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ベンチャー投資の実務 ピッチ資料精査からデューデリ、契約締結まで

高山 陽太郎

拡大高山 陽太郎(たかやま・ようたろう)
 2006年、早稲田大学法学部卒業。2008年、東京大学法科大学院(J.D.) 修了。2009年、第二東京弁護士会登録。2017年、University of Southern California Gould School of Law (LL.M.) 修了。2017~2019年、シンガポール事務所勤務。2019年から東京事務所勤務。2021年1月に西村あさひ法律事務所パートナー。

1. はじめに

 近年、経営環境等の変化により、既存の企業が新しい製品・サービスを市場に投入しても短い期間で競争上の優位性を失うという製品・サービスのライフサイクルの短期化が指摘されている。その結果、多くの企業において、自前主義を脱却し、自社以外の技術を活用して新しいものを生み出すという、いわゆるオープンイノベーションの重要性が認識されている。他方で、世界的に、Internet of Things(IoT)技術やArtificial Intelligence(AI)などの先進技術の活用が加速し、ベンチャー企業がこれらの技術力をけん引している。このような状況下において、多くの企業はオープンイノベーションを推進するにあたり、ベンチャー企業との提携・協業を模索している状況である。

 本稿では、日本における、ベンチャー企業との提携・協業の一手法としてのベンチャー投資の実務に関し、基本的事項を説明する。

2. ベンチャー企業との提携の一手法としてのベンチャー投資

 ベンチャー企業への投資が提携の一手法として位置づけられるのは、企業である投資家が、当該投資をきっかけに、ベンチャー企業の事業・開発動向を見極めながら、ベンチャー企業との協業の在り方を模索していくためである。

 一般的に、企業によるベンチャー投資によるリターンには、最終的に当該ベンチャー企業が上場等をした場合における売却益等の財務リターンと、協業活動から得られる技術、ノウハウ、情報等や実際の販売による成果等の戦略リターンがあるとされるが、企業による投資に関しては戦略リターンを具体的にイメージすることが重要である。

 戦略リターンの検討においては、ベンチャー企業の成長ステージを踏まえた考慮が必要となる。ベンチャー企業は、その成長ステージ毎に以下のように分類される。


シードステージ
(Seed)

  • 創業期
  • ビジネスコンセプトあり
  • 事業オペレーション未整備

アーリーステージ
(Early)
  • 事業化を目指す時期
  • 製品等の開発完了
  • 売上なし

ミドルステージ
(Middle)
  • 成長初期
  • 経営が安定しだし利益の目処も立つ

レイターステージ
(Later)
  • 成長後期
  • 生産等のプロセスが確立し利益が確実に出始める
  • 上場等に向けた内部体制の整備


 例えば、アーリーステージ以前のベンチャー企業は、未だ本格的な事業化が達成できておらず、このような企業への投資は、当該企業の事業に関するノウハウ・情報取得や当該企業の開発・技術のモニタリングを短期的な目的として行われることが多い。逆に、ミドルステージ後半からレイターステージのベンチャー企業への投資は、より具体的な協業を意識したものが多くなるはずである。企業がベンチャー企業への投資を行う際には、このような目的を意識し、それに必要な提携・協業に関する事項を分析・検討し、それを具体的に契約書に落とし込むことが重要である。

3. ベンチャー投資の流れ

 ベンチャー企業による各タイミングの資金調達をラウンドというが、各ラウンドにおけるベンチャー投資の一般的な流れの概要を説明する。投資家がベンチャー企業を選定し、具体的な検討を開始してから実際の投資が完了するまでの期間はケースバイケースであるが、ラウンドごとに少なくとも1-2か月程度は必要となることが多いだろう。

 (1)ベンチャー企業とのコミュニケーションの開始

 ベンチャー企業への投資を行おうとする場合には、まず投資対象となるベンチャー企業の選定を行うことになる。企業がどのようにベンチャー企業を選定するかは様々であり、ベンチャーキャピタルや既存の株主等から紹介を受けるという場合や大企業であれば直接又は間接にベンチャー企業からコンタクトがある場合もある。社内にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)やベンチャー投資を専門とする部署がある企業の場合は、自ら投資対象候補先を抽出する場合も多い。

 (2)ピッチ資料の精査と守秘義務契約

 ベンチャー企業は、投資家候補先用にピッチ資料を作成していることが多く、投資家が当該資料を精査することから本格的な検討が始まることが多い。ピッチ資料とは、投げるという意味のpitchを語源とするもので、簡単にいえば、短いプレゼンテーション資料である。

 守秘義務契約は当該ピッチ資料の前後の段階で締結されることが多いが、ピッチ資料を配布する段階で、常に守秘義務契約を締結するとなると、ベンチャー企業が機動的に投資家候補にアプローチしていくことが難しくなるため、ピッチ資料提供後、さらに詳細な情報を開示するフェーズに進む場合に初めて守秘義務契約を締結する場合も少なくない。

 (3)財務リターン・戦略リターン等の初期精査

 ピッチ資料の精査後、投資家は、ベンチャー企業から、初期的に(ピッチ資料に記載のないより詳細な)事業計画や財務諸表、及び、キャップテーブルと呼ばれる資本政策表(株主構成、各株主の保有株式数・保有割合、ラウンドごとの調達額・企業価値などを一覧で整理した資料)などの情報を取得し、初期的な精査を実施することになる。また、投資家が経営陣の素質、ビジョン及び投資家との相性などを見極める観点からは、経営陣とのミーティングも重要である。ピッチ資料及びこれらの追加情報をベースに、投資家としては、投資による財務リターン及び戦略リターンを勘案して投資可否を決めていくことになり、戦略リターンを具体的にイメージした検討が重要になることは、前記のとおりである。

 財務リターンの観点からは、当該ラウンドにおけるベンチャー企業の企業価値を初期的に評価する。ベンチャー企業の事業計画は、当該計画どおりに、新規上場(IPO)をした場合の財務リターンを把握することに役立つ。また、キャップテーブルは、その内容から過去のラウンドにおけるベンチャー企業の企業価値を把握することができ、自らが投資するラウンドの企業価値の合理性をそこからある程度推測していくのに役立つ。これらの情報をもとに初期的なバリュエーションを実施する。

 (4)投資総額の検討(リード投資家とフォロー投資家)

 前記の初期的分析と並行して、投資家の投資総額を検討していくことになる。各ラウンドにおいて、複数の投資家がいる場合に、最も大きな投資を行う投資家をリード投資家といい、その他の投資家をフォロー投資家という。ベンチャー企業側で、事業計画を踏まえた調達希望額が大まかに決まっていることが多いため、その半分を出すということであれば基本的にはリード投資家になるというイメージである。

 後記のとおり、株式の保有比率に応じて投資家が得られるガバナンスに関する権利等が異なるため、その点を踏まえて、リード投資家となるか否かを検討することが必要である。また、投資総額が大きい投資家の方がベンチャー企業との間での協業の提案などがしやすい点も勘案する必要がある。これに加えて、リード投資家は、フォロー投資家から、デュー・ディリジェンスなどをある程度しっかり行うことを期待されるポジションになること、及び、各ラウンドにおける投資条件の交渉もリード投資家とベンチャー企業との間で行われていくことは理解しておく必要がある。

 (5)タームシートの締結

 タームシートとは、投資条件の概要を規定した契約書である(案件によっては、契約書ではなく当事者間の認識を確認するための資料にとどめる場合もあり、そのような資料をタームシートと呼ぶ場合もある)。タームシートは、守秘義務条項等を除いて法的拘束力はないのが一般的である。

 タームシートを締結するか否かは案件によりけりであり、事案ごとに判断する必要がある。一般的には、ベンチャー企業側は、デュー・ディリジェンスに進む前に、投資総額や企業価値をこの時点で投資家側と合意することによって、投資の確度を確認しておきたいと考えることも多いだろう。投資家側も自らが投資家候補としての地位を有することを確保しておくことにメリットがある場合もある。投資家にて協業等に関する提案がある場合には、その概要をベンチャー企業側に示しておくことにも意義があるだろう。

 (6)デュー・ディリジェンスの実施

 財務リターン・戦略リターンの分析の精度を高めるため、日本のベンチャー投資においては、弁護士や会計士を含む専門家によるデュー・ディリジェンスを行うことが多い。ビジネス、財務、税務及び法務などの分野にわけて実施されことが多い。法務の観点からは、知財・ノウハウや許認可等などが特に重要分野となることが多い。

 デュー・ディリジェンスは、案件をそのまま遂行するかそれとも中止するかの判断として重要なものであり、特にリード投資家によるデュー・ディリジェンスの内容や結果は、フォロー投資家の動向にも影響を与える点は意識しておく必要がある。また、当該デュー・ディリジェンスの結果を、ベンチャー企業に共有する、又は、不備が発見されればそれを是正するよう契約においてベンチャー企業側に求めていくことにより、ベンチャー企業側で、より良いガバナンス・コンプライアンス体制を築き、ひいては早期の新規上場(IPO)にも寄与するという効果も期待できる。

 (7)投資契約の締結から投資の実行

 デュー・ディリジェンスと並行して、又は、その完了後、投資関連契約の交渉を行い、契約を締結する。前記のとおり、主な投資条件の交渉は、リード投資家とベンチャー企業との間で進むことになるが、フォロー投資家は、自らのデュー・ディリジェンスの結果等を踏まえて、反映したい条項等があれば、リード投資家にそれを盛り込むように求めていくか、又は、サイドレターなどをベンチャー企業との間で個別に締結することを求めていくことになる。

 契約締結後、1か月以内に投資金額の払込みが行われることが多く、早ければ1-2週間程度で払込みが行われることもあるが、海外の投資家が参加する場合には日本の外為法上の手続が必要となるなど一定の期間を空ける必要がある場合も存在する。

3. ベンチャー企業への投資の対象

 (1)種類株式の活用

 ベンチャー投資は、基本的に株式を用いることが多い(新株予約権付社債等を用いる場合もあるが、本稿では詳細は割愛する)。また、シードステージで投資したエンジェル投資家などを除き、ベンチャー企業による資金調達は、普通株式ではなく、種類株式が用いられることが多い。種類株式が用いられる理由はいくつかの説明方法・理由があるが、そのうちの一つを以下で例を用いて説明しよう。

 例えば、創業者であり、かつ、ベンチャー企業の経営者であるXが自己資金500万円で立ち上げた会社が存在したとしよう。この時点では、創業者Xが100%の株式を保有している。ベンチャー企業の設立から1年後に(新規投資家による出資前の)企業価値を4億円として、新規投資家であるY社から1億円の投資を受け入れたとしよう。この場合、出資後の企業価値は5億円であり、Y社が全体の20%の株式を保有することになり、残りの80%を引き続き創業者Xが保有することになる。このとき、創業者Xが事業計画を放棄して、ベンチャー企業を解散・清算してしまうと何が起こるだろうか。仮に、X及びY社がともに普通株式のみを保有していたとすると、解散・清算により、Y社が投資した1億円は、(他に資産等がないことを前提とすれば、)株式保有比率に従って、8,000万円が創業者Xに、2,000万円がY社に分配される。創業者Xは500万円の投資により8,000万を得て、Y社は1億円を投資した直後にもかかわらずY社には2,000万円しか分配されない結果になる。

 上記の例のように、創業者や既存の先行投資家と新規投資家との間では利害対立状況があることがわかるだろう。このような投資家にとって望まない方向でのインセンティブが創業者等に生じてしまう状況を避けるため、解散・清算した場合であっても、Y社に先行して1億円を分配しなければならないとするのが、残余財産の優先分配権である。これは普通株式にはない権利であり、種類株式を用いる大きな理由の一つである。

 また、上記のような状況は、会社の解散・清算の場合だけに起こるものではない。例えば、上記の例で、創業者Xが、Y社からの投資を得た直後に、会社を競合会社に売却した場合で、創業者XとY社が普通株式を保有している場合には、売却対価は株式保有比率に従って分配されるので、やはり同様の利害対立状況が存在する。従って、このような会社の売却等の事象が生じた場合にも、解散・清算があった場合と同様に、投資家は自らが投資した金額を優先して回収できるような仕組み(そのような仕組みに関する条項をみなし清算条項と呼ぶ)を入れることが多い。

4. 投資関連契約等の概要

 (1)投資の3点セット

 日本においては、(種類)株式を取得するための株式引受契約、株主間の利害調整を規律し、株主の権利を主に定める株主間契約及び定款が、投資を行う上での権利関係を定めるものであり、ベンチャー企業投資の3点セットである。これに加えて、投資家とベンチャー企業との間で協業に関する契約を締結することもあり、株主とベンチャー企業との間のサイドレターや覚書を締結することもある。戦略リターンの観点からこれらの3点セット以外の契約が重要になりうる点は前記のとおりである。

 本稿では、株主間契約の概要に関して、若干敷衍して説明をすることにする。

 (2)株主間契約の概要

 株主間契約は、主にベンチャー企業のガバナンスに関する事項、情報取得に関する事項、創業者の職務専念等に関する事項及び株式譲渡に関連する事項などを定める。

 ① ガバナンスに関する事項

 投資家は、ベンチャー企業の経営に積極的に関与することは想定していないことが多いが、他方で、投資の際にベンチャー企業がコミットした事業計画が達成可能か否かをモニタリングする必要がある。かかる観点から、一定の株式保有割合を有する投資家は、取締役指名権を有するのが一般的である。取締役会に対して取締役のように議決権を有さないオブザーバーの派遣などの権利が規定されることもある。また、取締役やオブザーバーの派遣は、協業や投資家の戦略的リターンとの関係でも、投資家にとって有益な情報を得ることができる場合もある。さらに、モニタリングの観点、及び、前記のような利害対立状況が生じること等を勘案して、合併や解散・清算等の一定の重要事項に関し、一定の株式保有割合を有する投資家の同意を要するとすることも一般的である。

 ② 投資家の情報取得に関する事項

 投資の際にコミットされた事業計画が達成可能か否かをモニタリングする観点から、一定の株式保有比率を有する投資家に対して、財務諸表等の一定の情報をベンチャー企業から取得できる権利を定めることも実務的に一般的である。

 ③ 創業者・経営陣の職務専念等に関する事項

 ベンチャー企業の創業者や経営陣は、当該企業の事業にとってキーマンであり、事業を発展させるために不可欠であることが多い。従って、それらの者について職務専念義務や競業禁止義務を課す条項や(特に日本においては、)一定の期間の辞任を禁止する条項などが定められることが多い。
 また、そのようなキーマンが退任した場合には、当該キーマンから株式を低価格(例えば、創業者の投資金額とすることが多い)で他の投資家等が買い取ることができる旨を定めることもあり、これによって職務の専念を裏から支えるかたちにすることも多い(株主間契約ではなく、創業者どうしの創業者間契約などの別の契約に定められることもある)。なお、キーマンの退任の時期に応じて、株式を低価格で没収する仕組み(いわゆるリバースべスティング条項)を入れることもある(例えば、4年の期間を設定し、2年以内に創業者等が退職すればその保有する50%が没収され、3年以内に創業者等が退職すれば25%が没収される仕組みなどがありうる)。

 ④ 株式の新規発行に関する事項

 投資家の株式保有比率は、前記のとおり、保有できる権利と紐づいていることが多い。そのため、将来的なラウンドにおいて自らも投資の機会を確保し投資家が自らの保有比率を維持することができるよう、新規の株式発行の際はその保有比率に応じて投資家が株式を引き受けることができる旨の新株優先引受権を定めることも多い。

 ⑤ 株式譲渡に関する事項

 前記の創業者・経営陣の職務専念等に関する事項と同じ視点で、一定の範囲で創業者等による株式譲渡を禁止することが規定されることがあり、これにより一定期間の在任を間接的に確保する効果が期待できる。また、株主が株式等を第三者に譲渡する場合に、他の株主が優先的に買い取る権利(いわゆる先買権)が定められることも多い。
 また、ベンチャー企業への投資においては、M&Aなどによるエグジット(Exit)の機会の確保が重要である。かかる観点で、過半数の株主による株式譲渡等が起こる場合、残りの株主に対して株式譲渡等を強制することができる権利(いわゆるDrag Along Right)や創業者及び/又は過半数株主の譲渡等一定の株式譲渡が起こる場合に、他の株主が自らの保有株式の全てや保有比率分を併せて譲渡等することができる権利(いわゆるTag Along Right)が規定されることも多い。

5. おわりに

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筆者

高山 陽太郎

高山 陽太郎(たかやま・ようたろう) 

 2006年、早稲田大学法学部卒業。2008年、東京大学法科大学院(J.D.) 修了。2009年、第二東京弁護士会登録。2017年、University of Southern California Gould School of Law (LL.M.) 修了。2017~2019年、シンガポール事務所勤務。2019年から東京事務所勤務。2021年1月に西村あさひ法律事務所パートナー。ベンチャー投資・ベンチャー企業支援、M&A・合弁組成案件、シンガポール等の東南アジア関連案件などを主に取り扱う。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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