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福島原発事故めぐる東京電力株主代表訴訟が結審、判決は来年7月

奥山 俊宏

 福島第一原発事故を起こした経営責任を問うて22兆円の支払いを東京電力の元社長らに求めた株主代表訴訟で、東京地裁民事8部は11月30日、地裁民事103号法廷で第62回口頭弁論を開いた。各当事者の弁護士から最終準備書面の口頭説明を聞いた後、朝倉佳秀裁判長は弁論の終結を宣言。判決言い渡し期日を来年7月13日午後3時と指定した。

記者会見する原告やその弁護士=2021年11月30日午後4時55分、東京・霞が関
 事故で東京電力が被った巨額の損害を賠償するよう求め、同社の株主が会社に代わって旧経営陣を相手取って代表訴訟を東京地裁で提起したのは事故発生1年後の2012年3月のことで、以来、結審に至るまでに9年8カ月近くを要し、判決までに10年4カ月を経ることになる。

 被告は、▽元会長の勝俣恒久、▽元社長の清水正孝、▽元副社長兼原子力・立地本部長の武黒一郎、▽元副社長、元常務兼原子力・立地副本部長の武藤栄、▽元常務、元福島第一原発所長の小森明生――の5氏。請求額は22兆円。東京電力が被告側の立場で補助参加している。

 30日午後1時10分に始まった口頭弁論では、おおむね1時間おきに換気のための休憩を5分ずつはさみながら、各当事者の訴訟代理人弁護士がスライドを映写し、最終準備書面の内容を説明した。

 原告訴訟代理人の甫守一樹(ほもり・かずき)弁護士は、10月29日に現地・福島第一原発に朝倉裁判長や原告・被告双方の弁護士が現地進行協議のため出向いたときの見聞を説明。「サービス建屋の出入り口は本当に小さく、その気になれば(事故前に)水密化できた」「3.11でも損傷せず、水の入っていない扉があった」「4号機の大物搬入口には立派な水密扉が事故後につけられたが、同じような水密扉がなぜ(事故前に)つけられなかったのか」と述べ、建屋の水密化によって事故を回避することが可能だったと主張した。

 ピンク色のネクタイを締めたスーツ姿の河合弘之弁護士は、裁判所が福島第一原発について「津波に対して特に脆弱な構造であること」「簡単な工事で津波の建屋への侵入を防ぐことができたこと」を現地で確認できたと信じると述べたうえで、「『歴史の審判』に耐える判決をして下さることを期待します」と原告側の説明を締めくくり、一礼した。午後2時59分になっていた。

 東京電力の弁護士は、「土木グループが検討していたこと=被告の認識」ではないと指摘し、「十把一絡げに『東京電力がこう考えた』と言うのは正確ではない」と述べた。決定するのは、土木グループではなく、会社、すなわち取締役会だ――とも主張した。原子力・立地本部の土木グループ(のちに土木調査グループ)は2008年に「津波対策は不可避」と考えたが、会社や被告たちの認識はそれと異なるという主張だとみられる。

 東京電力の弁護士はまた、「結果回避措置が存したとは言えない」と主張。建屋などの水密化のアイデアについて、後知恵であり、もし実施したとしても奏功しなかったと主張した。東電の弁護士の説明は午後3時6分から同38分までの32分間続いた。

 原子力・立地本部幹部だった武黒、武藤、小森の3氏の訴訟代理人弁護士は午後3時39分に説明を始め、「事故前の目線で見れば、被告らの判断・行動は極めて合理的なものだった」と主張した。福島県沖の日本海溝沿いでマグニチュード8級の津波地震が起こりうるとした政府の地震本部による長期評価について、無視したわけではなく、軽視してわけでもなく、土木学会に検討を依頼したとして、きわめて合理的な手順だったと主張した。

 社長を経験した勝俣、清水の2氏の訴訟代理人弁護士は午後4時31分から、「特段の事情のない限り、会社内外の専門家ないし専門機関の評価・判断を尊重し、これに依拠することができ、またそうすることが相当である」との一般論をまず説明。2氏が接した原子力部門側の言動について「担当部門が著しく不合理な対応をしていることをうかがわせるものではなかった」と主張。いずれの被告についても、善管注意義務に反しない、と主張した。

 全当事者の口頭説明が午後4時45分に終わると、朝倉裁判長は「9年以上の審理」に言及した上で、「これで弁論を終結します」と述べ、判決期日を指定。「おつかれさまでした」と言い、閉廷した。

 その後、司法記者クラブで原告側の記者会見が開かれた。

 海渡雄一弁護士は、被告役員側の主張に触れて、「専門家の最たるものが推本(政府の地震本部)」と指摘。「裁判所が一番問題にしているのは、土木学会に依頼して検討している間に何もしなかったのは何なんだ、ということなのに、それについての答えは結局、最後まで出なかった」とも指摘した。

 一審に10年以上もかかることについて、河合弁護士は「刑事事件の進行を横にらみしたから」と説明。海渡雄一弁護士は「無駄に長かったわけではなく、新たに明らかになった事実、新しい証拠があった」と振り返り、「審理のあり方としてはベスト」と総括した。福島第一原発での現地進行協議について、海渡弁護士は「実際に見ると、我々も主張に確信を持つことができた」と振り返った。河合弁護士は、刑事訴訟と比較して、代表訴訟の審理について、本人尋問での被告本人と裁判官のやりとりに触れ、「より生々しい、人間くさい訴訟になっている」と評価した。

 判決期日が弁論終結から7カ月あまりも先になったことについては、海渡弁護士は「よっぽど念入りに(判決書を)つくりたいという裁判所の思いの表れなんだろう」と推測。「必ずや被告たちの責任を明らかにした判決が出るものと思う」と期待感を示した。河合弁護士は「ぼくらが勝っても、あっちが勝っても、控訴審になるから、まだ道半ば」と述べた。