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パンドラ文書とICIJをめぐるQ&A

奥山 俊宏

  ICIJとは何ですか。

  米ワシントンに事務所を置く非営利組織です。国際調査報道ジャーナリスト連合(International Consortium of Investigative Journalists)の頭文字をとってICIJと呼ばれます。国境を越えて世界にまたがっているような不正や社会問題に関する取材・報道で各国の調査報道記者が互いに助け合うための要となる地球規模のネットワーク組織として1997年に設立されました。

拡大ICIJのロゴ
 現在、100超の国・地域の280人の記者がメンバーになっており、プロジェクトごとに朝日新聞など各国の報道機関と提携しています(https://www.icij.org/about/)。朝日新聞からは2011年に記者がメンバーとなり、2012年に社として提携しました(https://webronza.asahi.com/judiciary/articles/2716040700002.html)。
 租税回避地の問題のほかに、医療機器の不具合(https://digital.asahi.com/articles/ASLCR5417LCRUHBI00M.html)や東京五輪招致をめぐる不明朗な資金の流れ(https://webronza.asahi.com/judiciary/articles/2720091900001.html)も取材の対象にしてきました。財団や一般の人たちからの寄付を主な財源として運営されており(https://www.icij.org/donate/)、自前の記者やIT技術者を雇っています。

  パナマ文書とは何ですか?

  中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した内部文書の電子ファイル群です。1150万件、2.6テラバイトあります。匿名の人物から南ドイツ新聞に提供され、ICIJが中心となって、朝日新聞を含む約80カ国の報道機関が参加し、分析と取材にあたり、2016年4月3日(日本時間4日未明)に一斉に記事の発信を始めました。米国のオバマ大統領は記者会見で「多くは適法だが、しかし、それこそが問題だ」と述べ、「不十分な法制度」是正への意欲を明らかにしました。
 10カ国の現旧指導者12人(のちの取材で14人に)を含む公職者140人の関係法人が見つかり、アイスランドのグンロイグソン首相は報道直後に辞任しました。パキスタンのシャリフ首相は、資産隠しをめぐって翌2017年に辞任に追い込まれ、2018年に有罪判決を受けて刑務所に収容されました。南欧マルタのムスカット首相は、側近の補佐官が資金洗浄などの疑いをかけられ、2020年1月に辞任しました。
 ICIJのまとめによれば、この報道の後の5年弱の間に各国政府が徴収した税金や罰金の総額が少なくとも13億6千万ドル(約1500億円)に上ります。日本でも、申告漏れを指摘されて、過少申告加算税を追徴されたなどの事例が報道されていますが、その総額は不明です。
 この報道でICIJは2017年のピュリツァー賞を受賞しました。

  パンドラ文書とは何ですか?

  租税回避地に法人や組合を設立するのを専門とする14の業者、法律事務所から流出したとみられる1190万件余、2.94テラバイトの電子ファイル群です。ある匿名の人物からICIJに何回かに分けて提供されました。その多くは1996年から2020年にかけて作成されていました。

拡大ICIJ作成
 ICIJの呼びかけに応じて、朝日新聞、共同通信(日本)、ワシントン・ポスト(米国)、ガーディアン、BBC(英国)、ルモンド(フランス)、南ドイツ新聞など、117の国・地域から150の報道機関、600人のジャーナリストがこれの分析と取材に参加しています。ジャーナリストの協働としては過去最大(the biggest journalist collaboration)とみられます。内部で話し合って、「パンドラ文書」と命名し、2021年10月3日(日本時間では4日午前1時半)に一斉に報道を始めることにしました。
 パンドラ文書について、ICIJのジェラード・ライル事務局長は「我々は、たくさんの物事の詰まった箱を開こうとしている(we think we're opening a box on a lot of things.)」、「これは全世界にわたっていて、途方もなく大きい(ginormous)。もしパナマ文書が大きかった(large)とすれば、これは莫大(enormous)だ」と話しています。
 パナマ文書は南ドイツ新聞を経由してICIJにもたらされましたが、パンドラ文書は直接、ICIJに提供されました。情報源は一人で、匿名とすることを求めていますが、そのほかに条件は付されていないとのことです。情報源は、各国の政府当局にこの文書を調べてほしいと希望しており、そのためにICIJにこれらを提供したと言っているとのことです。

  租税回避地とは何ですか?

  世界には所得にかかる税金がほとんどゼロの国や地域があります。そこに書類上だけの会社をつくって利益をうまく移せば税金を逃れられるかもしれません。そんな場所のことをタックスヘイブンと呼んでいます。直訳すると「税の避難所」です。
 会社の情報がほとんど公表されないのが、多くのタックスヘイブンの特徴です。社長や株主がだれなのか、そんな基本情報すらも調べることができません。
 タックスヘイブンを使った取引のほとんどは適法だとみられますが、財産や資金の流れを隠したり、税金を払わずに済ませたりする目的でタックスヘイブン法人が悪用されることもあります。税逃れとは逆に、決算をより良く見せかける粉飾のためにタックスヘイブンを使ったオリンパスのような事例もあります。

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。 近刊の共著書に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に 『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
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※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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