メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

米国輸出管理規則の域外適用の有無についての検討方法

淀川 詔子

米国輸出管理規則の域外適用の有無についての検討方法

  

西村あさひ法律事務所
弁護士 淀川 詔子

拡大淀川 詔子(よどがわ・のりこ)
 2002年、東京大学法学部卒。2003年、第一東京弁護士会登録。同年10月、西村あさひ法律事務所入所。2007年、外務省経済局経済連携課課長補佐。2010年、ニューヨーク大学(LL.M.)を卒業し、世界貿易機関に勤務。2011年、ニューヨーク州弁護士登録。同年からエネルギー憲章事務局で勤務。2013年、同局法務顧問。2014~2017年、新日鐵住金株式会社(当時)国際法務室勤務。2022年より西村あさひ法律事務所パートナー。

第1 はじめに

 日本企業のサプライチェーンのグローバル化が進展する中、各企業において注視しなければならない法令の範囲が拡大する傾向が続いている。安全保障貿易管理もその1つである。
 安全保障貿易管理とは、武器や軍事物資・技術だけでなく、民生用途の物品・技術のうち軍事転用が可能なものについても、テロリスト等の、安全保障の観点から問題のある活動を行う者の手に渡ることを防止するために、輸出管理を行う制度である。

 グローバル・サプライチェーンにおいては、この安全保障貿易管理に関し、日本の規制だけでなく海外の規制の遵守も必要となる。多くの場合、輸出国となる国の規制を遵守することが求められるので、各輸出国の規制を注視する必要がある。
 これに対し、米国の規制は特殊であり、米国からの輸出以外の取引も規制対象となる場合がある。このように米国の輸出規制に域外適用が存在することはある程度広く知られているが、具体的にどのような要件を満たす取引が域外適用の対象となるのかについて、その詳細は意外に知られていない。この、そもそも米国輸出規制の適用対象となるのか、という入り口の検討を適切に行うことにより、日本企業においても、米国輸出規制の遵守に留意しなければならない取引とそうでない取引とを分類することが可能になる。
 本稿が、この米国輸出規制の適用対象を決する入り口の検討の一助となれば幸いである。なお、以下に詳述するとおり、この検討は複雑な考慮要素を含むものであり、本稿はその概要を紹介するに留まる。実際に米国輸出規制の適用の有無を判断するにあたっては、米国輸出規則(Export Administration Regulations (以下「EAR」))の条文や米国商務省産業安全保障局(Department of Commerce, Bureau of Industry and Security (以下「BIS」))の見解を慎重に確認すること、及び必要に応じ米国弁護士の助言を得ることが必要である点に留意されたい。また、本稿に含まれる情報は、2022年2月4日現在のものである。

第2  EARの域外適用

 ある取引(注1)がEARの適用対象となるのは、以下の両方が満たされる場合である。

 ① 対象品目が“subject to the EAR”である(以下「EAR適用対象品目」)
 ② 取引における対象品目の取扱いの態様が“subject to the EAR”である行為に該当する(以下「規制対象行為」)

 なお、上記を満たして取引がEARの適用対象になったとしても、それにより直ちに、当該取引の実施についてBISの許可を得る必要が生じるわけではない(§734.2(a)(3)、§734.9頭書) (注2)。EARの適用対象の取引についてBISの許可を得る必要があるか否かを判断するためには、上記①及び②に加えて

 ③ 対象品目の機微性の程度(商務省規制品目リスト(Commerce Control List (Supplement No.1 to Part 774))において輸出規制分類番号(Export Control Classification Number (ECCN))を割り振られているか否か)
 ④ 仕向国
 ⑤ 荷受人・エンドユーザー
 ⑥ 用途
 ⑦ 許可例外の適用の有無

を含むがこれらに限られない、様々な事項について検討が必要となる。
 上述のとおり、本稿は上記①及び②(特に①)に焦点を当てる。

第3  EAR適用対象品目

1  概要

 上記①の“subject to the EAR”とは、より判りやすく言えば、対象品目に対してBISがEAR上の規制を及ぼす権限を有するか否かという問題であり(§734.2(a)(1))、具体的には、以下の品目がEAR適用対象品目であると規定されている(§734.3(a))。
 なお、品目(item)には物品、技術及びソフトウェアが全て含まれる(§772.1)。

 類型1  米国内にある全ての品目
 類型2  米国産の全ての品目(所在地を問わない。)
 類型3  所定の価値割合を超えて、米国の輸出管理の対象である品目を組み込んだ外国産品目
 類型4  米国産の、又は他の理由によりEAR適用対象品目である、所定の技術又はソフトウェアから産出された外国産の直接産品
 類型5  米国産の、又は他の理由によりEAR適用対象品目である、所定の技術又はソフトウェアの直接産品である、米国の外に所在する工場(plant)又は工場の主要部分により産出された直接産品

 各類型の内容を見ると、EARは闇雲に域外適用を企図しているわけではなく、米国との一定の関連性を有する品目のみに規制を及ぼすことが想定されていると考えられる。

 このうち、類型1の、米国内にある全ての品目に対するEARの適用は、域外適用ではなく、通常の、米国法令の米国内での適用である。類型2以降が、域外適用が生じ得る対象品目であるが、類型2は理解しやすい。日本企業にとって検討が煩雑になるのは、類型3以降である。以下、類型3以降について詳述する。

 なお、新聞、子供向け絵本、地図等の、機微性が低い所定の品目、及び公表された(published)情報・ソフトウェア等は、類型1から5への該当性を検討するまでもなく、EAR適用対象品目から除外されている。除外品目の詳細なリストは§734.3(b)に規定されている。

2  類型3: デミニミス・ルール

 米国の輸出管理の対象である品目を組み込んだ外国産品目がEAR適用対象品目であるか否かを決定する、組込みの価値割合の基準値及びその計算方法に関するルールは、デミニミス・ルールと呼ばれる。デミニミス(de minimis)とは、規模又は重要性が、考慮に値しないほど小さいという意味である。したがって、大まかに言えば、デミニミス・ルールとは、外国産品目に組み込まれた米国の輸出管理の対象である米国産品目の価値割合(組込み比率)が考慮に値しないほど少ないと見なせるレベルである場合には、当該外国産品目はEAR適用対象品目にならないというルールである。

 デミニミス・ルールに基づきEAR適用対象品目となり得るのは、以下の品目である(§734.3(a)(3))。

  • 米国の輸出管理の対象である米国産物品を組み込んだ(incorporate)外国産物品
  • 米国の輸出管理の対象である米国産ソフトウェアと組み合わされた(bundled)外国産物品
  • 米国の輸出管理の対象である米国産ソフトウェアと混合した(commingled)外国産ソフトウェア
  • 米国の輸出管理の対象である米国産技術と混合した(commingled)外国産技術

 デミニミス・ルールの詳細は以下のとおりである。

 A. 米国の輸出管理の対象である米国産品目の組込み比率

 デミニミス・ルールは、原則として、米国の輸出管理の対象である米国産品目を組み込んだ外国産品目の一切をEAR適用対象品目とするものではなく、所定の価値割合を超えて米国の輸出管理の対象である米国産品目が組み込まれた外国産品目のみをEAR適用対象品目とする。
 この価値割合、すなわち組込み比率は以下の形で算出する。

 組込み比率 = 米国の輸出管理の対象である米国産品目の価値/上記米国産品目を組み込んだ外国産品目の価値

 デミニミス・ルールに基づき外国産品目がEAR適用対象品目となるのは、取引の対象品目について、上記に従い算出した、米国の輸出管理の対象である米国産品目の価値割合(組込み比率)が以下の基準値を超える場合である(§734.4(c), (d)) (注3)

 【原則】
 仕向地がキューバ、イラン、北朝鮮又はシリアである場合:10%
 仕向地が上記以外である場合:25%
 【例外】
 取引の対象品目が一定の機微品目である場合には、上記の基準値はゼロになる。すなわち、わずかでも米国の輸出管理の対象である米国産品目が組み込まれていれば、当該外国産品目はEAR適用対象品目となる。この一定の機微品目の詳細は§734.4(a), (b)に規定されている。

 B. 米国の輸出管理の対象である米国産品目の特定

 上記の組込み比率算出の数式において分子に相当する「米国の輸出管理の対象である」米国産品目とは、「もし、米国からそのまま輸出されるとすれば、BISからの輸出許可の取得が必要になる」米国産品目を指す(Supplement No.2 to Part 734, paragraph (a)(1))。
 すなわち、上記第1に記載の③から⑦等の検討(注4)により、検討対象取引の仕向地に対する輸出にはBISの許可を得る必要があるという結論に至った米国産品目について、その価値を上記の組込み比率算出の数式において分子に含める必要がある。

 なお、上記の組込み比率算出の数式において、外国産品目に組み込まれている米国産品目が分子に含めるべきものか否かを検討する際は、上記第1に記載の③から⑦等の検討を行う方法について、最終的に当該外国産品目の取引にBISの許可を要するか否かを検証する際とは異なる点がある。
 具体的には、上記の組込み比率算出の数式の分子において、米国産品目が「米国の輸出管理の対象である」か否かを検討する際は、エンティティ・リスト(Entity List (Supplement No.4 to Part 744)(米国の安全保障又は外交政策上の利益に反する活動に従事している等の事情が認められる者をBISが掲載するリスト))に掲載されている者への輸出禁止等の、エンドユーザーに由来する許可取得要件は考慮しない(注5)。これは、こうしたエンドユーザーに由来する許可取得要件を考慮すると、例えばエンティティ・リスト掲載者に輸出する際には、多くの場合、全ての米国産品目についてBISの輸出許可が必要となることから、品目の機微性の程度にかかわらず全ての米国産品目が上記数式の分子の「米国の輸出管理の対象である」米国産品目に該当することとなってしまうため、これを避ける趣旨であると考えられる。

3  類型4及び5: 外国産の直接産品

 類型4及び5はいずれも、外国産品目が米国産品目を組み込んでいるか否かを問わず、米国産の、又は他の理由によりEAR適用対象品目である、所定の技術又はソフトウェアからの直接産出が介在することによってEAR適用対象品目となる類型であり、総称して外国産の直接産品(foreign-direct product)と呼ばれる。この外国産の直接産品に関するEARの規定は、2022年2月3日付で改正されたが、この改正は、これら2つの類型の内容を変更するというよりは、明確化のために条文を再構成することに主眼があったようである。

 A. 類型4: 所定の技術又はソフトウェアの直接産品

 一般的な外国産品目が類型4に該当してEAR適用対象品目となる具体的要件は、以下のとおりである(§734.9(b))。ただし、人工衛星等の関連品目、及び元々は国務省所管であったが、機微性が比較的低いとして商務省規制品目リストに移管された一部の武器品目については、下記とは異なる特則が設けられている(§734.9(c), (d))。

 (1) 当該外国産品目が、米国産の技術又はソフトウェアの直接産品であること(§734.3(a)(4), §734.9(b)(1)(i)(A))
 (2) かかる直接産出の基となった技術又はソフトウェアが、
 (a) 輸出等の許可申請の際、BISの要請があれば、申請者が対象技術又はソフトウェアの最終受領者から、当該最終受領者が、BISからの事前承認がない限り、当該技術又はソフトウェアをどこにも再輸出せず、かつ対象技術又はソフトウェアの直接産品をカントリーグループD1、E1又はE2の国に対して直接又は間接的に輸出しないことを確約する書面を取得し、その写しを提出することが求められているもの、又は
 (b) 一定の技術及びソフトウェアについて、仕向地がカントリーグループBの国である場合に輸出等の許可を不要とする許可例外(EAR§740.6)の適用の前提条件として、上記(a)の場合と類似の確約書面が必要となるもの
であること(§734.9(b)(1)(i)(A))
 (3) 当該外国産品目について、商務省規制品目リストにおいて輸出規制分類番号が割り振られており、その規制理由が国家安全保障(NS (national security))とされていること(§734.9(b)(1)(i)(B))
 (4) 当該外国産品目の輸出等の仕向地がカントリーグループD1、E1又はE2の国であること(§734.9(b)(2))

 上記(1)に関し、直接産品の定義は、技術又はソフトウェアの使用から直接(directly)作られた、直接の産品(immediate product)を指し、工程(processes)及びサービスを含む、となっている(§772.1)。
 なお、条文上、direct “product”という表現が使われていることから、類型4は物品のみを包含するような印象を受けるが、実際には上記のとおり、直接産品(direct product)の定義は物品に限定されない文言となっている。また、筆者は、類型4が技術を含み得るとの米国弁護士の見解に接したことがある。

 なお、上記(2)は、複雑な要件に見えるが、実際には、直接産出の基となった技術又はソフトウェアが、商務省規制品目リスト上、国家安全保障を理由として規制されていない場合、上記(a)及び(b)はいずれも満たされないという構造になっている(Supplement No. 2 to Part 748, paragraph (o)(3)(i)、§740.6(a))。

 上記(3)に関し、商務省規制品目リストは、前述のとおり、Supplement No.1 to Part 774に掲載されている。

 最後に、上記(4)に関し、カントリーグループはSupplement No.1 to Part 740に掲載されている。カントリーグループE1及びE2の国は、キューバ、イラン、北朝鮮及びシリアである。カントリーグループD1の国のうち、日本との貿易が盛んな国としては、中国及びベトナムが挙げられる。

 ただし、エンティティ・リスト(上記第3-2-B参照。)において脚注1を付されている者が関与する取引(具体的な関与形態については§734.9(e)(2)を参照されたい。)においては、以下の外国産品目が類型4に該当するので、より広い範囲の外国産品目が捕捉される。

 (1’) 当該外国産品目が、EAR適用対象品目である技術又はソフトウェアの直接産品であること(§734.3(a)(4), §734.9(e)(1)(i))
 (2’) かかる直接産出の基となった技術又はソフトウェアが、商務省規制品目リスト上で、輸出規制分類番号3D001, 3D991, 3E001, 3E002, 3E003, 3E991, 4D001, 4D993, 4D994, 4E001, 4E992, 4E993, 5D001, 5D991, 5E001又は5E991を割り振られているものであること(§734.9(e)(1)(i))

 すなわち、以下の点で、技術又はソフトウェアの直接産品である外国産品目がEARに捕捉される要件が緩和されている。
 まず、直接産出の基となった技術又はソフトウェアの範囲が、上記(1’)において、米国産のものに限定されていない。上記(2’)においても、上記(2)のように商務省規制品目リスト上、国家安全保障を理由として規制されている技術又はソフトウェアに限定されず、間口が広げられている。
 さらに、この場合、当該外国産品目がEAR適用対象品目となる要件に上記(3)が含まれない。すなわち、エンティティ・リストにおいて脚注1を付されている者が関与する取引の場合には、外国産品目が上記(1’)の直接産品に該当し、かつ直接産出の基となった技術又はソフトウェアが上記(2’)のいずれかの輸出規制分類番号に属する限り、当該外国産直接産品は、その機微性の程度を問わずEAR適用対象品目となる(注6)

 B. 類型5: 所定の技術又はソフトウェアの直接産品である工場又は工場の主要部分の直接産品

 一般的な外国産品目が類型5に該当してEAR適用対象品目となる具体的要件は以下のとおりである(§734.9(b))。ただし、類型4と同じく、人工衛星等の関連品目、及び元々は国務省所管であったが、機微性が比較的低いとして商務省規制品目リストに移管された一部の武器品目については、下記とは異なる特則が設けられている(§734.9(c), (d))。

 (1) 当該外国産品目が、工場又は工場の主要部分の直接産品であること(§734.3(a)(5)、§734.9(b)(1)(ii)(A))
 (2) かかる工場又は工場の主要部分が米国産の技術の直接産品であり、その直接産出の基となった技術が、
 (a) 輸出等の許可を申請する際の提出書類として、又は
 (b) 一定の技術及びソフトウェアについて、仕向地がカントリーグループBの国である場合に輸出等の許可を不要とする許可例外(EAR§740.6)の適用の前提条件として、
最終受領者の確約書面(所定の再輸出等をBISの許可なく行わないことを誓約するもの。上記類型4の要件(2)参照。)を必要とする技術であること(§734.9(b)(1)(ii)(A))
 (3) 当該外国産品目について、商務省規制品目リストにおいて輸出規制分類番号が割り振られており、その規制理由が国家安全保障とされていること(§734.9(b)(1)(ii)(B))
 (4) 当該外国産品目の輸出等の仕向地がカントリーグループD1、E1又はE2の国であること(§734.9(b)(2))

 上記(1)に関し、EARは「工場(plant)」を定義していないが、その主要部分(major component)は、品目の製造において主要な(essential)設備を指し、試験(testing)設備を含むと定義されている(§734.9(a))。なお、製造(production)及び設備(equipment)は別途、§772.1で定義されており、設備の定義は別段、特殊ではないが、製造の定義は、あらゆる製造段階を指し、プロダクトエンジニアリング、生産、組込み(integration)、組立て(assembly (mounting))、検査、試験、及び品質保証を含む、となっている。これらの定義を踏まえると、実務上は、製品の製造に用いられる設備はいずれも「工場の主要部分」であるという前提で検討するという慎重な姿勢をとらざるを得ない。
 なお、類型5は、条文上、direct “product”という表現が使われていることだけでなく、工場等での産出という概念に依拠することからも、物品のみを含むようにも思われるが、筆者は、類型5が技術を含み得るとの米国弁護士の見解に接したことがある。

 上記(2)から(4)の要件についての考慮要素は類型4の場合と同様である。

 ただし、同じく類型4と同様に、エンティティ・リストにおいて脚注1を付されている者が関与する取引(具体的な関与形態については§734.9(e)(2)を参照されたい。)においては、以下の外国産品目が類型5に該当するので、より広い範囲の外国産品目が捕捉される。

 (1’) 当該外国産品目が、工場又は工場の主要部分の直接産品であること(§734.3(a)(5), §734.9(e)(1)(ii))
 (2’) かかる工場又は工場の主要部分がEAR適用対象品目である技術又はソフトウェアの直接産品であり、その直接産出の基となった技術又はソフトウェアが、商務省規制品目リスト上で、輸出規制分類番号3D001, 3D991, 3E001, 3E002, 3E003, 3E991, 4D001, 4D993, 4D994, 4E001, 4E992, 4E993, 5D001, 5D991, 5E001又は5E991を割り振られているものであること(§734.9(e)(1)(ii))

 すなわち、以下の点で、技術又はソフトウェアの直接産品である工場又は工場の主要部分から直接産出された外国産品目がEARに捕捉される要件が緩和されている。
 まず、直接産出の基となった技術又はソフトウェアの範囲が拡大されている。この拡大の態様のうち、米国産の技術又はソフトウェアに限定されない点、及び商務省規制品目リスト上、国家安全保障を理由として規制されている技術又はソフトウェアに限定されない点は、類型4と同様である。これらに加え、類型5では、通常の取引においては技術からの直接産出のみが捕捉されるのに対し、エンティティ・リストにおいて脚注1を付されている者が関与する取引においては、技術に加えソフトウェアからの直接産出も捕捉されるという点が特徴的である。
 さらに、この場合、外国産品目が類型5に該当してEAR適用対象品目となる要件に上記(3)が含まれないが、この点も類型4と同様である。

 C. 類型4と類型5の違い

 類型4と類型5は、何が所定の技術又はソフトウェアから直接産出されることが要件になっているのかという点において異なる。類型4は当該外国産品目自体が所定の技術又はソフトウェアから直接産出される場合を捕捉するのに対し、類型5は、当該外国産品目自体ではなく、当該外国産品目を産出した工場又は工場の主要部分が、所定の技術(又はソフトウェア)から直接産出されたものである場合を捕捉する。この相違を模式的に示すと以下のとおりである。

拡大

第4  規制対象行為

 EARの規制対象行為は輸出・みなし輸出、再輸出・みなし再輸出、及び国内移転であり、それらの定義は以下のとおりである。
 EAR適用対象品目について以下の行為を行う取引はEARの適用を受けるので、その場合は、上記第1に記載の③から⑦等の事情を検討し、当該取引についてBISの許可を得る必要があるか否かを検討しなければならない。

EAR上の定義
輸出 米国の領域内から領域外への出荷(shipment or transmission)、その他(米国内において人工衛星を外国人に譲渡すること等が所定の条件下で「輸出」に該当する。)(§734.13)
みなし輸出 米国内において、技術又はソースコードを外国人に開示又は移転すること(§734.13(a)(2))
再輸出 米国以外の国から、他の米国以外の国への出荷(shipment or transmission)、その他(米国以外の国において人工衛星を当該国以外の外国人に譲渡すること等が所定の条件下で「再輸出」に該当する。)(§734.14)
みなし再輸出 米国以外の国において、技術又はソースコードを、当該国以外の外国人に開示又は移転すること(§734.14(a)(2))
国内移転 米国以外の国において、対象品目の最終用途又はエンドユーザーを変更すること(§734.16)


 ただし、EAR適用対象品目と同様、規制対象行為についても、EARの適用を受けない様々な行為類型を定める除外規定が設けられている(§734.18、§734.20)。

 その一例として、(a)機密でなく(unclassified)、(b)安全なE2EE (end-to-end encryption)通信を使用しており、(c)FIPS 140-2といった、NIST (U.S. National Institute for Standards and Technology)が定めるセキュリティ要件に準拠した暗号モジュールを使用していて、かつ、(d)武器禁輸国及びロシアに意図的に蔵置されたものではない技術又はソフトウェアの送付、取得又は蔵置は、この除外に該当する(§734.18(a)(5))。この除外類型は、規定を提案した際のBISの説明から、ソフトウェアを、利用者にダウンロードさせることなくクラウド上で提供する行為等を想定したものであることが窺われる。

第5  日本企業への示唆

 EARが、米国内から米国外への物品の出荷、又は技術若しくはソフトウェアの開示若しくは移転という典型的な輸出だけでなく、米国外で完結する再輸出及び国内移転も捕捉する(すなわち、域外適用される)ものであることは昨今、ある程度広く知られるようになってきた。
 しかし、上記のとおり、域外適用はいかなる取引に対しても行われるわけではないことから、日本企業において、自社又は自社のグループ会社の取引がEARの適用対象となる可能性の有無を正確に検討することにより、適切なリスク管理が可能となる。

 上記のとおり、類型3から5は、米国の輸出規制の対象である米国産品目を組み込んでいること、又は米国産の、若しくは他の理由によりEAR適用対象品目である、所定の機微な技術若しくはソフトウェアからの直接産出が介在することにより、EAR適用対象品目となるものである。しかし、エンティティ・リストにおいて脚注1を付されている者が検討対象取引に関与していない場合には、いずれの類型についても、まずは、(1)単に米国産品目(米国の輸出規制の対象であるか否かを問わない。)を組み込んでいるか否か、また、(2)米国産の技術若しくはソフトウェア(商務省規制品目リストにおいて、輸出規制分類番号を割り振られ、国家安全保障を理由として規制されているか否かを問わない。)から、又は米国産の技術の直接産品である工場若しくはその主要部分から直接産出されたものか否かを検討するのが現実的である。そうした組込みや直接産出の可能性が全く無いのであれば、EARの域外適用はリスクとならず、一方、これらに該当するのであれば、組み込まれた米国産品目について、米国の輸出規制の対象であるか否かや上記第3-2-Aに記載した組込み比率を検討したり、直接産出の基となった米国産の技術又はソフトウェアについて商務省規制品目リスト上の規制理由を検討したりする段階に進む必要があるということになる。

 自社が物品の製造を行っている場合には、類型3への該当性の検討に必要な、原料が米国産か否かという情報は把握しやすいことが多いと思われる。しかし、類型4及び5への該当性の検討には、製造に用いている技術又はソフトウェアが米国産か否かや、製造設備が米国産の技術又はソフトウェアの直接産品か否かまで把握する必要が生じ得るところ(注7)、そのためには、ソフトウェアのプロバイダや製造設備のメーカーに問い合わせる必要が生じ得る。問い合わせの際に背景を説明しないとスムーズに回答を得られない可能性もあり、問い合わせる日本企業の側で、EAR適用対象品目の各類型の要件について正しく把握していることが望ましい。

 これに対し、他社からの購入品を転売している場合には、仕入れ先に対して購入品に関する情報を要請することになるが、この場合も、EAR適用対象品目の各類型に関する正しい知識が必要である。例えば、仕入れ先が米国以外の国から当該製品を購入したという事実は、それだけでは当該製品がEAR適用対象品目でないことの裏付けにはならない。米国以外の国からの仕入れ品であることは、類型1に該当しないことしか意味せず、類型2から5、特に類型3から5に該当する可能性は排除されないからであるが、このことは、上述したようなEAR適用対象品目の各類型に関する知識を持っていなければ認識できない点である。

 取引の対象品目及び行為がEARの適用対象か否かを適切に判断できれば、自社の取引の中で、そもそもEARが適用され得ない行為を特定し、上記第1に記載した③から⑦等の検討を行う範囲を限定することができる。本稿が、そうした適切かつ合理的にEAR遵守のための検討を行うことの一助となれば幸いである。

 ▽注1:便宜上「取引」という表現を用いるが、実際には、無償の輸出等も要件を満たせばEARの適用対象となる。
 ▽注2:本稿にお

・・・ログインして読む
(残り:約1275文字/本文:約13326文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

淀川 詔子

淀川 詔子(よどがわ・のりこ) 

 2002年、東京大学法学部卒。2003年、第一東京弁護士会登録。同年10月、西村あさひ法律事務所入所。2007年、外務省経済局経済連携課課長補佐。2010年、ニューヨーク大学(LL.M.)を卒業し、世界貿易機関に勤務。2011年、ニューヨーク州弁護士登録。同年、エネルギー憲章事務局法務事務官、2012年、同局法務顧問代理、2013年、同局法務顧問。2014年から2017年まで新日鐵住金株式会社(当時)法務部国際法務室勤務。2022年より西村あさひ法律事務所パートナー。
 WTO協定・EPA関連案件に加え、輸出管理・関税手続、貿易救済措置対応等、幅広い通商分野の案件に従事。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

淀川 詔子の記事

もっと見る