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インドネシアにおける再生可能エネルギー投資の動向と課題

吉本 祐介

1. はじめに

拡大吉本 祐介(よしもと・ゆうすけ)
 2002年、弁護士登録。2001年東京大学法学部第一類卒業。2010年、コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。2011年、ニューヨーク州弁護士登録。三井物産株式会社、米国三井物産株式会社及びインドネシアの法律事務所に出向。インドネシアを中心としたアジア関連案件などを主に取り扱う。
 インドネシアは、石炭や天然ガスなどの化石燃料を豊富に算出することから、従前は再生可能エネルギーへの関心は高くなかったと思われる。しかし、地球温暖化を抑えるために化石燃料から再生可能エネルギーに転換することが世界的な潮流となっている中で、インドネシアも2016年に気候変動に関するパリ協定に署名し、温室効果ガスの削減を目指すようになっている。2017年に制定されたエネルギー計画に関する大統領令においては、発電電力量に占める再生可能エネルギーの比率を2020年の約11%から2025年には23%以上とし、2050年には31%以上にまで引き上げることを表明している。今後は、インドネシア政府も再生可能エネルギーの活用を促進していくことが見込まれる。

 日本を含む外国の投資家も、石炭火力発電など地球温暖化への影響が大きい投資を控えるようになっており、代わりに再生可能エネルギー投資への興味が高まっているように思われる。

 再生可能エネルギーの利用方法として、インドネシアでは軽油へのバイオディーゼルの混合なども行われているが、本稿では、関心が高まりつつあるインドネシアの再生可能エネルギーによる発電について、法律面から論じることにしたい。

2. 再生可能エネルギーによる発電に関する法制度の概要

(1) 適用法令

 インドネシアにおける発電事業については、一般的に2009年に制定された電力法(以下「電力法」という)が適用される。また、地熱発電については、2014年に特別法が制定されており、同法が優先的に適用される。さらに、地熱、風力、バイオエネルギー、太陽光などの再生可能エネルギーによる発電については、鉱物エネルギー省が規則を制定して、調達や売電価格、電力購入契約の内容などを規制している。

 さらに、2019年末には、インドネシアの国会に、新エネルギー及び再生可能エネルギーに関する法案が提出されており、現在優先審議法案として審議中である。その中で、新エネルギーとしては原子力が想定され、再生可能エネルギーとしては、地熱、風力、バイオマス、太陽光、水力、廃棄物、農業及び畜産廃棄物、潮力などが想定されている。インドネシアの法令制定時期の予測は難しく、独占禁止法のように、法律成立間近と何年にも亘って報道されていながら、未だに制定されていない法律もある。再生可能エネルギーの利用は、インドネシアにとっても喫緊の課題であることから、早期に新エネルギー及び再生可能エネルギーに関する法律が制定されることが望まれる。

(2) 管轄官庁

 インドネシアは、スハルト元大統領への権力集中に伴う国家財政の破綻や広範な腐敗への反省から、1998年のスハルト元大統領の退陣以降、地方分権を進めてきた。再生可能エネルギー分野においても、中央政府の鉱物エネルギー省に加えて、地方政府が権限を有する場合がある。

 しかし、地方自治体が許認可に関する権限を有し、一つのプロジェクトを行うために多数の地方自治体に許認可申請を行わなければならないことは非効率である。また、許認可などに関する権限が、地方自治体における汚職の温床となっていることも無視できない。

 そのため、インドネシアでは、地方分権への流れからの揺り戻しの動きが生じている。例えば、2020年に、数十の法律をまとめて改正する、いわゆるオムニバス法が制定されたが、オムニバス法による改正の主眼の一つが地方政府から中央政府への権限移行であった。この点、再生可能エネルギー分野も例外ではなく、基本的な権限は、鉱物エネルギー省を中心とする中央政府が有するようになっており、地方政府の権限は、地域の電力の規制や電力計画の策定などに限定されるようになっている。

 さらに、行政の効率化を図り、公務員との接触に伴う汚職を減らすため、許認可の申請をオンラインで行うことができるようになっている。

(3) PLNとの契約

 インドネシアの電力の小売りは、国営の電力会社であるPT Perusahaan Listrik Negara (Persero)(以下「PLN」という)が独占しており、民間の発電事業者が電力を消費者に小売りすることはできない。そのため、民間の発電事業者は、発電所の開発、建設及び運営を行い、発電した電力をPLNに販売することが一般的であり、再生可能エネルギーにより発電された電力もPLNに売却される。

 PLNとの契約については、従前、原則として入札を経なければならないとされていた。しかし、入札には時間及びコストが掛かることから、鉱物エネルギー省は、2020年に規則を改訂し、再生可能エネルギーによる発電については、PLNが随意契約により契約することも認めるようになった。

 契約形態についても、従前はBOOT(build-own-operate-transfer)方式とされていたが、再生可能エネルギーによる発電については、BOO(build-own-operate)方式とされ、電力購入契約終了後にPLNに対して設備を移転する必要はなくなった。なお、既存のBOOT方式の契約が当然にBOO方式に転換されるわけではなく、PLNなどの当事者が同意した場合にBOO方式に転換されることになる。

 PLNへの売電価格については、発電事業者とPLNが交渉して決定した後、鉱物エネルギー省の承認を得る必要がある。価格決定に際しては、PLNの全国的及び該当地域の発電コストが参照されるが、その際の主な基準は以下のとおりである。なお、再生可能エネルギーによる発電については、発電への投資を増やすため、価格設定方法を見直すとの報道もなされている。

再生可能エネルギーの種類基準価格の規制
太陽光
風力
バイオマス
潮力
該当地域の基準価格が全国の基準価格を上回る場合 買取価格は、該当地域の基準価格の85%まで
該当地域の基準価格が全国の基準価格以下の場合 規制なし。買取価格は、発電事業者とPLNの交渉で決定可能
水力
廃棄物
地熱
該当地域の基準価格が全国の基準価格を上回る場合 買取価格は、該当地域の基準価格まで
該当地域の基準価格が全国の基準価格以下の場合 規制なし。買取価格は、発電事業者とPLNの交渉で決定可能

 PLNのような国営企業と契約する場合、国営企業の役職員が、一般にマーケット・スタンダードと目されているような条項の受入れに対して抵抗し、契約交渉が難航する場合がある。これは、国営企業の担当役職員が外国企業との契約に慣れていないためでもあるが、国営企業の役職員が置かれた特殊な状況にも注意する必要がある。すなわち、インドネシアの汚職撲滅法は、通常の贈収賄に加えて、「国家財産」に損害を与えたことも処罰対象としている。「国家財産」の損害とされる対象範囲は広く、国営企業が損害を被ると、間接的に国家が保有している国営企業株式の価値も毀損することから、国家財産の損害に該当するとの解釈もあり得る。取引に伴って損害が発生した場合には、刑事責任を問われかねないということは、国営企業の役職員にとってのプレッシャーとなっており、国営企業の役職員が先例と異なる契約条件を受諾する障害となっていると思われる。

(4) 現地調達義務

 再生可能エネルギーによる発電事業については、PLNとの契約に際しての問題に加えて、インドネシアで生産された製品やインドネシアで提供されるサービスを利用することを義務づける現地調達義務も障害となり得る。

 電力法は、発電事業において、発電事業者はインドネシア製品を優先的に利用しなければならず、外国製品はインドネシア製品が利用できない場合に限って利用できると規定している。さらに、産業省が定める規則では、①太陽光パネルについて60%以上のインドネシア製品の利用が求められている他、②110メガワットを超える地熱発電においても28.95%以上のインドネシア製品及びサービスの利用が義務づけられており、他の設備についても、詳細に現地調達比率が規定されている。太陽光パネルなど中国など外国製品が高い世界シェアを占める分野において、現地調達義務を遵守することは容易でないと思われる。

3. 再生可能エネルギー投資に関する近時の法改正

 再生可能エネルギーへの投資を促進するため、上述のPLNとの契約に関する改正以外にも、近時、以下のような法令の改正が行われている。

(1) 外資規制の緩和

 インドネシアでは、2021年に外資規制について定める大統領令が改正され、再生可能エネルギー分野を含む多くの分野における外資規制が大幅に緩和された。新大統領令においては、1メガワット未満の発電事業を除く、ほぼすべての再生可能エネルギーによる発電や送配電事業について、外資100%による投資が認められるようになっている。

(2) 税制優遇

 外資規制を緩和した改正大統領令において、投資優遇措置を受けられる事業分野も規定されている。再生可能エネルギーに関しては、発電への投資が法人税の減税(タックス・ホリデー)の対象となっている。

4. 今後の課題

 インドネシアは赤道直下にあり、太陽光発電の潜在的なポテンシャルは大きい。また、インドネシアは、日本と同様に多数の火山を有する火山国でもあり、地熱発電も有望である。パーム椰子の椰子殻を利用したバイオマス発電などその

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筆者

吉本 祐介

吉本 祐介(よしもと・ゆうすけ) 

 2002年、弁護士登録。2001年東京大学法学部第一類卒業。2010年、コロンビア大学ロースクール(LL.M.)修了。2011年、ニューヨーク州弁護士登録。三井物産株式会社、米国三井物産株式会社及びインドネシアの法律事務所に出向。
 インドネシアを中心としたアジア関連案件などを主に取り扱う。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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