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英語力を伸ばすために 伝えようとする内容を確固としたものに

若狭 一行

拡大若狭 一行(わかさ・かずゆき)
 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所スペシャル・カウンセル。
 2002年、東京大学法学部卒業。2003年、司法修習修了(56期)、弁護士登録。2010年、Harvard Law School (LL.M.)修了。2010年〜2011年、米国Harvard Law School客員研究員。2011年、ニューヨーク州弁護士登録。
 国連英検 特A級(2013年合格)。TOEIC 990点(2012年取得)。
 今年(2021年)は、東京オリンピック・パラリンピックが開催され、各種競技が連日のようにテレビ中継された。世界各国から参加した選手が高い水準で競い合う姿を見て感動し、興奮を覚えた人も多いことと思う。当時、私の子供たちは夏休み中であったため、ほぼ毎日オリンピック・パラリンピックを自宅のテレビで観戦していたが、子供たちも純粋に楽しんでいたようである。国際的なスポーツ競技大会で活躍する日本人選手の姿を見て、私も子供をもつ一人の親として、自分の子供たちにも将来は国際的な舞台で活躍できる人材になって欲しいと思った次第である。

 国際的な舞台で活躍するには、各自の専門分野における経験を蓄積し、知見を深めることに加えて、自分の考えたことを外国語で伝える語学力も必要となる。私自身も業務上で英文契約書を検討することや、海外の当事者と英語でやり取りをすることもあるため、一定の英語力が必要であることは重々承知しているつもりである。以下では私自身の経験を振り返り、どのようにして英語力を伸ばそうとしてきたかを紹介することとしたい。

学生時代

 私はいわゆる「純ドメ」(純粋ドメスティック:帰国子女ではなく、国内で生まれ育った人)であり、中学校のカリキュラムで英語の授業を受けるまで、英語を教わる機会はなかった。このような事情も一因となって、中学校在学中、英語は得意科目ではなく、新しい単語を覚えることや英語の文法を習得するのに苦労した記憶がある。

 ここで一つの転機となったのが、高校のカリキュラムで、伊藤和夫「英文解釈教室」(研究社)を使用したことである。この書籍は、英語には基礎となる構文があり、難解な英文であっても文の構造を意識的に把握しようとすれば、意味が取れるということを、一貫して説いており、英文読解力を向上させる上で大変有益な教材であった。大手の大学受験予備校で長年講師を務められた方が執筆者であるため、この書籍を使用して大学受験対策をした方々も多いのではないかと思う。読み始めたころは1日で3ページしか進まないほど難解な教材であったが、この書籍を通読してからは、英文を論理的に読もうとする姿勢が身につき、大学入試の英文は特に支障なく読み進めることができるようになった。

社会に出てから

 このように良い教材にも恵まれて大学入試の英語を突破することはできたが、社会に出て業務上で英語を使用するようになってからは、より高い水準の英語力が求められるようになる。私は弁護士になってから間もなく、所属事務所で英語を使用する仕事も担当するようになったが、英文契約書には独特の言い回しがあり、法律英語で使用する英単語は一般的な用法とは異なる意味で使用されることもあるため、まだ経験が少ないうちは、分からないことがあるたびにその都度辞書を引いて調べながら契約書を読み解こうとして悪戦苦闘したものである。

 もっとも、このような独特の言い回しや法律英語用語も、英文契約書を読む経験を積めば次第に慣れてくる。むしろ、法律事務所の業務で英語を使用するときにより重要なことは、日本の法曹資格を有する者として、日本における法規制の概要、趣旨や要点を、海外の依頼者に対して論理的かつ分かりすい英語で伝える能力であることをやがて自覚するようになる。法律事務の一環として英語を使用する以上、それは当然と考える方もおられるかもしれないが、実際はこれが非常に難しい。日本の法律や制度を海外の依頼者に対して説明する以上、まず、自分自身がその制度を正しく理解していることが前提となるし、海外の依頼者が日本法に関する予備知識や情報を有しているとは限らないため、論理的に順を追って、丁寧かつ分かりやすい説明を心がける必要がある。

 いまを遡ること10年以上前のこととなるが、私が米国留学の準備をしていたとき、出願先の一つから、エッセイの提出を求められたことがある。エッセイの内容として、「あなたの国で現在、起きている法律問題について解説して下さい」「その問題について考えられる解決策を提示して下さい」という条件が設定され、語数の上限も指定されていた。設問自体は至極シンプルであったが、いまにして思うと、海外からの留学生を受け入れる米国のロースクールとしては、出願者が、母国の制度が抱える問題やその解決策を、論理的な筋道を立てて、分かりやすく簡潔に、英語で説明することができるかどうかを見ようとしていたのではないかと推察される。

 また、留学生を受け入れる米国の教育研究機関の多くは、英語力の証明として、出願者に対してTOEFLのスコアを要求しているが、私が出願した年から、TOEFL(iBT)の運用が本格的に開始されるようになり、SpeakingとWritingでは、与えられた文章や会話を題材として、自分の考えを述べることを求める出題形式も採用されることとなった。これにより純粋な語学力のみならず、受験者の思考力ひいては人としての成熟の度合い(maturity)も問われるようになったのではないかと思われる。

 このように、社会人になってからも、日々の業務や留学準備を通じて英語力をさらに伸ばす必要に迫られたが、そこでは、英語の語彙や文法の知識に加えて、論理性や思考力、職業人としての成熟度などを含む総合的な能力が要求されるようになったように思われる。留学準備としてのTOEFL対策も「純ドメ」である自分にとっては骨の折れる課題であったが、出願書類の提出期限が迫る直前に受けたTOEFLでようやく所定のスコアを獲得することができ、留学に行くことができた。

米国留学

 留学は世界各国から集まった留学生と交流を深める貴重な経験であり、「生(ナマ)」の英語に接するまたとない機会にもなった。留学先で出会った人たちの中には、自分と同じく、英語を母国語としない国や地域からの出身者も少なくなかったが、一緒に話をすると会話が弾み、相手からは、自分の考えを私たちに伝えようとする熱意がひしひしと感じられた。ネイティブスピーカーの英語力には及ばないかもしれないが、相手に伝えようとする内容が確固として存在しており、それを論理的に組み立てて話すことができたからこそ、議論が充実したものとなったのではないかと思われる。

法律事務所での執務再開

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 米国留学から帰国し、法律事務所での執務に復帰した後も、海外の依頼者から受任する仕事は少なくないが、日本の法制度について、論理的な筋道を立てて丁寧に説明をすることは現在も心がけている。さらに、我々が海外の依頼者に対して日本の法制度を説明するための英文メモランダムを作成するときに、読者として想定されるのは、法律事務所への依頼に関して決定権を有する方々であり、他の業務も抱えていて忙しく時間も限られている中で、我々に助言を求めている方々もおられるであろうと考えるようになった。そのため、メモランダムに多くの情報量を盛り込もうとすると、内容面で微に入り細にわたるものとなり、かえって依頼者側の理解を妨げるおそれもあるのではないかと思うようになり、むしろ「簡にして要を得た」文章の方が望ましいと考えるに至った。これが自らの職業経験から得た私の持論である。

 数年前のことであるが、日本におけるファンド規制について英語で論文を執筆し、海外の出版物に寄稿する機会をいただいた。英語の論文を一から自力で執筆するのは骨の折れる作業であったが、後日、その記事を実際に読んで下さった海外の依頼者からご相談をいただいたときには、論文の完成に至るまでの積み重ねのすべてが報われたような気持ちになったことをいまでも記憶している。最近では機械翻訳も普及しており、機能が向上するにつれ、今後、翻訳の精度も改善されていくと思われるが、抽象的な概念や微妙なニュアンスを伝えるのはまだまだ難しいだろう。人種、国籍や生まれ育った環境も異なる海外の方々に対し、第三者による翻訳、通訳等のフィルターを介さず、自分の考えを直接伝えることができ、言語の壁を越えて理解を共有することができたのなら、それが国際的な仕事をすることの醍醐味であり、英語の勉強を続けるモチベーションにもなると思う。

英語力の維持・向上への取組み

 留学から10年以上が経過して「生(ナマ)」の英語に接する機会は相対的に少なくなっており、また留学を経験したとはいえ、所詮、元々は「純ドメ」であるため、英語力の維持・向上の向けての取組みは今後とも継続しなければならないと考えている。英語に関する資格・検定として留学前にはTOEFLと英検を受験していたが、帰国後はTOEICや国連英検などの検定試験にも挑戦しており、最近では、英会話のレッスンをオンラインで受講している。このうち、特にお薦めしたいのは国連英検である。国連英検では、国際的な時事問題に関して自分の考えや解決策を論理的に伝達する表現力が求められており、難易度は高いが、最後に控えている面接試験では、ネイティブスピーカーの試験官と、国際社会で生じている現実の問題について議論を交わすことができ、私も大変有意義な経験をしたと記憶している。

子供たちへの思い

 冒頭で、子供たちへの願いとして、将来、国際的な人材となって欲しいと考えており、国際的な舞台での仕事には一定の語学力も必要であることを述べた。他方で、私自身の経験からして、語学の習得は長い道のりであることも承知しているので、子供たちには、それぞれの成長に応じて少しずつでもよいので、自分なりに考えながら、語学力を伸ばしてもらえたらよいのではないかと思う。また、国際的な舞台で仕事をするには、純粋な語学力を伸ばすだけでなく、英語で伝える内容自体を充実させることも必要であると私は考えている。そのためには各自の専門分野・領域における経験や知見を蓄積するとともに、論理性、思考力、社会人としての成熟度などの総合的な能力を培うことも必要になるが、それもまた長い道のりとなるに違いない。これから子供たちが成長していく過程で、自分の経験をもとに、子供たちに対して何らかの意味のあるアドバイスができたらよいなと思っている。仕事を終えて自宅に帰り、子供たちの寝顔を見て、ふとそう思った次第である。

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筆者

若狭 一行

若狭 一行(わかさ・かずゆき) 

 アンダーソン・毛利・友常 法律事務所スペシャル・カウンセル。
 2002年、東京大学法学部卒業。2003年、司法修習修了(56期)、弁護士登録。2010年、Harvard Law School (LL.M.)修了。2010年〜2011年、米国Harvard Law School客員研究員。2011年、ニューヨーク州弁護士登録。2016年、不動産証券化協会認定マスター取得(一般社団法人不動産証券化協会)。
 主な書籍・論文は、『トークン表示有価証券の譲渡および第三者対抗要件に関する問題点 -匿名組合出資持分のトークン化と流通に向けた試論 -(上)(下)』(金融法務事情 No.2158 金融法務事情 No.2159、2021年)、『The Public-Private Partnership Law Review - Sixth Edition (Japan Chapter) The Public-Private Partnership Law Review-Japan』(2020年)、『実践!! 業務委託契約書審査の実務』(学陽書房2019年)、『Fund Management 2019 Japan Getting the Deal Through』(2019年)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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