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チェコ首相、ヨルダン国王、ケニア大統領ら各国現旧首脳35人が租税回避地とつながり

新たな秘密ファイル「パンドラ文書」で判明

奥山 俊宏

 チェコ、ヨルダン、ケニア、イギリスなど世界各国の現旧首脳35人を含む91の国・地域の政治家や高官たち336人と租税回避地(タックスヘイブン)の関わりが、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が新たに入手した1190万件の秘密電子ファイルで明らかになった。5年前に世界に衝撃を与えた「パナマ文書」の2~3倍規模。ICIJはこのファイルを「パンドラ文書」と呼ぶことにした。

2.94テラバイト、1190万件

拡大ICIJ作成
 パンドラ文書は、租税回避地で法人や組合を設立したり維持したりする登記の実務を担っている各地の14の業者・法律事務所の内部文書からなる。パナマ文書は一つの法律事務所から流出した電子ファイルだったが、パンドラ文書は、租税回避地のより多様な実態を垣間見せている。PDF、ワード、画像、電子メールなどのファイル形式の雑多な事務文書が含まれており、全部で2.94テラバイトに上る。

 ICIJのジェラード・ライル事務局長によれば、これらの電子ファイルは、何回かに分け、数カ月かけてもたらされた。情報源は一人。情報源はICIJに対し、匿名とすることを求めているが、そのほかには条件を付していない。情報源は、各国の政府当局にこの文書を調べてほしいと希望しており、そのためにICIJにこれらを提供したと言っているという。

 ICIJとライル事務局長は2011年から、租税回避地に関する秘密ファイルに基づく取材・報道を続けており、2013年に「オフショア・リークス」の記事を発信。続けて2014年に「ルクセンブルク・リークス」、2016年に「パナマ文書」、「バハマ・リークス」、2017年に「パラダイス文書」を発信した。

 今回の「パンドラ文書」について、ICIJはこれまで2年かけてその内容を精査してきた。ICIJの呼びかけに応じて、117の国・地域から150の報道機関、600人のジャーナリストがこれの分析と取材に参加し、これは一つの調査報道チームとしては史上最大だ。日本からは朝日新聞と共同通信の2社が日本国内に関係する個人や企業の取材にあたっている。

報道開始ファイルの大きさファイル件数現旧国家首脳政治家や高官
パナマ文書 2016年4月 2.6 テラバイト 1150万 12人(報道開始後14人に) 140人
パラダイス文書 2017年11月 1.4 テラバイト 1340万 14人 127人
パンドラ文書 2021年10月 2.94 テラバイト 1190万 35人 336人

政治家の数はパナマ文書の2~3倍規模

 パナマ文書の報道が2016年4月に始まったときに、租税回避地とのつながりが明らかになった公職者は140人で、このうち現旧の国家指導者は12人だった。のちの取材で別の2人の首脳の関わりも分かり、合計14人となった。パラダイス文書では、鳩山由紀夫・元首相ら12カ国の現旧首脳14人を含む47カ国の現旧要職者・要人、127人の名前があった。パンドラ文書からは、パナマ文書、パラダイス文書の3倍近くの人数の現旧首脳、2倍余の人数の現旧政治家・高官と租税回避地の関わりが見つかっている。

 パンドラ文書で租税回避地とのつながりが判明した35人の現旧国家首脳の内訳は、ヨルダンのアブドラ国王、ケニアのケニヤッタ大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領、エクアドルのラソ大統領、英国のブレア元首相ら。

拡大記者の質問を無視するチェコのバビシュ首相=2021年9月30日、独公共放送NDR撮影のビデオから
 のちにチェコの首相となるアンドレイ・バビシュ氏は2009年7月、パナマの法律事務所「Alcogal」に依頼して、英領バージン諸島に「Blakey Finance Ltd.」という名前の法人を設立した。さらに、米ワシントンDCに「Boyne Holding LLC」を設立。同社はモナコの「SCP Bigaud」という不動産管理会社を取得した。同年秋、バビシュ氏は1500万ユーロ(19億9900万円)をこれらの会社に送り、地中海に近い南フランスのムージャンで不動産16物件を購入した。中でも、「シャトー・ビゴー」は、3ヘクタールを超える敷地にベッドルームが5つある2階建ての邸宅とプールがある。その後、バビシュ氏は財務相を経て2018年に首相に就任したが、法律で義務づけられたバビシュ首相の資産公開の文書にこうした資産の記載はない。

 これについて、ICIJやその提携先報道機関はバビシュ首相の広報官に詳細な質問を送ったが、返答はなかった。その上、ICIJと提携するチェコの非営利報道機関「チェコ調査報道センター」とフランスのルモンド紙、ドイツの公共放送NDRは9月29日に予定されていた選挙集会の取材から締め出された。翌30日、記者たちはバビシュ首相をその視察先で直撃取材したが、首相は質問に答えなかった。

拡大チェコのバビシュ首相(右から2人目)に質問するチェコ調査報道センターの記者(手前左端)=2021年9月30日、独公共放送NDR撮影のビデオから

 ケニアのケニヤッタ大統領とその親族は、パナマの法律事務所から流出した資料によれば、パナマに2法人、英領バージン諸島に5法人を所有していた。このうちの1法人は英国ロンドンに邸宅を保有。別の2法人は数千万ドル(数十億円)規模の投資をしていた。

拡大336人の政治家・高官の分布
 これら首脳を含め336人の政治家や高官とつながりがあると判明した法人は956社。このうち3分の2余は英領バージン諸島にある。

拡大パンドラ文書で特定できた法人の実質的支配者の分布
 パンドラ文書で、ICIJは、2万7千余の法人の実質的支配者2万9千人余を把握しており、これはパナマ文書の2倍余に相当する。この実質的支配者の数を国籍別に見ると、ロシアが4400人余と最も多い。次いで多いのは英国で3500人余、以下、アルゼンチンが2500人余、中国が2400人弱、ブラジルが1900人弱と続く。日本は126人で、国・地域を人数の多い順に並べると55番目だった。

 ロシアのプーチン大統領と愛人関係にあると報じられた女性が租税回避地の法人を通じて南欧モナコで不動産を購入していたことも、ICIJと提携するワシントン・ポスト紙の取材で判明した。2003年4月2日、「Brockville Development Ltd.」という名前の法人が英領バージン諸島で設立され、数カ月後、同法人はモナコのマンションを360万ユーロで購入した。ワシントン・ポスト紙の取材と分析の結果によれば、同社の実質的支配者だとされているのが、プーチン大統領の愛人だったとロシアののオンラインメディアで報じられた女性だった。

日本の公職経験者は2人

 パラダイス文書では鳩山元首相を含め日本の元国会議員3人と租税回避地の法人との関わりが見つかったが、パンドラ文書につ

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。 近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
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