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医療法人の事業再生・事業承継における株式会社の関与

新保 勇一

拡大新保 勇一(しんぼ・ゆういち)
 1996年、東京大学教養学部卒。2005年、第二東京弁護士会登録(58期)。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。

1. はじめに

 わが国は高齢化の進展が著しく、2025年には団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に達し、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上になるとされている。また、高齢者人口の増加により医療費・介護費などの社会保障費が大幅に増加するいわゆる「2025年問題」もかねてより指摘されている。このような高齢化の進展に伴い、特に高齢者向けを中心に医療・介護サービスへの需要が今後ますます増加することが見込まれているが、一方で、社会保障費の増大に伴う医療費の抑制等、医療法人の経営をめぐる外部環境は厳しさを増している。また、病院の機能再編や施設の老朽化による病棟建替とそのための資金調達、病院経営者の高齢化による後継者問題等、個別の経営課題を抱える医療法人も少なくない。事業承継の見通しが立たないために理事長が高齢化し、経営戦略も明確に決められずに経営状態が悪化していく事例も見受けられる。足下では新型コロナウイルス対策による補助金や融資促進の影響により医療法人の業績はやや一服している感があるが、中長期的には医療法人の事業再生や事業承継が重要性を増していくことは明らかである。

 そのような中、医療法人の事業再生や事業承継の局面において、資金的な観点や経営効率化の観点等から株式会社の資金やノウハウが期待されるところであり、事業会社や投資会社等による実際の検討事例や取組事例も増えているが、株式会社による医療法人への関与は法令上の制約が大きい。そこで、以下では、医療法人の事業再生・事業承継における株式会社の関与の可否や留意点について概説したい。

2. 医療法人の特殊性

 医療法人の事業再生や事業承継等を検討する場合、その前提として医療法人制度の特殊性を理解する必要がある。

(1) 医療法人の種類

 医療法人は、病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団で、医療法の規定に基づき設立された法人である(医療法39条1項)。医療法人は、以下のように分類される。

 ① 社団医療法人と財団医療法人

 医療法人は、最も基本的な区分として、「社団医療法人」と「財団医療法人」に区分される。社団とは人の集まり、財団とは財産の集まりのことである。なお、法人数としては社団医療法人が圧倒的多数を占めていることから、以下では、社団医療法人を中心に述べるものとする。

 ② 出資持分のある医療法人と出資持分のない医療法人

 社団医療法人は、出資持分の有無の観点から、「出資持分のある医療法人」と「出資持分のない医療法人」に区分される。出資持分のある医療法人とは、その定款に出資持分に関する定めを設けているものをいう。出資持分は、医療法上は「持分」と呼ばれ、「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利」と定義されている。平成18年の第5次医療法改正により、出資持分のある医療法人の新規設立はできなくなったが、既存の出資持分のある医療法人については、当分の間存続する旨の経過措置がとられている。

(2) 医療法人のガバナンス

 次に、医療法人の特殊性として理解しておく必要があるのは、法人のガバナンスの制度である。社団医療法人は、社員総会、理事、理事会及び監事を置かなければならない(医療法46条の2第1項)。

 社員総会は、医療法人の最高意思決定機関である。社員総会は、理事・監事の選任権を有するほか(医療法46条の5第2項)、定款変更、基本財産の設定・処分、事業計画の決定・変更、収支予算・決算の決定・変更、重要な資産の処分、借入金額の最高限度の決定、社員の入社・除名、社団の解散、他の医療法人との合併・分割契約の締結又は分割計画の決定その他重要な事項について決議する。

 社員は、社員総会において一人1個の議決権を有している(医療法46条の3の3第1項)。この点、出資持分のある社団医療法人であっても、出資額や持分割合にかかわらず、一人1個の議決権しか有しない点に留意が必要である。なお、出資持分のある社団医療法人において、社員は出資者である必要はない。また、社員は自然人及び非営利法人に限られる点も重要である(例えば、株式会社は社員になれない)。

 他方、理事会は、全ての理事で組織され(医療法46条の7第1項)、医療法人の業務執行の決定、理事の職務の執行の監督、理事長の選出及び解職を行う(同条2項)。医療法人は、原則として、3名以上の理事を置かなければならない(医療法46条の5第1項)。また、医療法人の理事のうち1人は、理事長とし、原則として、医師又は歯科医師である理事のうちから選出する(医療法46条の6第1項)。

(3) 非営利性の原則

 医療法人は、地域で質の高い医療サービスを効率的に提供する目的を実現するため、法人の対外的活動による収益を前提としてその利益を構成員に分配することを目的としないことが求められる。このようないわゆる「非営利性の原則」は、医療法人の大原則となっている。具体的には、医療法人においては、剰余金の配当は禁止されている(医療法54条)。ここでいう「配当」には、通常の利益配当のみならず事実上の利益の分配とみなされる行為が含まれるものと解されている。また、営利目的は医療機関開設の認可拒否事由とされている(医療法7条6項)。

3. 医療法人の事業再生と株式会社の関与

 医療法人の事業再生の局面においては、株式会社が資金面あるいは事業面でのスポンサーとして医療法人を支援することが考えられる。この点、医療法人の非営利性の原則があるため、基本的には、医療法人の事業を株式会社が承継したり、医療法人の経営を株式会社がコントロールすることは想定されていないということになるが、一方で、株式会社の資金やノウハウが求められるというニーズは存在する。そこで、実務上は、株式会社が医療法人を実質的にコントロールできるか、また、株式会社が医療法人の経営に関与できるかといった点が問題となる。

(1) 株式会社による医療法人の経営への関与

 社団医療法人は、前述のとおり、社員総会が医療法人の最高意思決定機関であって、各社員が社員総会において一人1個の議決権を有している。また、理事会が医療法人の業務執行の決定、理事の職務の執行の監督、理事長の選出及び解職を行うものとされており、理事長が医療法人の日常の運営を行う役割を果たしている。

 このような経営の仕組みにおいて、医療法人が経営不振となった場合、株式会社が経営に関与する方法は考えられるであろうか。まず、医療法人の社員は自然人及び非営利法人に限定されているため、株式会社自体は社員になることはできない。また理事も自然人であることが前提となっているため、株式会社が理事になることもできない。そこで、株式会社が社員総会や理事会をコントロールするために社員総会や理事会における過半数の決議を確保する方策として、株式会社の役員、従業員、あるいは何らかの関係者が医療法人の社員又は理事に就任することが考えられる。

 この点、厚生労働省の通知により、医療法人の役員は、医療法人の非営利性の観点から、医療機関の開設・経営上利害関係のある営利法人等の役職員を兼務することが原則として禁止されている(平成5年2月3日総第5号・指第9号厚生省健康政策局総務課長・厚生省健康政策局指導課長通知「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(最終改正平成24年3月30日))。例外的に、一定の要件を満たした場合に兼務が認められているが、かかる例外要件は、以下のとおりである。

利害関係の内容共通の要件個別の要件
1 営利法人等から物品の購入・賃貸をしている又は役務提供を受けている場合 ①営利法人等の役職員が医療法人の役員(監事を除く)の過半数を兼務していないこと
②医療機関の非営利性に影響を与えることがないこと
以下のいずれも満たす場合
①営利法人等の規模が小さく、役職員の変更が直ちには困難であること
②契約の内容が妥当であること
③営利法人等の役職員を兼務している医療法人の役員が理事長でないこと
2 営利法人等から土地又は建物を賃借している場合 以下のいずれも満たす場合以下のいずれも満たす場合
①営利法人等の規模が小さく、役職員の変更が直ちには困難であること
②契約の内容が妥当であること
3 株式会社企業再生支援機構法又は株式会社東日本大震災事業者再生支援機構法に基づき支援を受ける場合であって、両機構等から事業の再生に関する専門家の派遣を受ける場合 両機構等の役職員を兼務している医療法人の役員が理事長でないこと
4 営利法人等との取引額が少額である場合 なし なし

 以上のような医療法人の役員の兼務に係る規制を踏まえると、株式会社がその役職員を理事として就任させることができるのは、非常に例外的な場面に限られる点に留意が必要である。医療法人の事業再生の局面で、株式会社が関与するケースとしては、資金支援(貸付や不動産のセール・アンド・リースバック取引等)や経営支援(コンサルティング)などが考えられるが、そのようなケースでは、株式会社と医療法人との間の取引関係が前提となることから、株式会社は「利害関係のある営利法人」に該当することになる。そのため、その株式会社の役職員が医療法人の役員となることは原則として許されないことになる。

 この点、例外の要件については、利害関係の内容が企業再生支援機構や東日本大震災事業者再生支援機構からの専門家派遣の場合(例外3)は、その要件該当性が明確である。しかしながら、利害関係の内容が営利法人からの物品の購入・賃貸・役務提供(例外1)・土地建物の賃借(例外2)の場合や営利法人との取引額が少額である場合(例外4)は、その要件該当性を明確に判断することは難しい面がある。特に、「営利法人等の規模が小さく、役職員の変更が直ちには困難であること」という要件は、当該通知が発令された当時において既に利害関係のあった営利法人を想定しているとも解され、また、そのような想定ではなく発令後に利害関係を有することになった営利法人を含むとしても、役職員の変更が可能になるまでの暫定的な例外措置にすぎないとも思われる。そのため、この例外要件の充足については特に慎重な判断を要する。

 他方、株式会社がその役職員を医療法人の社員とすることについては、法令上明文の制限はなく、役員兼務を規制する厚生労働省の通知にも形式的には抵触しない。しかしながら、厚生労働省の通知が非営利性の観点から役員兼務を規制していることに鑑みると、医療法人の経営における重要な機関である社員総会を構成する社員について、その兼務禁止の趣旨が全く及ばないとは考えにくいところである。したがって、株式会社がその役職員を医療法人の社員とする場合には、医療機関の非営利性に影響を与えることがないようにする観点から、社員構成や社員の属性について慎重に検討する必要がある。

(2) 株式会社による出資持分の取得

 それでは、株式会社が医療法人の出資持分を取得することは、医療法人の非営利性との関係で許されるであろうか。この点、医療法には出資持分の譲渡に関する規定はなく、実務上、定款に反しない限りは出資持分を有効に譲渡することが可能と解されている。また、出資持分のある医療法人の新規設立が認められなくなった平成18年の医療法改正以前の行政解釈ではあるが、株式会社その他営利法人が出資持分の定めのある医療法人に対して出資をすることは可能であると解されている。したがって、株式会社が医療法人の出資持分を取得することも、定款に反しない限りは許されると解するのが合理的である。

 次に、株式会社が医療法人の出資持分を取得した後、その出資持分の払戻しを受けることができるかが問題となる。出資持分は、定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利である。厚生労働省の旧モデル定款では、社員は退社により社員の資格を失うものとされ(7条)、社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができるとされている(9条)。したがって、定款にこの旧モデル定款と同様の規定がある場合には、社員である出資者は、退社することにより出資持分の払戻しを受けることができる。しかしながら、株式会社は出資持分を有していても社員となることができないため、社員資格を喪失することに合わせて出資持分の払戻しを受けることはできない。つまり、出資持分を有する株式会社は、医療法人が解散した場合の残余財産分配しか受けられないことになる。

 一方、株式会社が有する出資持分を第三者に譲渡することは定款に反しない限り有効であると解されていることから、株式会社は、窮境状態に陥った医療法人の出資持分を譲り受け、経営改善を図った後に出資持分を譲渡するという形で医療法人に関与する可能性があることにはなる。ただし、出資持分自体には医療法人の経営に関与する権能が含まれていないため、株式会社は経営に全く関与できないことに留意が必要である。また、出資持分の取得に合わせて、株式会社の役員や従業員等が医療法人の社員・理事に就任しようとする場合の制約や留意点は前述のとおりである。

4. 医療法人の事業承継と株式会社の関与

 医療法人の事業承継の手法としては、①出資持分譲渡と社員交替、②合併、③分割、④事業譲渡が挙げられる。

(1) 出資持分譲渡と社員交替

 ①出資持分譲渡と社員交替は、医療法上特に定められた手続ではないが、実務上は、出資持分のある医療法人の場合に最もよく利用される方法である。出資持分の譲渡は、出資持分譲渡契約により出資者の出資持分を譲受人に承継するものである。また、株式会社における株式と異なり、出資持分には法人に対する経営権が含まれていないため、出資持分の譲渡に加えて、医療法人の社員の交替を行う必要がある。具体的には、医療法人において旧社員の退社と新社員の入社の手続を行い、新社員が総社員数の過半数を占めて社員総会の多数決決議を可能とすることにより、医療法人の経営を実質的に新社員に移転する形で行われる。なお、社員総会は医療法人の最高意思決定機関であるが、医療法人の日常の運営は理事及び理事会によって行われるため、経営の把握のために、必要に応じて旧理事の辞任と新理事の選任の手続が行われる。

 この点、前述のとおり、社員は自然人と非営利法人に限られているため、医療法人等の非営利法人が事業承継を受ける場合は、当該非営利法人やその役職員等の自然人を社員とすることにより経営権を把握する方法が考えられる。ただし、その場合、当該非営利法人は事業承継の主体そのものとはいえず、あくまで自然人等を通じた人的関係を基礎とする方法によって実質的に経営権を承継したにとどまるという点に留意が必要である。また、前述のとおり、営利法人は社員になることができない上、当該営利法人の役職員等の自然人を社員とすることにより経営に関与することについては、医療法人の非営利性の観点から一定の制約があると考えられる。そのため、①出資持分譲渡と社員交替については、株式会社は形式的に事業承継の主体とはなりえず、自然人等を通じた人的関係によって実質的に事業承継の主体となるという方法についてもハードルがあることになる。

(2) 合併・分割・事業譲渡

 医療法人の②合併と③分割は、医療法上の制度であり、株式会社の合併や会社分割と類似の制度である。もっとも、合併や分割の当事者は医療法人に限定されており、株式会社がこれを利用することはできない。

 また、④事業譲渡は、医療法上の制度ではないものの、実務上は株式会社と同様に事業譲渡を行い、併せて許認可を承継する(実際には、病院であれば譲渡法人における病院の廃止届と譲受法人における病院開設許可の新規取得)という方法が行われている。しかしながら、病院の事業譲渡における譲受法人は、許認可の関係で医療法人等の非営利法人でなければならないため、株式会社が譲受法人になることはできない。

 以上のとおり、医療法人の事業承継において、株式会社は直接的に承継の主体となることはできない。また、出資持分譲渡と社員交替のスキームについては、対象法人の社員・役員という自然人等を通じた人的関係を基礎とする方法によって実質的に経営権を承継するという方法があり得るが、株式会社の場合はハードルがある。

5. おわりに

 医療法人の事業再生や事業承継の

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筆者

新保 勇一

新保 勇一(しんぼ・ゆういち) 

 1996年、東京大学教養学部卒。2005年、第二東京弁護士会登録(58期)。2022年1月、西村あさひ法律事務所パートナー就任。
 共著に『ファイナンス法大全(上)[全訂版]』(商事法務、2017年8月)、『[新版]病院&高齢者住宅の事業評価・デューデリジェンス資料集』(綜合ユニコム、2017年7月)、『REITのすべて〔第2版〕』(民事法研究会、2016年12月)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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