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社会の持続可能性を融資で後押しする「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」

鶴岡 勇誠

サステナビリティ・リンク・ローンについて
~融資でサステナビリティの達成を奨励

拡大鶴岡 勇誠(つるおか・たけのぶ)
 2003年、東京大学法学部第一類卒業。2006年、第一東京弁護士会登録(59期)。2018~2019年、株式会社三菱UFJ銀行シンガポール支店出向。現在、西村あさひ法律事務所パートナー。
 近年、世界は持続可能な社会の構築に向けて、大きく舵を切っており、その傾向は2015年に持続可能な開発目標(SDGs)及びパリ協定が採択されて以降、特に強くなっている。その潮流はローンマーケットにも及んでおり、サステナビリティに係る目標の達成をローンに係る経済条件の変動を通じて奨励する、サステナビリティ・リンク・ローン(Sustainability Linked Loan、以下「SLL」という)の取組みが国内外で活発化している。そこで、本稿では、SLLの概要及びその組成に係る法的検討点について説明することとしたい。

1. SSLの概要

(1) SLLとは

 SLLは、「借り手が野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を達成することを奨励するローン」である(下記2.で言及する環境省GL第3章第1節1.)。例えば、借入人のESGスコアや温室効果ガスの排出削減量に応じて金利のスプレッドが変動するローンが、SLLの典型的なものになる。

 環境省のグリーンファイナンスポータルサイトによれば、本邦におけるSLLの組成額は2020年が9件/695億円、2021年が54件/3523億円とされ、急速に普及しつつあることが窺われる。

(2) 中核的な要素

 SLLは、以下の5点が中核的な要素とされる。

  1. KPIs(key performance indicators)の選定
  2. SPTs(sustainability performance targets)の測定
  3. ローンの性質(SPTsの達成度合に応じてローンの経済条件が変動すること)
  4. レポーティング
  5. 検証(verification)

 すなわち、SLLにおいては、借入人のサステナビリティに関する取組みを動機付けるべく、サステナビリティに関して借入人が達成すべきKPIsが選定され、かつ、かかるKPIsに関して達成すべき目標値として、SPTsが設定される。そして、ローン期間中、かかるSPTsの達成度合は測定・検証され、貸付人に報告される。

(3) グリーンローンとの違い

 SLLに類するものとしてグリーンローンがあるが、両者は異なるものである。すなわち、グリーンローンは、「企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達する際に用いられる融資」であり(環境省GL第2章第1節1.)、借入金がグリーンプロジェクトに充当されることが大きな特徴になる。他方、SLLでは、そのような資金使途の限定はない。そのため、幅広い種類・用途のローンと組み合わせることが可能であり、実際にも、一般事業資金を使途とするコーポレートローンでの利用が多いように思われ、また、企業の買収資金を調達するLBOローンと組み合わせることも可能である。

2. SLLに関するルール

 SLLは、ローンの借入人及び貸付人の任意の合意により設定される仕組みであるが、サステナビリティ・ウォッシュ(実際にはサステナビリティの改善効果がないにもかかわらず、あるように誤解させること)を防止し、SLLの誠実性・高潔性を確保する観点から、各種のガイドラインが公表されている。主なものは、以下のとおりである。                     

名称公表時期公表主体概要
グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2020年版
(以下「環境省GL」という)
2020年3月 環境省 SLLに関するガイドライン
Sustainability Linked Loan Principles
(以下「SLLP」という)
2021年5月 英国に本拠を置くローンマーケットの業界団体であるLMA(Loan Market Association)、米国に本拠を置くLSTA(Loan Syndications & Trading Association)、香港に拠点を置くAPLMA(Asia Pacific Loan Market Association)の連名 SLLに関する諸原則をまとめたもの。なお、SLLPは、実務の進捗の反映や、ICMA(International Capital Market Association)によるSustainability-Linked Bond Principlesとの平仄を図る観点から更新されており、当初は、2019年3月に公表されている。
Guidance on Sustainability Linked Loan Principles
(以下「SLLP ガイダンス」という)
2021年5月 LMA、LSTA及びAPLMAの連名 SLLPに関するガイダンス
Best Practice Guide to Sustainability Linked Leveraged Loans
(以下「SLLL ガイド」という)
2021年7月 ELFA(European Leveraged Finance Association)及びLMAの連名 SLLPをレバレジッド・ローンに適用する場合の留意点について述べたもの
Best Practice Guide for Term Sheet Completeness 2021年12月 ELFA及びLMAの連名 その22項で、シンジケートローンにSLLを組み込む場合に検討すべき事項が列挙されている。
Guidance for Green, Social, and Sustainability-Linked Loans External Reviews 2022年3月 LMA、LSTA及びAPLMAの連名 SLL等に関する外部レビューに係るガイダンス


 上記ガイドラインは、海外のものは自主的なガイドラインであり、環境省GLも法令ではなく、いずれも法的拘束力を有しないものの、SLLPは、ローンマーケットにおいて広く認知されているものである。また、環境省GLは、そのような「SLLPとの整合性に配慮しつつ」、SLL等に関する「具体的対応の例や我が国の特性に即した解釈を示す」ものとされる(環境省GL第1章1.)。そのため、実務上は、SLLに取り組むに際しては、SLLPや環境省GLを踏まえることになる。

3. SLL組成に関する法的検討点

(1) KPIs及びSPTsの設定

 SLLにおいては、借入人の中核となるサステナビリティ及び事業戦略にとって重要であり、借入人が属するセクターに関係するESGに係る課題解決に貢献する指標をKPIsとして選定し、また、KPIに関して達成すべき目標値として、野心的なSPTsを設定することが求められる。KPIは、温室効果ガスの排出削減、再生可能エネルギーの使用割合の増加などのESGの環境(Environment)に関するものも多いが、例えば、取締役会に占める女性及び人種的マイノリティーの割合等の、社会(Social)及びガバナンス(Governance)に関するものも見られる。また、KPIsは一つとは限らず、複数のKPIsを設定している例も多く見られる。

 KPIs及びSPTsは、ローンの金利などの主要な経済条件に関する定めであり、契約締結前には選定し、ローン契約締結時よりその内容を規定することが通常である。もっとも、SLLLガイドは、一定の柔軟性が求められる局面があるとする。例えば、会社の買収案件(M&A)において複数の買い手候補が競っているような状況下において、その買収資金に関する融資条件の交渉がなされることがある。そのような融資(いわゆるLBOローン)においてSLLを取り込もうとする場合、買収対象となる企業(対象会社)より、そのサステナビリティに関する戦略や現状について詳細な情報を得た上で、KPIsやSPTsを設定する必要があるが、現実問題として、買い手が確定するまでは、具体的なKPIsなどの選定のための情報を収集・提供し協議することに多くの労力を費やすことを対象会社に期待することが難しい場合もある。また、企業買収のプロセスは非常に限られた時間軸の中で迅速に進められることも多く、KPIsやSPTsの設定を行うことは、必ずしも容易ではない。そのため、例えば、買収当初のローン契約上は、サステナビリティに関する条項は組み込まないものの、ローン契約締結後においても組み込みを容易にするための仕組みを予め規定することや、あるいは、後のリファイナンス(借換え)に際して、サステナビリティに関する条項を追加することも考えられる。前者について若干敷衍すると、ローン契約上、金利の変更については、全貸付人の合意が必要とされることが一般的であるが、一定の要件を満たすSLLに関する条項については、例えば、借入人がエージェントと協議の上で提案したKPIs及びSPTs並びにそれに伴う関連条項の変更につき、多数貸付人の異議がない限り有効になるとする条項を設けることも考えられる。

 なお、ローン期間にわたりSPTsを意義のあるものとするべく、達成すべき基準であるSPTsに関し、各年毎にその水準を徐々に厳しくしているものが多く見受けられる(そのような基準を図表形式に纏めたものは、Sustainability Tableなどといわれる)。また、この点に関連して、サステナビリティ関連の条項の事後的な変更に柔軟性を持たせる観点から、前述のとおり事後的にサステナビリティ関連の条項を新たに組み込む場合と同様に、一般的な変更要件(その重要性に鑑み、全貸付人の合意が必要とされることが多い)より緩やかな要件で、例えば、3分の2以上の多数貸付人の合意により、KPIsやSPTsの変更を認める仕組みとされる例もある。

(2) スプレッドの変動メカニズム

 前述のとおり、借入人のサステナビリティに関する取組みを動機付ける観点から、SLLにおいては、スプレッド等の変動メカニズムが組み込まれることが通常である。そのため、少なくとも以下の点について検討を要する。

  1. スプレッド調整のトリガー(すなわち、SPTs。例えば、ESGスコアが●●以上、温室効果ガスの●年度における排出削減量が●トン以上など)
  2. 調整対象とする経済条件やファシリティ(下記(3)参照)、調整する水準
  3. SPTsの達成有無の確認方法(例えば、外部機関によるレポートなど。なお、サステナビリティ・コンプライアンス・サーティフィケートといった形で、借入人からSPTsの達成状況につき報告させることも多い)
  4. 変更後のスプレッドが適用されるタイミング(例えば、サステナビリティ・コンプライアンス・サーティフィケート提出後、●営業日以後に到来する利息計算期間からなど)
  5. SPTsの達成有無を確認できなかった場合(例えば、所定のレポートが期限までに提出されなかった場合)におけるスプレッドの取扱い
  6. 当初想定していなかった事象が生じた場合(例えば、利用している外部機関によるESGの格付手法が変更された場合)の取扱いなど

 なお、上記2.に関し、SPTsが一定の目標値に届かなかった場合にはスプレッドが上昇する仕組みも法的には可能である。もっとも、借入人のサステナビリティに関する取組みが上手くいかない場合に貸付人の収益が増加するという仕組みが妥当かという観点もあり、他の方法による動機付けも検討に値する(例えば、サステナビリティ・リンク・為替予約の事例であるが、「判定年度においてSPTを達成できなかった場合、事前に合意された内容で寄付を実施する」とする事例がある)。

(3) 調整対象とする経済条件・ファシリティ

 SLLは、一括実行型のタームローンのほか、分割実行型のタームローンや、一定の極度額の範囲内で借入・返済が繰り返されるコミットメントラインと組み合わせることも可能である。後二者の場合には、金利のスプレッドのほか、コミットメントフィーの料率についても、SPTsの達成度合と連動させる指標とすることがある。その他変動する経済条件については、貸付期間の延長、貸付金額の上限額増加など、様々にありうる。

(4) 貸付実行前提条件

 「SPTsは客観性が重要であり、その内容の適切性について、借り手は第三者の意見を求めることが望ましい」とされている(環境省GL第3章第2節2.⑨)。外部レビューによりSPTsの適切等を確認する場合には、かかるレビューの取得(レビュー結果を記した書面の提出)を貸付実行前提条件とすることが考えられる(SLLPガイダンス 2G.参照)。

(5) コベナンツ

 借入人は、「SPTsの達成状況に関する最新情報を入手できるように、少なくとも1年に1回以上、貸し手に報告するべきである」とされる(環境省GL第3章第2節3.①)。そこで、SPTsの達成状況について、定期的に(少なくとも1年に1回以上)の報告義務を設け、また、SPTsの達成状況を外部機関のレポートにより確認する場合には、当該レポートの提出義務を借入人に課すことが考えられる。さらに、場合によっては、外部機関が評価を行うために必要な情報を提出するよう、借入人に義務付けることも考えられる。SPTsの種類・内容やその達成状況を図る方法等を踏まえて、借入人の報告義務の内容を検討することになる。

(6) サステナビリティ・コーディネーター

 サステナビリティ・コーディネーター又はサステナビリティ・ストラクチャリング・エージェントといった者を設定し(環境省GL第3章第2節2.②及びSLLPガイダンス 3B.II.参照)、その者が、KPIsの選定やSPTsの設定に係る借入人との交渉をリードする案件もある。そのような者を設定する場合には、(一般に、ローン契約上、エージェントの責任などを規定するのと同様に)その責任などをローン契約に規定することが考えられる。

4. 終わりに

 SLLは、本邦においても急速に広が

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筆者

鶴岡 勇誠

鶴岡 勇誠(つるおか・たけのぶ) 

 2003年、東京大学法学部第一類卒業。2006年、第一東京弁護士会登録(59期)。2018~2019年、株式会社三菱UFJ銀行シンガポール支店出向。2022年1月1日、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 主な書籍・論文に、『金融機関の法務対策6000講 I-VI』(共編著、金融財政事情研究会、2022年)、「株式譲渡契約の売主のクロージング義務の有無が争われた裁判例のLBOにおける実務上の意義・留意点 ―東京地判令2.3.19の検討 -」(共編著、金融法務事情2173号、金融財政事情研究会、2021年)、「シンジケートローンの米国法上の証券該当性が争点となった近時の判決について ~Kirschner v. J.P. Morgan Chase Bank, N.A.の検討と日本法への示唆~」(共編著、国際商事法務Vol.49 No.2、国際商事法研究所、2021年)、「エクエーター原則/赤道原則(第4版)の概要とその意義」(共編著、 国際商事法務Vol.48 No.8、国際商事法研究所、2020年)、「[特集]ポストコロナ社会とこれからの法的リスク - 契約条項見直しの方向性」(共編著、Business Law Journal 2020年8月号、レクシスネクシス・ジャパン、2020年)、「LBOローン契約とIFRSをめぐる諸論点」(共編著、金融法務事情2136号、金融財政事情研究会、2020年)、「Lending and Taking Security: Japan」(共編著、Practical Law Global Guide 2018: Lending and Taking Security、Thomson Reuters, London, UK、2018年)、『ファイナンス法大全(下)[全訂版]』(共編著、商事法務、2017年)、『ファイナンス法大全(上)[全訂版]』(共編著、商事法務、2017年)「Practical Law Finance Global Guide 2017/18 (Japan Chapter)」(共編著、Practical Law Finance Global Guide 2017/18、Thomson Reuters、2017年)、『会社法実務相談』(共編著、商事法務、2016年)、『資産・債権の流動化・証券化【第3版】』(共編著、金融財政事情研究会、2016年)、「ヘルスケア施設に関する資金調達手法の多様化 - ヘルスケアリートその他の最新動向-」(共編著、旬刊商事法務2037号、商事法務、2014年)、『銀行窓口の法務対策4500講I~V』(共編著、金融財政事情研究会、2013年) などがある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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