
(4)社外取締役(および社外監査役)の独立性基準
社外取締役(および社外監査役)の独立性基準については、当該会社との関係(たとえば大株主、主要な借入先、主要な取引先、顧問契約のある弁護士あるいは会計士事務所の出身者、政策投資株式の保有先、役員の相互派遣先)をチェックポイントとしているが、大手の国内機関投資家は独立役員として証券取引所への届出あるいは届出予定の有無によって独立性を判断する傾向が強い。また、最近では国内機関投資家の中には三井住友トラスト・アセットマネジメントや日興アセットマネジメントのように、社外役員の在任期間が「12年以上」で反対に変更するケースが増えており、ブラックロック・ジャパンは2023年1月から現行の「16年以上」を、三菱UFJ信託銀行も2023年4月から現行の「20年以上」を「12年以上」に短縮する予定である。
退職慰労金支給については、原則反対とすることが一般的である。これまでも年功序列型で在任期間中の実績に応じた報酬制度ではないことや、経営の監督機能への影響を考慮して社外取締役あるいは監査役に対する支給について否定的な見方をする機関投資家が多くみられたが、今年からりそなアセットマネジメントも原則反対に変更している。
(1)バーチャルオンリー株主総会
2021年6月の国会で可決した産業競争力強化法改正によって、上場会社は株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として経済産業省令・法務省令で定める要件を充足する旨の経済産業大臣および法務大臣の確認を経た上で、株主総会をバーチャルオンリー総会の方法で開催できる旨を定款で定めることにより、株主総会および種類株主総会をバーチャルオンリー総会の方法で開催できることになった。一方、同法の改正後2年間は定款を変更せずにバーチャルオンリー総会の開催が可能となるが、その先を見据えてバーチャルオンリー総会を可能とする定款変更議案を上程する企業も増えている。機関投資家の中には、企業が恣意的に株主の出席や質問の内容・時間を制限する等の株主権利を損なうことを疑問視し、バーチャル総会はリアル総会の補完的な位置づけとすべきとの指摘もある。ISSは、今年から定款変更でバーチャルオンリー総会を規定する場合、原則反対推奨としているが、感染症の拡大や自然災害の発生といった普通でない状況に限って開催することを意図する場合には賛成推奨とする基準を新設していることから、外国人持株比率が高い上場会社については、招集通知の記載方法等に注意が必要であろう。
(2)株主総会資料の電子提供制度の施行
会社法改正に伴い、2022年9月1日より株主総会資料の電子提供制度が施行予定である。そのため、今年3月総会において多数の上場会社が本制度を見据えた定款変更議案を上程し可決されており、引き続きこの傾向は続くものとみられる。
株主総会の開催にあたっては、これまで各上場会社から議決権を有する株主に対し、それぞれ書面ベースで➀議決権行使書および②株主総会資料一式(株主総会参考書類、事業報告、監査報告、計算書類、連結計算書類)が郵送されていたが、2023年3月以降に開催される株主総会からは、従来どおり➀議決権行使書が郵送されるものの、②株主総会資料一式の代わりにウェブサイトへのアクセス方法等を記載した通知書面が郵送されることになる。そのため、インターネットを利用することが困難な株主(もしくは、従来どおり書面ベースでの株主総会資料一式の受領を希望する株主)は、次の株主総会の基準日までに口座を開設している証券会社、あるいは株主名簿管理人あてに書面交付請求を申し出る必要がある。
一般的に機関投資家は、多数の議案の精査・賛否判断に十分な時間を確保するために招集通知発送前の早期開示を求めており、これまでも証券取引所または投資先企業のウェブサイトを通じてできる限り早く株主総会資料を入手している。また、議決権行使にあたっても電子行使プラットフォームを採用する投資先企業に対しては可能な限りインターネットを利用してきたことから、この制度変更による特段の影響はないとみられるが、個人株主は予め認識しておくべきであろう。
買収防衛策については、事前警告型については原則反対とする機関投資家が多数を占めているが、最近は企業同士の敵対的な買収が増えている事情等を踏まえ、基準を見直すケースもみられる。たとえば、三井住友トラスト・アセットマネジメントは有事において導入される買収防衛策については、形式要件を充足するか否かに拠らず、将来見通しを含めた実質的な株主価値判断に基づき買収防衛策の発動是非と一体で行使判断を行うとしている。
近年増えているセイオンクライメート(企業の気候変動への取組みや戦略方針等について株主総会において賛否の意思表示を求める議案)やサステナビリティに関連する株主提案への関心の高まりを受けて、三井住友DSアセットマネジメントは気候変動や人権等、サステナビリティの情報開示に関する株主提案については、求める開示内容、範囲、項目等が適切と判断できる場合は原則賛成するとしたほか、三井住友トラスト・アセットマネジメントは新たに気候変動への対応を求める株主提案については個別に判断するとした。また、野村アセットマネジメントはESG課題を巡る取組みについて基本的な方針の策定に関するものについては原則として賛成することを追加している。
CGコード再改訂や東証の市場区分見直し等の影響を受けて、機関投資家サイドでは議決権行使基準を厳格化する動きがみられ、特に取締役選任議案においては業績基準ばかりでなく取締役会の構成・ダイバーシティ・独立性といった非財務
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