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安倍元首相秘書「シビアな問題になりかねない」と違法な不記載

東京地検、「桜を見る会」事件記録の閲覧を記者に許可

奥山 俊宏

拡大「桜を見る会」であいさつする安倍晋三首相(中央)=2019年4月13日、東京都新宿区の新宿御苑(代表撮影)
 安倍晋三元首相の政治団体「安倍晋三後援会」の政治資金収支報告書に「桜を見る会」前夜祭の収支を記載しなかったとして安倍氏の秘書が政治資金規正法違反(収支報告書不記載)の罪に問われた事件で、東京地検は25日、刑事確定訴訟記録法に基づき秘書らの供述調書を含む記録の閲覧を取材目的のジャーナリストに許可した。厚さ10センチ余りのファイル1冊に綴じられた記録のコピーを閲覧したところ、▽ホテルへの前夜祭費用の支払いを安倍事務所の「プール金」の現金から工面していたこと、▽地元・山口県下関市にある安倍氏の政党支部の収支報告書にキャバクラへの支出が記載されていることを2012年に朝日新聞で報じられて安倍氏が激怒し、地元秘書を叱責する出来事があり、それもあって、東京の秘書が翌13年の「桜を見る会」前夜祭の支出について「公職選挙法で規制された寄付に該当し、マスコミに取り上げられてシビアな問題になりかねない」と考え、それが不記載のきっかけとなったこと、▽地元秘書が東京の秘書に「何をやっているんだ東京は」「甘い対応をしたせいで地元事務所側にしわ寄せが来た」などと不信感を抱き、相互の連絡があまりなく、ずさんな経理処理につながったこと――などの背景事情が浮かび上がっていた。この事件の刑事手続きは略式起訴と罰金刑で決着したため公判が開かれておらず、秘書らの生々しい供述の詳細が公開の場に出るのは初めてだとみられる。

拡大「桜を見る会」の会場に到着した安倍晋三首相(中央)と昭恵夫人=2013年4月20日午前9時1分、東京都新宿区の新宿御苑、関田航撮影
 東京・新宿御苑で税金を使って毎年春に開かれていた首相主催の「桜を見る会」に、安倍晋三首相の後援会関係者が大勢招待されていることは2019年10月、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版のスクープで発覚した 。安倍氏の政治団体「安倍晋三後援会」が主催して「桜を見る会」の前日夜に東京都心の高級ホテルで開かれる夕食会の収支が政治資金収支報告書に記載されておらず、政治資金規正法違反の疑いがあることもこの記事の中で指摘された。さらに、この夕食会の参加代金は一人5千円で、それだけでは高級ホテルでの夕食会の費用を賄えるはずがなく、その差額は安倍氏側から選挙区の有権者に対する寄附に当たり、公職選挙法に違反するのではないかとの指摘もなされるようになった。

 政治資金規正法の規定により、政治団体の会計責任者は毎年、その団体の前年の「すべての収入」「すべての支出」を記載した収支報告書を都道府県の選挙管理委員会や総務省に提出しなければならない。また、公職選挙法では、公職の候補者やその氏名が表示されている団体は、当該選挙に関し、選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない、と定められている。安倍氏が2020年9月に首相を退任すると、東京地検特捜部が捜査に乗り出した。同年12月24日、検察は、安倍晋三後援会の代表者で会計責任者でもあった地元秘書の配川博之氏(62)を政治資金規正法違反(不記載)の罪で略式起訴し、東京簡裁は即日、罰金100万円と公民権停止3年を同氏に言い渡した。

 刑事訴訟法は「何人(なんぴと)も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる」と定めており(53条)、朝日新聞の編集委員だった筆者は翌25日、この事件記録の閲覧を請求する書面を東京地検総務部の記録担当に郵送した。この請求は年が明けて2021年1月8日付で受理された。同年3月12日、裁判書(簡裁が出した略式命令の書面とそれに引用された区検の起訴状)について閲覧が許可されたが、残りの記録は「現在、検察審査会に提出している」との理由でそのときは閲覧できなかった。

 2022年4月25日午前、東京地検の記録担当から筆者に電話があり、閲覧一部不許可の決定が出たと知らされた。筆者は同日午後、地検を訪ねて記録を閲覧した。供述調書の東京地検以外の作成場所と求刑の内容、「被告人及び関係者の個人情報等」については、「保管記録を閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められる」「保管記録を閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められる」「検察庁の事務に支障がある」との理由で閲覧不許可となり、黒塗りとなっていたが、そのほかについては閲覧できた。

 東京・永田町の議員会館の中にある安倍氏の事務所で勤務する秘書の供述調書によれば、2012年12月に安倍氏が首相に就任。翌2013年2月ごろ、「桜を見る会」の開催予定日を知り、山口県下関市の地元事務所にそれを連絡した。すると、地元秘書の配川氏から、「せっかく後援会員ら地元の支援者が桜を見る会に招待されて上京するのだから、安倍本人も呼んで、懇親目的の夕食会を開催したい」との要望があり、それに応じることになった。ホテルとの交渉は東京の事務所が担当し、会費は一人あたり5千円とすることにした。

拡大不記載の構図=2020年12月26日の朝日新聞朝刊に掲載されたイラスト
 その際、東京の秘書は「その程度の会費を集めたところで、おそらくその会費の総額では、ホテルとの契約で決まる会場代などを含めた宴会一式全体の代金を賄うことはできないだろう」と思い、「その不足分を安倍側で補った場合、公職選挙法で規制された寄附に該当し、そのことが発覚して問題視されるおそれがあるので、対策をよく考えておかなければいけない」と考えたという。「何ら手当てもしないまま、その差額分が分かるような形で後援会の収支報告書に載せてしまえば、その差額分について、夕食会の参加者である安倍の地元有権者に対する後援会による寄付であるなどと指摘を受けて、マスコミなどで取り上げられて大きな問題となりかねない」「公職選挙法上の寄附の問題については、シビアな問題となりかねない」と考えたという。

 この秘書の供述によれば、その前年の10月、安倍氏の地元の政党支部の収支報告書について、「朝日新聞が丹念に調べ

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筆者

奥山 俊宏

奥山 俊宏(おくやま・としひろ) 

 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部、特別報道部などで記者。2013年から朝日新聞編集委員。2022年から上智大学教授(文学部新聞学科)。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。近刊の著書に『内部告発のケーススタディから読み解く組織の現実 改正公益通報者保護法で何が変わるのか』(朝日新聞出版、2022年4月)。
 著書『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)で第21回司馬遼太郎賞(2017年度)を受賞。同書に加え、福島第一原発事故やパナマ文書の報道も含め、日本記者クラブ賞(2018年度)を受賞。 「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞を受賞。
 そのほかの著書として『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)がある。共著に『バブル経済事件の深層』(岩波新書、2019年4月)、『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社、2019年4月)、 『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
 ご連絡はokuyamatoshihiro@gmail.com または okuyama-t@protonmail.comに。メールの内容を暗号化する場合はPGPで。パブリックキーのIDは7D2BAD43550EAD96

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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