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補助金相殺関税(CVD)発動の急増にどう対応? 不十分な環境規制への対抗関税も

平家 正博

1. はじめに

拡大平家 正博(へいけ・まさひろ)
 2005年東京法学部卒業。2007年東京大学法科大学院修了。2008年、第二東京弁護士会登録。2015年New York University School of Law修了。2016年、ニューヨーク州弁護士登録。2015〜2016年Cleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP勤務。2016〜2018年経済産業省通商機構部国際経済紛争対策室の参事官補佐。現在、西村あさひ法律事務所のパートナー。
 従前より、各国は、国内産業を保護するため、貿易救済措置としてアンチ・ダンピング関税(ダンピングを認定した海外生産者・輸出者ごとに特殊関税を課す措置)やセーフガード措置(輸入品に一律に特殊関税を課す措置)を発動してきており、国内外にて、多数の日本企業が影響を受けてきた。

 他方で、外国政府による補助金の交付を受けた輸入品に対抗する目的で、当該輸入品に特殊関税(以下「補助金相殺関税」という)を課すことは、アンチ・ダンピング関税やセーフガード措置と比較して、必要情報の入手が難しかったり、調査が複雑だったりするため、限定的であった。しかし、近年は、産業補助金により過剰生産能力が維持されているとの問題意識等から、補助金相殺関税の発動件数は増加傾向にあり(世界全体の発動件数は、2017年まで毎年10件前後であったのが、2018年は28件、2019年は35件、2020年は24件と増加)、発動国や対象国も多様化している(米国、EU等の先進国が主要発動国であるが、最近では中国、インド、ブラジル等の新興国も発動。対象国は中国が約半数を占めるが、中国以外が対象国となる事例も増加している)。そして、このような補助金相殺関税の活発化は、各国で、気候変動対策や経済安全保障のためとして、補助金を交付する事例が増加傾向にあることを踏まえると、今後も、継続するものと考えられる。実際、2021年7月には、日本において、経済産業省も、他国の市場歪曲的な補助金に対抗するため、補助金相殺関税の活用を拡大する観点から、米国やEU当局と情報共有の枠組みを設けるとの報道も存在する。

 そこで、本稿では、補助金相殺関税の概要を説明した上で、補助金相殺関税を積極的に活用しようとする近時の動向を解説し、最後に、実務上の留意点を述べることとする。

2. WTO補助金協定の概要

 現在、国際通商法の分野では、WTO協定の一部である関税及び貿易に関する一般協定(GATT)6条及び補助金協定(Agreement on Subsidies and Countervailing Measures)が、各国政府による補助金の交付方法について規律を設けている。

(1) 規律対象となる補助金

 補助金協定は、規律対象となる補助金を、①政府又は公的機関からの、②資金的貢献で、③受け手に「利益」が生じるものと定義する。

 このうち①は、補助金の交付主体を問題とし、政府機関に加え、公的機関も対象とする点が重要である。WTO先例上、ある機関が公的機関に該当するには、政府が株式を保有しているだけでは足りず、当該機関が「政府権限を保有又は行使し、若しくは委譲されていること」が必要とされる。過去、韓国の政府系金融機関や中国の国有銀行が公的機関に該当すると判断された事例も存在するが、政府系金融機関等が公的機関に該当するかは、ケースバイケースの判断となる。また、②は、規律対象となる支援の類型を定めており、贈与に加え、減税や物品・サービスの提供や購入も含まれる点で、一般に解される補助金のイメージより広い概念である点は注意を要する。③は、資金的貢献の内容や条件が、市場で調達する内容や条件と比較し、受け手にとって有利か否かを問題とする。

(2) 補助金協定が認める対抗措置(補助金相殺関税)

 補助金協定は、外国政府による補助金により損害を受けたWTO加盟国が、当該補助金の廃止や是正を求めて、準司法機関であるWTO紛争解決手続に訴えを提起する以外に、国内措置として、当該国からの補助金を受けた輸入品に補助金相殺関税を課すことを認めている。

 補助金相殺関税を賦課する要件は、各国国内法で定められているが(例えば、日本では、関税定率法7条及び相殺関税に関する政令が詳細を定める)、補助金協定は、これら国内法が満たすべき最低限の要件(実体要件及び手続要件)を規定する。具体的には、補助金相殺関税を賦課するためには、概要、以下の要件を満たす必要がある。

  • 調査当局は、調査を通じて、①補助金を受けた貨物の輸入、②国内産業の損害、及び③両者の因果関係の存在を認定する必要(補助金協定19条1項)。
  • 上記①乃至③の要件を満たす場合、存在が認定された補助金の額を超えない範囲で補助金相殺関税を課すことが認められる(補助金協定19条4項)。
  • 調査当局は、上記①乃至③を認定するため、国内産業の申請に基づき又は職権で調査を開始できる(補助金協定11.1条及び11.6条)。当該調査は、原則1年以内に完了する必要があるが、18ヶ月まで延長可能(補助金協定11.11条)。

3. 近時の動向

 上記のとおり、WTO協定では、外国政府による補助金に対抗するため、補助金相殺関税を課すことが認めているが、近時、補助金相殺関税の発動件数が増加していることに加えて、補助金相殺関税の適用範囲の拡大を試みる動きや、産業補助金に対抗するための対抗手段として補助金相殺関税以外の制度を導入する動きが各国で見られる。

(1) 補助金相殺関税の適用範囲の拡大の試み

 補助金相殺関税の主要発動国である米国及びEUは、以下のとおり、近時、補助金相殺関税の適用範囲の拡大を試みている。

ア  為替レートの切り下げへの対抗

 米国は、2020年2月4日、外国政府による為替レートの切り下げを特定企業への補助金とみなし、同企業からの輸入に補助金相殺関税を課すことを認める最終規則(同年4月6日施行)を公表した。同規則は、企業が、米ドルの自国通貨への兌換行為を通じ、(切り下げられた自国通貨の為替レートに基づき)より多くの自国通貨を得る点を捉えて、外国政府により補助金が交付されたとする。具体的には、以下の基準を定める(連邦行政規則集351.528)。

  • 外国政府による通貨切り下げを通じた補助金を認定するためには、「外国政府の介入」により「為替レートの切り下げ」があったことを認定する必要がある。
  • 「為替レートの切り下げ」の有無は、通常、調査対象国の実質実効為替レートと均衡為替レート(経済実態に添った適正な為替レート)を比較して判断するが、分析の詳細は米国財務省に委ねる。
  • 「外国政府による介入」については、独立性を有する中央銀行や金融当局の金融政策は含まれず、為替レートに影響し得る行動に関する外国政府の透明性の度合いを考慮するが、分析の詳細は米国財務省に委ねる。
  • 企業が受領した補助金額は、調査対象企業が実際に受け取った自国通貨の額と、為替レートの切り下げがなかった場合(均衡為替レートを用いた場合)に受け取っていたはずの自国通貨の額の差額に基づき算定する。

 本稿執筆時点で、同規則に基づき補助金相殺関税が課されたのは、ベトナムの生産者のみではあるが(Passenger Vehicle and Light Truck Tires From the Socialist Republic of Vietnam: Final Affirmative Countervailing Duty Determination (2021年5月24日))、今後、米国財務省が為替操作国・為替操作監視対象国として挙げた国や中国の生産者についても、同規則に基づき補助金相殺関税が課される可能性がある。同規則に基づき、通貨切り下げにより補助金の認定がなされると、事実上、同国所在の輸出企業は、幅広く為替レートの切り下げにより補助金を受けていることとなり、補助金相殺関税の賦課が認められやすくなる点で、その影響は大きいと考えられる。

イ  第三国政府による補助金(越境補助金への対抗)

 補助金協定は、補助金交付国と補助金の受領主体が、同一国に所在することを前提としているが、EUは、2020年6月、中国政府がエジプト企業(中国企業のエジプト子会社)に交付した補助金を理由にした補助金相殺関税の発動を認めた(Commission Implementing Regulation(EU) 2020/776 of 12 June 2020)。EUは、補助金相殺関税について規定するEU規則も、補助金交付国と補助金の受領主体が、同一国に所在することを求めていることを認めつつも、当該案件では、行為の国家への帰属条件(どの行為に国家責任が生じるか)を定める国家責任条文草案が、「国家が問題の行為を承認及び採択し、且つ、その範囲内である場合、前述の条項により国家に帰属しない行為でも、国際法上の国家の行為と考えられる」(同11条)と規定していることを根拠に、エジプト政府が、中国の「一帯一路」政策に基づき、中国・エジプト・スエズ経済貿易協力区に進出する企業に補助金を交付することを承認していた等として、当該補助金は、エジプト政府が交付した補助金であると認定した。

 上記の判断は、企業が、所在国の政府ではない、第三国政府から補助金を受領した場合であっても、これを所在国の政府が承認していた場合、所在国政府による補助金と認める点で画期的である。本件ロジックは、第三国政府による補助金(越境補助金)に対する補助金相殺関税の可能性を無限定に認めるものではないが、例えば、政府と企業が協力して国外進出を図り(その際に金融支援も受け)、進出先に生産拠点を設けるような事案では、事実関係次第では、補助金相殺関税の対象となる可能性を示すものである。

ウ  不十分な環境規制への対抗

 米国は、2020年12月17日、WTO一般理事会で、「Advancing Sustainability Goals through Trade Rules to Level the Playing Filed」と題する閣僚宣言のドラフトを配布した。同ドラフトは、グローバルな環境問題による各国市民の健康への脅威が増大していること、環境規制が不十分な国に所在する企業は環境破壊に関するコストを負担していないこと等を指摘した上で、平等な競争条件を確保するために、一定基準を下回る環境規制にしか服さない企業に対して、当該環境規制により利益を受けたとして、補助金相殺関税を発動することを認めるべき旨の宣言案を含んでいた。

 今後、気候変動問題に対応するため、各国において、炭素税・排出権取引制度の導入や、厳格な環境規制が導入されることが想定されるが、政治的・経済的な理由から、一部産業の救済を理由に環境規制を緩和する措置が講じられる場合、当該一部産業において補助金が交付されたとして、補助金相殺関税の対象となるリスクがあると考えられる。実際、米国は、2020年、イタリア産鍛造銅液エンドブロックに関する相殺関税調査において、EU排出権取引制度(EU ETS)の下、環境負荷の高い一部産業に対する排出権の無償割当は補助金に該当するとして相殺関税を課しているが(Forged Steel Fluid End Blocks From Italy: Final Affirmative Countervailing Duty Determination (2020年12月11日))、ここでも、政治的・経済的な理由から、環境規制を一部緩和する措置が補助金に該当するとされた。

(2) 外国補助金のEU審査制度の新設

 以上のような補助金相殺関税の利用の活発化に加えて、補助金相殺関税を補完する制度を導入する動きもある。すなわち、欧州委員会は、2021年5月5日、EU域内市場に歪曲的な効果を及ぼす外国補助金に関する規則案を公表したが、同規則案は、次の3つの場合、EU域内市場で経済活動を行う企業等に対する外国政府の補助金を審査する旨を規定する。

  • 当事会社のEU域内売上高が5億ユーロ以上、かつ外国政府から過去3年に5,000万ユーロ以上の支援を受けている場合、市場集中(合併等)の実行に先立ち、当該外国補助金に関する事前届出を必要とする(同18、19条)。欧州委は1次審査を25営業日以内に行い、必要な場合、2次審査を90営業日以内に行う(同24条)。
  • 概算額が2億5,000万ユーロ以上の公共調達に入札参加する場合、外国政府から過去3年以内に受領した支援について届出が必要(同27、28条)。欧州委は1次審査を60日以内、必要な場合、2次審査を(届出日から)200日以内に行う(同29条)。
  • 外国補助金によるEU域内市場の歪曲が疑われる場合、欧州委は利害関係者からの通報に基づき、もしくは職権で、審査を開始できる(同7条)。

 審査の結果、外国補助金によるEU域内市場の歪曲が認定された場合、欧州委員会は、歪曲効果を解消するための措置を課すことができる。欧州委員会は、同規則案を制定する背景として、多国間の新たな補助金規律を合理的な期間内に妥結するのは困難なこと、規制ギャップの問題(非EU加盟国はState Aid制度により規律されなかったり、補助金相殺関税は物品貿易にしか適用がなかったりする問題)を挙げている。同制度を通じて入手した情報の目的外利用は制限されるが(同39条)、調査結果の公表等を通じて情報が蓄積される可能性があり、補助金相殺関税の発動を促進するツールとして機能する可能性もある。

4. 実務上の留意点

 上記のとおり、補助金相殺関税を利用する動きが増加し、更に外国補助金への規律を強める動きが加速する中で、実務上の観点からは、以下のような点に留意する必要がある。

 まず、自社が補助金相殺関税の調査対象となった場合、調査に協力するかの判断が必要となる。すなわち、調査当局は、調査開始後、利害関係者(国内産業、輸出者、輸入者等)に質問状を送付する等して、調査に必要な情報を収集するが、各利害関係者は、当該調査に協力する

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筆者

平家 正博

平家 正博(へいけ・まさひろ) 

 2005年東京法学部卒業。2007年東京大学法科大学院修了。2008年、第二東京弁護士会登録。2015年New York University School of Law修了。2016年、ニューヨーク州弁護士登録。2015〜2016年Cleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP勤務。2016〜2018年経済産業省通商機構部国際経済紛争対策室の参事官補佐。現在、西村あさひ法律事務所のパートナー。2018年より独立行政法人経済産業研究所現代国際通商・投資システムの総合的研究(第Ⅳ期)プロジェクトメンバー。
 主な著作に、『〔米国〕コンテナに対するアンチダンピング調査における「国内産業の確立の実質的な遅延」の認定』(国際商事法務 2017年3月)、『国際仲裁と企業戦略』(共著、有斐閣、2014年12月10日)、『条解 独占禁止法』(共著、弘文堂、2014年12月)、『エネルギー投資仲裁・実例研究 - ISDSの実際』(共著、有斐閣、2013年9月28日)、『The Private Competition Enforcement Review – Fifth Edition - (Japan Chapter) 』(共著、Law Business Research、2012年9月)、『Doing Business In シンガポール』(共著、2010年10月5日)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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