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集合動産・集合債権・事業担保 担保法改正の最新動向と倒産手続き

紺田 哲司

紺田 哲司(こんだ・てつし)
 西村あさひ法律事務所弁護士。
 2004年、早稲田大学法学部 (LL.B.)卒業。2007年、早稲田大学大学院 (J.D.)修了。2008年、第二東京弁護士会登録。2017年、University of Southern California Gould School of Law (LL.M.)修了。2017年~2018年、バンコク事務所勤務。

1. はじめに

 2021年2月10日に開催された法務省の法制審議会総会において、上川法務大臣(当時)から担保法制の見直しに関する諮問がなされたことを受け、法制審議会において担保法制部会が設置された。担保法制の見直しに関しては、これまで、2018年6月に閣議決定された「経済財政運営の改革の基本方針2018」や2019年6月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」においてもその必要性が言及されてきた。この背景には、世界銀行が発表する「Doing Business」において、日本は資金調達に関する項目(Getting Credit)で特に厳しい評価がなされていることがあるとされている(Doing Business 2020では、190か国中94位、OECD加盟国34か国中23位)。

 今般の担保法制の見直しにおいては、これまで不動産担保や個人保証が中心であった資金調達手段の多様化、動産・債権担保に関する法律関係の明確化を図るとともに、新たな包括的な担保制度の創設についても検討がなされている。このような資金調達の多様化や法律関係の明確化によって、これまで担保対象とされてきた不動産等の資産を十分に有しないような中小企業やスタートアップ企業であっても資金調達が容易になり、また、あわせて登記・登録制度を整備することなどによって借り手及び金融機関の双方にとってわかりやすく、低コストの担保制度を実現することが期待されている。

 担保法制部会は、2021年4月13日に第1回会議が開催され、同年12月27日までに11回の会議が開催されている。本稿では、法務省のウェブサイトで公表されている担保法制部会の部会資料や議事録を参照の上、担保法改正の動向を概観するとともに、倒産手続における取扱いに関する検討状況について紹介することとしたい。

2. 担保法改正の動向

 担保権設定者(資金の借り手など)が所有する動産を自ら占有したまま(すなわち、引き続きその事業に利用しながら)、これを担保の目的物とする方法として、譲渡担保や所有権留保の合意がなされることが一般的である。また、複数の動産や債権(将来的に取得するものを含む。)を一体として担保の目的物とし、資金調達を図る場合には、集合動産譲渡担保や集合債権譲渡担保といった合意がなされる。

 この点、現行の民法にはこのような譲渡担保や所有権留保を直接想定した規定は存在しないため、これまで、裁判所による判例によって形成されたルールに従って実務上の運用がなされてきた。もっとも、判例はあくまで個別具体的な事案を前提とするものであることから、どのような場合にまで判例によって形成されたルールが適用されるのか明確でないところもあり、また、判例によって未だ判断されていない部分についてはそもそも法律関係が明らかではないことから、今回の担保法制の見直しにおいては、主に動産や債権(集合動産や集合債権)を目的する担保について明示的な規定を設けることが検討されている。

 まず、これまで明文上の規定がなかった譲渡担保や所有権留保を明文化するにあたって、これらの契約に関する法的な効果を規律する規定を設ける方法(担保目的取引規律型)と、新たな典型担保権として非占有型の担保権を創設する方法(担保物権創設型)が検討されている(担保法制部会資料5以降では、これらを「新たな規定に係る担保権」と呼んでいる。)。また、新たな担保制度をより簡易かつ実効的に利用するため、既存の登記制度とは別にファイリング制度を設置することも検討されている。その上で、これまでの判例や既存の担保権に関する規定も踏まえ、個別動産や集合動産・集合債権に関する「新たな規定に係る担保権」の要件、効力、対抗要件、他の担保権との優劣関係、実行方法、倒産手続における取扱いなどに関する規定を設けることについて検討されている。

 また、金融庁や中小企業庁からは新たな担保制度として、事業担保制度(これまでの担保制度のような個別財産を担保対象とするのではなく、事業のために一体として活用される財産全体を包括的に目的財産とする担保制度)を設けることについての提案がなされており、担保法制部会でも議論がなされているところである。現行法上のこれに類似する制度として財団抵当や企業担保権があるが、財団抵当においては、利用することができる事業や対象となる財産が限定されていること、企業担保権においては被担保債権が社債のみに限定され、また、その効力も個別の担保権に劣後することなどから、これらを利用することができる場面は限定されていたため、新たな事業担保制度の創設が検討されている。

 新たな事業担保制度に関しては、金融機関等から、①リスクがあっても将来性を元に必要な借入れができる、②経営者やVC等の持分希薄化を抑えて資金調達ができる、③経営者保証に依存せず資金調達ができる、④メインバンクを明確にできるといった利点が挙げられており、また、成長局面(ベンチャー企業や個別資産をもたない事業者のファイナンス、プロジェクトファイナンス)、承継局面(事業承継)、再生局面(私的整理時の第二会社方式における新会社へのファイナンス、エグジットファイナンス)といった各局面における活用が想定されている(金融庁の2021年10月25日付「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会 事務局資料」)。

 事業担保制度を設けるとして、これを利用することができる者の範囲、対象となる財産の範囲、他の担保制度との関係、実行方法、倒産手続における取扱いなど、多くの論点を今後クリアしていく必要があることから、導入までの過程は容易ではないものと思われるが、「資金調達手段の多様化」に向けたよりよい制度の構築が期待される。

3. 倒産手続における取扱い

 今回の担保法改正に伴い設けられる「新たな規定に係る担保権」(動産及び債権に係る譲渡担保権等)は倒産手続においてどのように取り扱われるのか(事業担保制度に基づく担保権の倒産手続における取扱いについても大きな論点ではあるが、ここでは議論が先行していると考えられる「新たな規定に係る担保権」の方を中心に記載する。)。

 まず、手続面に関して、譲渡担保等についても明示的に担保権実行手続中止命令(民事再生法31条)の対象に加えることが検討されている(この点は、現行法の下でも譲渡担保権に係る実行手続に類推適用されるとした裁判例がある。)。また、民事再生手続において、担保権実行手続禁止命令を新たに設けることも検討されている。これは、譲渡担保等を帰属清算や処分清算によって私的に実行する場合には、その着手から実行完了まで短期間で終了してしまい、(担保権実行手続の着手を前提とする)担保権実行中止命令ではその目的を達成できない可能性が存するためである。

 また、倒産手続開始の申立てを理由として、担保の目的財産を設定者の責任財産から逸出させることになる条項(売買契約等の解除を許容し、担保対象の動産等の返還を求めることができるとするような条項)や、担保の目的財産である動産の処分権限や債権の取立権限を喪失させる条項を無効とする旨の明文の規定を設けることが検討されている。これは、事業再生手続の趣旨や目的を害することから、所有権留保売買契約における会社更生の手続開始の申立てを契約解除事由とする特約が無効であるとした判例(最判昭和57年3月30日民集36巻3号484頁)や、リース契約における民事再生の手続開始の申立てを契約解除事由とする特約が無効であるとした判例(最判平成20年12月16日民集62巻10号2561頁)を踏まえ、再生債務者や(会社更生手続における)管財人が担保対象物の事業再建に向けた必要性に応じた対応をとる機会を失わせることとなるような特約を無効とするものである。

 次に、実体面に関して、(非典型担保としての)集合債権譲渡担保及び集合動産譲渡担保は、これまでも民事再生法上の別除権(民事再生法53条1項)や会社更生法上の更生担保権(会社更生法2条10項)として取り扱われており、この点については、担保法改正後も同様の取扱いになるものと考えられる。他方で、民事再生手続等が開始した後に生じた債権や取得した動産についても集合債権譲渡担保や集合動産譲渡担保の効力が及ぶのかについては、現状でも考え方が分かれている状況にあることから、これが今回の担保法改正に伴い、明文で規定され、取扱いが確定することになると、相当程度影響があるものと考えられる。

 この点、担保法制部会資料においては、集合債権譲渡担保に関して、次のような案が提示されている。

  1. 倒産手続が開始された後に発生した債権にも無制限に担保権の効力が及ぶ。
  2. 倒産手続が開始された後に発生した債権には担保権の効力が及ぶが、優先権を行使することができるのは、倒産手続開始時に発生していた債権の評価額を限度とする。
  3. 倒産手続が開始された後に発生した債権であっても、担保権者が担保権を実行するまでに発生したものには、担保権の効力が及ぶ。
  4. 倒産手続が開始された後に発生した債権には、担保権の効力は及ばない。

 上記1.は、債権譲渡の効果発生を留保する特段の付款なき限り、譲渡担保の目的とされた将来債権は譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡されるとの判例(最判平成19年2月15日民集61巻1号243頁)と整合的と考えられるが、倒産手続開始後に発生した債権のために再生債務者や更生会社が費やした費用(例えば、製品の仕入代金)について再生債務者・更生会社と担保権者のいずれに負担させるべきか。また、プロジェクトファイナンスなどにおいて、将来にわたって発生が見込まれる債権を引当てに貸付けを行っているような場合、上記1.以外の案が採用されると、貸付けの前提が崩れてしまうとの指摘もなされている。この点、現在の実務では、担保対象となる債権の発生原因や性質、取立権限の有無等に応じて、(会社更生手続では)更生手続開始時の時価評価や(民事再生手続では)別除権協定の交渉において、柔軟な対応が図られているものと考えられるが、担保法改正によってかかる実務へ相当程度の影響が及ぶ可能性が存する。

 また、担保法制部会資料においては、集合動産譲渡担保に関しても、次のような案が提示されている。

  1. 倒産手続開始後の新規加入物にも担保権は及ぶ一方で、設定者も処分権限を失わないものとするが、担保権者が把握することができる価値は倒産手続開始時の評価額を限度とする。
  2. 倒産手続の開始によって、その後の新規加入物には担保権が及ばなくなるとともに、設定者は個別動産の処分権限を失う。
  3. 倒産手続開始後の新規加入物にも担保権が及ぶ一方で設定者も処分権限を失わないこととするが、再生債務者による「固定化」の意思表示(又は担保権者による担保実行)があったときは、それ以降に生じた新規加入物には担保権は及ばず、設定者は個別動産の処分権限を失うものとする。

 集合債権譲渡担保で対象に含まれる個々の債権が譲渡されたと解するのと異なり、集合動産譲渡担保では、動産の「集合物」が譲渡されたものと理解されている。そこで、従来、倒産手続の開始決定により「固定化」が生じるとする見解(すなわち、集合物としてではなく開始時点に存在する個別動産のみが担保対象となるとする見解)があったが、近時、倒産手続開始後に設定者が取得する動産にも集合動産譲渡担保の効力が及ぶ一方で、設定者は動産の処分権限を失わないとする見解も有力に主張されている。前者の見解は上記2.、後者の見解は上記1.の案と親和的と考えられる。この点、現在の実務では、担保権者との間で、民事再生手続開始後速やかに開始時の担保目的物(在庫商品等)の評価額を確認し、これを担保権者に支払うことを合意することで、民事再生手続開始時の動産及び開始後に取得した動産については再生債務者が処分する(事業に使用する)ことができるというような内容の別除権協定を締結することなどによって事業継続に支障が生じないようにすることが図られている(他方で、更生手続においては担保権の実行が禁止されるため、更生会社が担保目的物である動産を処分することは可能であるが、更生担保権の評価において更生手続開始後に取得する動産を考慮するか否かが問題とされている。)。

 さらに、上記の倒産手続開始後に生じた債権又は取得した動産に対する担保権の効力とも関連するが、これらの債権又は動産の維持・管理のための費用やこれらの財産を発生させるための費用(担保対象が売買代金債権であれば売買の目的物の仕入費用、担保対象が動産であれば当該動産の取得や生産に係る費用)を設定者と担保権者のいずれが負担すべきか、設定者が支払不能となった後や倒産手続開始を申し立てた後に、債権や動産が集合物に加入し、担保対象物が増加した場合に、どのような要件で否認の対象となるか、担保権消滅許可の適用の有無などについて検討がなされている。

4. おわりに

 今回の担保法改正は、民法の分野

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