東京地検、「桜を見る会」事件記録の閲覧を記者に許可
2022年04月26日
▽関連資料:安倍元首相地元秘書・配川博之氏の検事調書 「桜を見る会」事件記録抜粋
▽関連資料:安倍元首相地元事務所員丙の検事調書 「桜を見る会」事件記録抜粋
▽関連資料:安倍元首相東京秘書乙の検事調書 「桜を見る会」事件記録抜粋
▽関連資料:安倍元首相東京事務所員Bの検事調書 「桜を見る会」事件記録抜粋
▽関連資料:安倍氏が自民党総裁に返り咲いて間もない2012年10月9日に朝日新聞に掲載された記事「政治資金でクラブ・キャバクラ飲食代108万円 自民・安倍氏の政党支部」
▽関連記事:安倍前首相秘書に公民権停止3年、略式命令の書面開示
▽注:この記事の以下に続く本文は2022年4月26日午後1時6分に加筆したものです。
政治資金規正法の規定により、政治団体の会計責任者は毎年、その団体の前年の「すべての収入」「すべての支出」を記載した収支報告書を都道府県の選挙管理委員会や総務省に提出しなければならない。また、公職選挙法では、公職の候補者やその氏名が表示されている団体は、当該選挙に関し、選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない、と定められている。安倍氏が2020年9月に首相を退任すると、東京地検特捜部が捜査に乗り出した。同年12月24日、検察は、安倍晋三後援会の代表者で会計責任者でもあった地元秘書の配川博之氏(62)を政治資金規正法違反(不記載)の罪で略式起訴し、東京簡裁は即日、罰金100万円と公民権停止3年を同氏に言い渡した。
刑事訴訟法は「何人(なんぴと)も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる」と定めており(53条)、朝日新聞の編集委員だった筆者は翌25日、この事件記録の閲覧を請求する書面を東京地検総務部の記録担当に郵送した。この請求は年が明けて2021年1月8日付で受理された。同年3月12日、裁判書(簡裁が出した略式命令の書面とそれに引用された区検の起訴状)について閲覧が許可されたが、残りの記録は「現在、検察審査会に提出している」との理由でそのときは閲覧できなかった。
2022年4月25日午前、東京地検の記録担当から筆者に電話があり、閲覧一部不許可の決定が出たと知らされた。筆者は同日午後、地検を訪ねて記録を閲覧した。供述調書の東京地検以外の作成場所と求刑の内容、「被告人及び関係者の個人情報等」については、「保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められる」「保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められる」「検察庁の事務に支障がある」との理由で閲覧不許可となり、黒塗りとなっていたが、そのほかについては閲覧できた。
東京・永田町の議員会館の中にある安倍氏の事務所で勤務する秘書の供述調書によれば、2012年12月に安倍氏が首相に就任。翌2013年2月ごろ、「桜を見る会」の開催予定日を知り、山口県下関市の地元事務所にそれを連絡した。すると、地元秘書の配川氏から、「せっかく後援会員ら地元の支援者が桜を見る会に招待されて上京するのだから、安倍本人も呼んで、懇親目的の夕食会を開催したい」との要望があり、それに応じることになった。ホテルとの交渉は東京の事務所が担当し、会費は一人あたり5千円とすることにした。
この秘書の供述によれば、その前年の10月、安倍氏の地元の政党支部の収支報告書について、「朝日新聞が丹念に調べ上げて、福岡市内のいわばキャバクラ店などの接待を伴う飲食店で支出されていることを報じたことから、大問題となり、安倍も激怒して配川を厳しく叱責したという出来事」があった。
朝日新聞の記者は、山口県選管に出された政治資金収支報告書や、情報公開請求で入手した領収書の写しを分析し、2012年10月9日の夕刊社会面で次のように報道していた。
自民党の安倍晋三総裁が支部長を務める自民党山口県第4選挙区支部(同県下関市)が2009~10年に、クラブやキャバクラなどでの飲食代として108万5150円を政治資金から支出していた。同支部は「支部長本人は一切参加しておらず、秘書及び政党支部関係者の支出」と説明。そのうえで「党総裁の支部として誤解を招くことがあってはならない」として、秘書らが自主的判断で政党支部に全額を返金した。
東京の秘書の供述によれば、「そのようなこともあって、赤字となった夕食会の収支をそのまま収支報告書に載せた場合、寄附の問題が表面化しかねず、私と配川の間には、夕食会の収支をそのまま正直に収支報告書に載せて公表することなど到底できないという共通認識」があったという。
東京の秘書は、差額分の負担が寄附に当たらないとして問題を解消する理屈がないか頭をめぐらせ、自民党のコンプライアンス室にも相談した。その結果、「会場代」と整理する理屈を思いつき、地元事務所の配川秘書に電話で「後援会の主催として夕食会をやるけど、おそらくホテル側から会場代などとして請求が来て差額分が出てしまう。そうなったら寄附の問題となってしまうので、会場代という形で整理したいと考えている。ホテルから請求書が来たら送るから」と伝えた。すると、配川氏は「うーん?、そうなの」と言い、「まあ、契約は東京でやってるんだから、請求書が来たら、そこも含めて考えてもらわんと」と答えたという。配川氏の受け答えに東京の秘書は、本当に「会場代」との理屈が通用するのかと疑問を持っているようだと感じたという。
ところが、東京の秘書らが段取りをした夕食会では、後援会の持ち出しが生じ、公職選挙法で禁止されている寄附と見られかねない収支となってしまうというようなことになると聞いて、配川氏は「私が実践し経験してきたようなやり方とは違う」「私が自ら責任を持って契約を担当する宴会であれば、後援会の持ち出しなど出ないようにするのにな」「何をやっているんだ東京は」と思ったという。
東京の秘書の供述調書によると、東京の秘書は「適法な打開策」を考えつくことができず、後援会の収支報告書の記載については、その責任者の配川氏の判断に任せるほかなく、「うまくやってほしい」と思ったという。「いわば問題解決を先送りするような認識」だった。問題をどう扱うかについて結局、東京の秘書と配川氏はきちんとした話し合いをしないまま、詰めないままにしてしまった。東京の秘書は、ホテル側から渡された請求書を配川氏ら地元事務所に送ることさえしなかった。配川氏の供述調書によると、配川氏も請求書を確認しようとしなかった。
配川氏の部下の事務員の供述調書によれば、2014年2月ごろ、後援会の収支報告書を作成を始めた際に配川氏に前年春の「桜を見る会」前夜祭の収支を記載しなくてよいか相談したところ、配川氏から「載せんでもええけぇ」と言われたという。その事務員は「収支報告書に記載しておかないと、誰かに突っつかれ、いずれ問題になるんじゃないか」と思ったものの、配川氏の指示に従った。
東京の事務所の事務員の供述調書に寄れば、ホテルへの支払いについては、秘書から「下から払って」と指示され、事務所の「引出」の下段に保管していた現金から支払った。この現金は安倍氏や秘書から不定期に預かってきたもので、安倍氏の個人的な食事代やゴルフ代、昭恵夫人の交通費に充てられたり、安倍氏のいずれの関係政治団体の支出とするかすぐには決められない支払いにひとまず充てられたりするための「ある程度幅をもって使うために管理しているプール金のようなもの」だったという。
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