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公共施設新設の新しいPFI事業類型「BTコンセッション」

従来型PFIとコンセッションの交錯

山本 輝幸

拡大山本 輝幸(やまもと・てるゆき)
 2000年、東京大学法学部卒業。2003年、Boston University School of Law(LL.M.)修了。2006年、慶應義塾大学法科大学院(J.D.)修了。 2007年、第一東京弁護士会登録。2012~2014年、株式会社国際協力銀行(資源・環境ファイナンス部門)嘱託。2021年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

1.はじめに

 (1)既存施設型コンセッション

 2011年にPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)の改正により導入された公共施設等運営権制度(コンセッション方式)は、この10年の間、空港、上工下水道、道路、文教施設、MICE施設などにおける運営方法として採用され順調に案件数を積み重ねている。その多くは、既存のインフラ施設を対象としているが、これは公共施設等運営権の性質に起因する。すなわち、公共施設等運営権は、所有権に認められる3つの権能(使用・収益・処分)のうち、使用・収益の権能を切り出したみなし物権であるが、その前提として対象となる公共施設等が現に存在し、公共がその所有権を保有している必要があるため、導入初期段階において、既存施設を前提としたコンセッション事業が主流となるのはごく自然な帰結と言える。

 このような既存施設を活用するコンセッション事業は、公共施設等運営権が設定される以前の事業実績(トラックレコード)があるため、民間事業者が、自らが運営するにあたって事業収支の予測や事業面における課題・工夫を具体的に検討することが可能である。誤解を恐れずに言えば、期間限定の事業譲渡に類似するものとしてリターンとリスク分析に取り組みやすい類型である。一連の空港コンセッションはこの典型例として挙げられる。

 (2)新設施設型コンセッション(BTコンセッション)

 一方で、コンセッション方式はあくまでも公共調達手法の一つに過ぎず、他の公共調達手法との組合せで実施することを否定するものではない。例えば、施設の維持管理・運営に関して、PFI法に基づくコンセッション方式と地方自治法に基づく指定管理者制度を併用して実施することも可能である。2018年のPFI法改正により併用時の手順が簡素化されたこともあり、文教施設やMICE施設の事業方式決定にあたって一つの有用な選択肢となっている。

 また、事業範囲として施設整備と維持管理・運営の双方を対象とした上で、PFI法に基づく従来型PFI事業として公共施設等を新設又は更新し、公共が施設完成に伴う引渡しを受けて所有権を取得した後に、施設整備事業者(運営権者)に公共施設等運営権を設定することも可能である。これが本稿で取り上げるBTコンセッションであり、鳥取県営水力発電所再整備・運営等事業や愛知県新体育館整備・運営等事業で採用された新しい類型である。従来型PFI事業であるBTO(Build Transfer Operate)の「O」の部分がコンセッションに置き換わったものとも言え、案件の導入可能性調査の際に両者を比較することが増えている。

 (3)BT「+」コンセッション

 BTコンセッションと似て非なる類型として、BT「+」コンセッション(DBコンセッション)がある。施設整備と維持管理・運営を完全に別事業とし、施設整備事業者によるDesign Buildが行われ、公共が施設完成に伴う引渡しを受けて所有権を取得した後に、施設整備事業者とは別法人である運営権者に公共施設等運営権を設定するものであり、例として愛知県国際展示場が挙げられる。後述2に記載するBTコンセッションとの対比で見ると、この方式は、運営権者自身が施設整備を行うものではないため、整備した施設を用いた利用料金収入の極大化を真に達成することができない。また、公共と施設整備事業者の間の施設整備費に関する債権債務関係と、公共と運営権者の間の運営権対価に関する債権債務関係が発生し、主体が異なるため、相殺等による現実の支出の軽減(公共負担の軽減)を図ることもできない点で異なる。

2.BTコンセッションの意義

 BTコンセッションは、PFI法に基づく制度であるため、他のPFI事業やコンセッション事業と同じく、同法第1条に定める「民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用した公共施設等の整備等の促進を図るための措置を講ずること等により、効率的かつ効果的に社会資本を整備するとともに、国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供を確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」とする点は同じであるが、その意味合いは大きく異なる。

 (1)利用者サービスの向上(利用料金収入の極大化)

 BTコンセッションは、事業実績を豊富に有する既存施設を対象とする既存施設型コンセッションと異なり、事業実績に乏しい新設又は更新された施設を対象とするため、運営権者が需要変動リスクをコントロールしながら、将来事業キャッシュフローである利用料金収入をもって事業経営経費を賄い、リターンも獲得することの難易度が相対的に高くなる。そのため、利用料金収入を極大化すべく、利用者のニーズを最大限反映した質の高いサービスを提供できるよう、より魅力的・機能的な公共施設等の整備を計画・提案するインセンティブが強く働くこととなる。この「施設を運営する者が自ら施設を整備して使い勝手を良くする」構図が、既存施設型コンセッションやサービス対価に依拠するBTOでは見られないBTコンセッションの本質的な価値であり、公共施設等の利用者に提供するサービスの質に大きく寄与することとなる。既存施設型コンセッションは期間限定の事業譲渡に類似するのであれば、BTコンセッションは想定する将来事業キャッシュフローから初期投資額(施設整備費・運営権対価)を定める不動産開発事業に類似するものとも言える。

 (2)公共負担の軽減(相殺等)

 また、公共負担の軽減に資する面も特徴の一つである。公共は、施設整備業務の対価として施設整備費を運営権者に対して支払う義務を負担する一方、運営権者は、公共施設等運営権の設定の対価として運営権対価を公共に対して支払う義務を負担する。施設整備費・運営権対価のどちらが高い金額となるかは案件によって異なり、後述3にて詳述するが、いずれの場合であっても、各債務の履行期を施設整備完成直後から運営権設定日又は(停止条件付の場合)運営権設定効力発生日までの間で一致させ、対当額にて、相殺その他現実の拠出を伴わない措置(地方自治法第96条第1項第8号の負担付き寄附など)を行い、差額によって決済することが可能である。別言すれば、公共は、施設整備期間中の中途解除による出来高払い又は維持管理・運営期間中の中途解除による残余の運営権存続期間分の運営権対価相当額の返還を行わない限り、対当額部分を控除した金額にて公共施設等の所有権を取得することが可能となる。

 なお、後述の3及び4では相殺等が行われる前提で記載しているが、BTコンセッションにおいて相殺等を行うことは必然ではなく、愛知県スタートアップ支援拠点整備等事業では、施設整備費及び運営権対価をそれぞれ額面通り収受し、事業期間中の公共サポート(政策的支援)の原資として運営権対価を組み込んでいる。初期投資額に関する公共負担の軽減を重視するか、事業運営期間中の公共サポートによる安定的な事業運営を重視するかは案件毎により異なることを示唆している。

3.BTコンセッションの小分類

 (1)運営権対価残債型

 運営権対価の方が施設整備費よりも高い場合、相殺後に残る運営権対価相当額を、運営権者が公共に対して支払うこととなる。支払方法は、案件毎に決定され、運営権者は、一括払いの場合には、出資金又は金融機関からの外部借入を原資として支払い、分割払いの場合には、利用料金収入(相殺後もなお初回の支払が必要な場合には出資金又は金融機関からの外部借入)を原資として支払うこととなる。なお、コンセッション事業の中には運営権対価を運営権対価一括金と運営権対価分割金に分けて設定する場合があるが、内容を見ると、運営権対価一括金を、分割払いのうち、初回の支払額を示す用語として使用されていることがあり、ややミスリーディングな表現である。

 (2)施設整備費残債型

 施設整備費の方が運営権対価よりも高い場合、相殺後に残る施設整備費相当額を、公共が運営権者に対して支払うこととなる。施設整備費の支払いであることから、支払方法は、昭和47年9月30日付自治導第139号各都道府県知事あて財務局長通知(注1)に従い、原則として一括払いとなり、例外的にPFI事業の要素(一定のサービス購入)も加算された案件の場合は、サービス対価として割賦払いすることが可能となる。この類型の場合、公共は原資となる予算を確保する必要があり、国庫債務負担行為(財政法第15条)、債務負担行為(地方自治法第214条)をすることとなる。債務負担行為とは、複数年度にわたる支出につき、支出の費目・年限・限度額を特定する予算形式であり、支出年限に定める期間中の毎年度の単年度歳出予算への計上を義務的経費化するものであるが、一括払いの場合であっても、契約締結時から施設完成に至るまで複数年度にわたり、かつ、その間に前払いや部分払いの他、中途解約時の出来高払いがあり得るため必要となる。

4.BTコンセッション特有の論点

 (1)予定価格の設定

 予定価格とは、競争入札や随意契約に付する場合の契約金額を決定する基準として設定される価格(予算決算及び会計令第79条、第99条の5)であるが、公共の支出原因行為となる施設整備費に関する予定価格は、当該予定価格を超過する契約金額の提案を失格とする上限拘束力を有し、公共の収入原因行為となる運営権対価に関する予定価格は、当該予定価格未満の契約金額の提案を失格とする下限拘束力を有する。

 では、相殺のあるBTコンセッションの場合、予定価格をどのように設定すべきであろうか。単純に、施設整備事業とコンセッション事業が偶々組み合わさったに過ぎないと捉え、施設整備費と運営権対価のそれぞれを予定価格とする考え方がある。しかしながら、一入札・一予定価格・一契約との不文律に反して二入札・二予定価格・二契約となることに加え、相殺を行うためには施設整備事業者と運営権者を一致させる必要があるため、片方を競争入札に付す場合、もう片方を随意契約事由があるとして随意契約に付す必要がある。随意契約事由は厳格に解釈すべきであることから、その該当性に関して慎重な検討を要することとなる。

 そこで、かかる問題を回避するものとして、施設整備費と運営権対価の差額を予定価格とする考え方がでてくる。例えば、施設整備費200億円、運営権対価80億円の場合、差額の120億円が上限拘束力を有する予定価格となる。BTコンセッションの意義の一つである相殺等による公共負担の軽減に親和性があり、有益な考え方であるが、①施設整備費の上限額、②相殺等が行われる対当額部分に関する予算の裏付け、③提案評価方法に留意が必要である。

 まず、①施設整備費200億円が予定価格ではなく上限拘束力がないため、民間事業者による自由提案事項となる。その結果、施設整備費が高額となるとともに、公共が想定していなかったハイスペック過ぎる提案を受ける可能性が生ずる。かかる問題に対処するため、参考価格として公共が施設整備費の総額を示したり、要求水準書にて記載する施設のスペックを工夫したり、提案評価を厳格に行うなど、何らかの手当が必要となる。

 次に、②公共は、相殺後の差額120億円についてのみ債務負担行為をし、相殺等が行われる対当額80億円については債務負担行為をしない場合、契約締結時点で、施設整備期間中の中途解約による出来高払い又は維持管理・運営期間中の中途解約による残余の運営権存続期間分の運営権対価の返還にあたり、その全額の予算の裏付けがないこととなる。民間事業者だけでなく、その外部借入先である金融機関にとっても関心事となる事項であるが、公共から中途解約をする場合には、その時点で予算の裏付けをとってから解約行為を行うので問題ない、又は、最終的には契約不履行に基づく損害賠償金として請求可能であると整理することになる。

 最後に、③は非常に悩ましい問題である。施設整備費・運営権対価・差額の順に、(A)200億円・90億円・110億円の提案と、(B)220億円・100億円・120億円の提案のどちらが優れているであろうか。定量的評価として公共の負担額は(A)の方が優位に立つものの、定性的評価として施設整備及び運営は(B)の方が優位に立つように思われ、定量的評価点・定性的評価点の配分が非常に重要になってくる。案件毎に公共が何を重視するかが異なるため、配点には差異が生ずることになると思われるが、今後実務的に事例が積み上げられるべき事項である。

 (2)施設整備と維持管理・運営の交錯

 既存施設型コンセッションの場合、現に公共施設等が存在することから、契約締結時点において、運営権設定日、(停止条件付の場合)運営権設定効力発生日(運営開始日)、運営権存続期間満了日の各予定日を設定し、運営権存続期間を特定することが比較的容易である。他方で、BTコンセッションの場合、複数年かけて公共施設等を整備することが多く、契約締結時点において、確度をもって各予定日を設定し、運営権存続期間を特定することが難しい。様々な理由により施設整備が遅延する可能性があるだけでなく、運営権者として早期に施設を完成させ、運営を開始したいとの要望もあり得る。かかる問題に対処するため、①契約締結時点において、各予定日を特定日として設定し、運営権存続期間を特定するものの、後発事象に応じて柔軟に変更する方法か、又は、②予定日と実際に生ずる日を切り離し、予定日は完成遅延に関する概念のみに留め、実際に生じた日を起点に運営権存続期間を設定する方法(例えば、運営権設定日から30年間とする)が考えられる。②は事例が蓄積しているFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)と同様の取扱いであり、民間事業者及びその外部借入先である金融機関にとって馴染みやすい建付けとも言える。

5.今後の展開と期待

 BTコンセッションの小分類として運営権対価残債型と施設整備費残債型の2つを紹介したが、今後どのような展開を見せるであろうか。

 運営権対価残債型の例として、鳥取県営水力発電所再整備・運営等事業が挙げられるが、これは売電価格に関してコスト+フィーを

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筆者

山本 輝幸

山本 輝幸(やまもと・てるゆき) 

 2000年、東京大学法学部卒業。2003年、Boston University School of Law(LL.M.)修了。2006年、慶應義塾大学法科大学院(J.D.)修了。 2007年、第一東京弁護士会登録。2012~2014年、株式会社国際協力銀行(資源・環境ファイナンス部門)嘱託。2021年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な書籍・論文に、『サウジアラビア進出に必要なビジネス法ガイド(第3版)』(共編著、2019年)、『エネルギー法実務要説』(商事法務、2018年)、『ファイナンス法大全(下)[全訂版]』(商事法務、2017年)、『イランビジネス法ガイド』(共編著、2016年)、『電力システム改革の概要と電力法務の基本的視点 第6回・完 電力事業に関する 資金調達について』(NBL No.1070(2016年3月15日号))(商事法務、2016年)、『中東ビジネス法ガイド』(共編著、2015年)、『天然資源開発事業におけるプロジェクト・ファイナンスのエッセンス』(石油開発時報 No.183(2014年11月号))(共編著、石油鉱業連盟、2014年)、『Doing Business In エジプト』(共編著、2013年)、『中東諸国ビジネス法ガイド』(共編著、2010年)、『サウジアラビア進出に必要なビジネス法ガイド』(共編著、2009年)などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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